10・過去の記録

「葉山麗。当時中学三年生。二年前、母校の西松羅中学の屋上から飛び降り自殺しているみたいね」


 桜花はパソコン画面に映し出された警察の調書を読み上げている。本来ならば、警察以外の一般人が読むようなものではない。それをあの刑事が持ってきた。もしも、それを警察側が知れたならば、ただではおかない事態になるかもしれない。


 しかし、そんなことはお構いなく、彼らはその調書を読み上げていく。


「いじめによる自殺。よくある話ね」


「ほかにはなにか書いてあるか。例えば、いじめていたやつの名前とか」


「それはばっちり。彼女はとくに遺言は残していなかったみたいだけど、この事件にも『特殊怪奇捜査室』が調べていたみたいね」


「はあ。そういうのも担当してんのか? 芦屋はんたちは……」


「まあ、大概は雑用しているみたいよ。あとは興味があれば、独自で調べているって感じね」


「独自って……。自由なんだな」


「あそこの部署は刑事総監の息がかかっているらしいのよ。だから、組織に属しながら自由に捜査しても黙認されていると話よ」


「詳しいな。お前」


「店長がそう言っていたわ。まあ、不満を持つ人もいるみたいだけどね」


 そういうことか。


 どんなふうにあのバカ店長は桜花に話したのだろうか。


いやそもそも刑事でもない彼がなぜ詳しいのかも謎だ。尚孝が話した可能性もあるのだが、そういうことを町の骨董店の店長に話したりするのだろうか。あの尚孝の性格ではありえないことだと朝矢は考える。


いい加減な店長に比べて、尚孝は真面目な男だ。彼が話したとはかぎらない。


そんなことはどうでもいいことだ。


それよりもやるべかことがあるのだと、朝矢は切り替える。



「いじめの首謀者は……」


「トモ兄いいいいいい」


 桜花がなにかをいおうとしたときに、ナツキが帰ってきた。


「もらってきたよお」


 山男から降りると、ナツキは紙きれを高く上へと上げて、旗のようにふって見せた。


 紙切れは短冊に切られ、それには文字が書かれていた。


 けれど、それは筆で書かれた行書体のうえに続け字。


「達筆過ぎてよめへんなあ」


 成都がそう突っ込む。


「別にいいじゃないの。文字なんて読む必要ないじゃないの」


 そんな会話を聞きながら、朝矢はその札を受け取った。


「さてと、いくか」


「どこへ?」


「アヤカシ退治に決まっているだろう」


「うん。急いだほうがいいよ。いやな感じビンビン。もうそろそろ暴走するかもね」


 ナツキは楽し気にいった。


「そうね。急いだほうがいいかもしれないわ」


「場所の特定頼む」


「まかせて」


 桜花は再びパソコン画面をみながら、キーボードを叩いた。



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