4・考えたことはない
もうどうしてそんなこと聞くかなあ。
たしかに意識したことはない。
秋月はイケメンだなあと思うけれど、別にミーハーになるほどでもない。杉原に関しても、それなりに仲のいいクラスメートだとは思う。
けど、正直タイプではない。
背も低いし、バカだし。
「そんなこと考えている場合じゃないわ。急がないと」
体育館を出たのは11時55分。
学校の敷地はそれなりに広い。体育館から会議室までの距離はそれなりにあるが五分もあれば歩いてでも余裕でつける。
それでも急ぎ足になってしまうのは、今年の実行委員担当の先生が律儀な人だからだ。常に五分前行動がモットーで開始時刻の三分前に来ても、あと二分早く来いと言われる始末だ。ならば、最初から11時集合ではなく10時55分集合だといってほしいものだ。
そんな細かい時刻出すような人はあまり見たことはない。律儀な先生でもそこはキリのいい時刻をいうだろう。
怒られるだろうか。
しかもネチネチというに違いない。
とにかく急がないといけない。
余計なことを考えるのをやめて、樹里は足早に廊下を歩いていく。
けれど、一つ不満はある。
文化祭をするのはいいが、なぜ夏休み返上で準備をしないといけないということだ。部活の大会も近いというのに、それと並行してそちらの準備。
去年はいい。
自分は実行委員でもなんでもなかったからだ。
けれど、今年は運悪く文化祭の実行委員になってしまった。
やる気はなかった。
クラスで進んでやる人がおらず、結局はくじ引きというもので実行委員を決めることになった。クラスは40人中男が22人。女が18人。クラスから男女一名ずつ選出されることになる。やりたいなら、立候補すればよかったんじゃないかと思う。
ちょうど教室棟と特別棟をつなぐ渡り廊下。
そんな愚痴を心の中で叫んでいたせいか。周囲にまったく気づいていなかった。
案の定、人にぶつかってしまった。その反動で後方へバランスを崩して座り込んでしまった。
「いたっ。すみません」
樹里が据わったまま上を見ると、一人の青年がこちらを見ていた。見覚えのない長身の青年。切れ長の目で白い肌。ウェーブがかった茶色い髪。年は樹里よりもいくつか年上のようだが、先生には見えない。
彼は樹里を見るなり、右手を差し出した。
樹里はハッとしてすぐに起き上がる。
「大丈夫です。すみません」
樹里は一度会釈すると青年の横を通り抜けていく。それを青年が視線だけで追いかけていた。
だれだろう。
この学校ではみたことがない顔。
そんなこといっている場合じゃない。急がないと……。
樹里はそれ以上青年のことなど気に留めず、会議室へと急いだ。
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