9・目覚め
「おはよう」
彼女は目を覚ますと、二人の子供がそこにいた。子供はフードを深くかぶっているものだから、表情がよくわからない。しかし、その口調はどこか楽しそうだ。
それとは逆に彼女の顔色は悪い。まだ寝起きといわんばかりにぼんやりしている。
「久しぶりの肉体はどうだい?」
子供の言葉で彼女の意識が鮮明になっていく。子供から閉じたり開いたりしている自分の手を見て、自然と笑みが浮かんでくる。
「いいものね」
先ほどまで虚ろだったはずの目が輝きを放ち、不気味に微笑む。
「ても完璧じゃないよ」
子供の一人が言った。
「そうね。あいつを……。あいつを消さないと彼は戻ってこない」
「そうだね。ほら、あの子ならあそこにいるよ」
子供の一人が指を差す。その方向、人混みの中で一人の少女が走っていく姿が見える。
「そ~の~だ~せ~ん~ぱ~い~」
彼女がそうつぶやくと、聞こえたのだろうか。園田がこちらを振り向く。その顔はすごく青ざめている。すぐに背を向けた園田がさっきよりもスピードをあげてかけていく。
「ほら、鬼ごっこをはじめなさい」
子供の一人がいうと、彼女は少女へ歩き出す。
ゆらりゆらりと操り人形のように定まらない足取りで人込みの中を歩いていく。不自然な歩き方をしているのに、だれも気づかない。
普通ならば、走っている園田に追い付けるはずがない歩き方なのたが、その速度はけっこうはやく、一瞬のうちに彼女の姿は交差点の向こうにたどり着いていた。
「ど~こ~~?せ~ん~ぱ~い」
彼女は交差点をわたりきったところで左右を見た。
「ふーん。高みの見物?」
その様子をみていた子供が別の方向へと視線を向ける。
そこには フードをかぶった青年とフランス人形をもつ少女がいる。
「そうね」
「邪魔しないんだね。これから何が起こるか想像つくのに?」
「邪魔したのはどちらかしら?」
「なにをいっているの? 僕らは邪魔なんてしてないよ。ちょっと拝借しただけだよ。いい感じでいたからね」
「悪趣味ね。あなたたちは」
少女は不機嫌そうな顔をする。
「それはお互い様だよ。覚えておくといい。僕らはチャンスがあれば、いつでも奪いにくる」
そういうと、フードをかぶった二人の子どもがこつぜんと消えた。
「あら、もういなくなるの」
「僕らの仕事はここまでだよ。あとは、僕らの領域じゃない。まあ、“彼”とは遊びたかったけど、今度にするよ。そこのお兄さん怖い顔しているからね」
声だけが響き渡る。
「もう、わけがわからないわ」
少女はため息を漏らす。
「俺達もいくぞ」
「はーい。がんばってね」
少女は楽しそうに笑った。
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