3・人気者
「秋月先輩――かっこいい」
「秋月くーん♡」
黄色い声に振り向くと、体育館の真ん中を仕切るネットを掴んで少女たちがバレー部のほうへ熱い視線を送っていた。
「相変わらずの人気よねえ」
バレー部が人気いるというよりも、バレー部のエースである秋月亮太郎が異様にモテているにすぎない。
仕切りネットだけでなく、体育館の入り口や二階の通路にも秋月めあてのギャラリーが多くいる。
秋月は高く飛んだボールを見ながら、助走をかける。バレーネット近くへくるとジャンプしてボールをネットを挟んで向こうのコートへ打ち付ける。
バーンという音ともにスパイクが決まると歓声があがる。
「もううるさいいいいい」
「確かにうるさいけど、女子たちがあんなに騒ぐのもわかるわ。背も高いし、顔もいい。頭脳明晰で運動神経抜群」
「確かにそうね。どこかの馬鹿とは大違い」
「なんだよ。それ。それって俺のこといってんのか?」
樹里の言葉に弦音はむっとする。
「別にいってないわよ」
「いってる。ぜったいに」
「はいはい。喧嘩しないでね」
麻美が険悪なムードになりそうな二人の間に入った。
「別に喧嘩していないわよ。それよりも結局なにしにきたの?あんた」
「あのなあ。今日は11時から文化祭の話しあいだぞ」
樹里ははっとする。
「あっ、そうだったわ。忘れていた。ごめん」
「そうだ。そうだ。もうすぐ11時だぜ。早くいかないと」
「けど、杉原はそういうことに関しては覚えているわよね」
「どういう意味だよ」
麻美の言葉に、
「確かに、実行委員なんて面倒なもの。よく引き受けたわね」
「樹里もでしょ」
「仕方ないじゃない。くじ引きだもん」
「そうね」
「でも、杉原が当たって、あっさり引き受けるとは思わなかったわ。絶対に拒むと思ってたもん」
「樹里……。その理由教えようか?」
「え?」
「おい、まてえ」
弦音は血相を変え、麻美の言葉を遮った。
「ツル。お前も実行委員なのか?」
樹里がどうしたのかと尋ねようとすると別の方向から声がした。
振り向くと、体育館の真ん中を二つに区切っているネットを片手でつかみながら、女子の注目の的である
弦音は、グッドタイミングだぜ!と言わんばかりにガッツポーズをしていると、亮太郎が首を傾げる。
「いやいや、気にするな。亮太郎」
「は?」
「それより、お前も実行委員会なのか?」
「ああ。言わなかったっけ?」
「いま、聞いた。それよりも急ごう」
「そのつもりだよ」
秋月は、バレー部たちのほうを振り返り、委員会にいってくることを告げる。
そして、 体育館を出ていく。それと同時に女子たちの興味はバレー部からに一機に失い、各々の場所へと戻っていった。残された男子バレー部はどこか寂しそうに見える。
目的が秋月だったとは知っていても、あっさりと去られるのは寂しいものだ。
「ツル。いこう」
靴を履き替えた秋月が弦音に話しかける。
「ああ。先いくぞ。江川」
「うん」
弦音は秋月と一緒に体育館を出ていった。
「凸凹ね」
麻美がつぶやくと、樹里が怪訝そうに振り返る。
「秋月君と杉原くんって凸凹よね」
樹里は一年のころを思い浮かべる。弦音と秋月とは一年のころ同じクラスだった。中学が違うからはじめこそ、そんなに゜仲良いわけではなかったのだが、いつの間にか一緒につるむようになっていた。美少年のモデル体型の亮太郎と小柄でどこにでもいそうな平凡な顔立ちの弦音とでは凸凹だというのは一年のころから話題になっていた。
「でも仲いいんでしょ?」
「うん。一年のとき同じクラスだったし、後藤くんや白石くんたちとかとよくつるんでいたわよ」
樹里が答えた。
後藤と白石というの弦音り友人たち。この二人はいまも同じクラスだからよく一緒にいるところを見かけるが、秋月と弦音に関してはクラスが違うせいか、話をすることも減っていた。
「そりよりもおお。樹里おおお」
樹里が麻美を見るとなぜかニヤニヤと笑っている。
「あの二人なら」
「……考えたことないわね。まあ、秋月君のほうがイケメンだとは思うけど……」
「杉原くんは?」
「ただの馬鹿」
表情ひとつ変えずにあっさり答える樹里に麻美は苦笑する。
「大変だわね。杉原くん」
「はい? なにかいった?」
どうやら、最後の言葉は聞こえていなかったようだ。
「なんでもない。それよりも急いだほうがいいわよ。もうすぐ11時」
「うん。ごめんね。麻美。後はまかせたわ。12時になったらあがっていいから」
「そうするわ」
樹里は慌てて体育館を飛び出した。
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