2・暑さ寒さは彼岸までなんて迷信だ
「暑い。どうして、こんなに暑いのかしら」
今はお盆も終わり、夏休みも終わりにさしかかった八月下旬。相変わらずカンカン照りの太陽に照らされて暑い。
昔は暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったものだ。突き刺さるような暑さはそれが迷信であると否応なく証明しているように思えてならない。
まあ一昔前までは迷信でもなんでもなく、言葉通りだった。しかし、近年の異常気象が見事におとぎ話か迷信へと変えてしまっている。
今年も猛暑。毎年のように更新される平均気温。いつになったら、涼しく過ごせるようになるのか。
汗がにじむ。絞ればたくさん水滴が落ちるほどに練習着も汗がしみこみ、拭ったタオルもずいぶんと濡れている。
朝、学校へ来るときには結構雨が降っていたのに、部活の練習の休憩時間になるころには雲一つない天気。
クーラーのない体育館。窓も扉も開けているが、風が入ってこず、陽射しだけが無駄に差し込んでくるばかりだ。それに激しい運動もしたから、体内の水分がずいぶんとけずられている。熱中症にならないわけがない。
「樹里。そんなにいうと余計に暑くなるわ」
親友の
麻美が隣に腰かけるよりも早く、樹里はペットボトルのお茶をまるで仕事帰りの親父のようにイッキ飲みする。飲み干すとブハッと息をおもいっきり吐いた。
「うまい! こんなにお茶がうまいなんて思わなかったわ」
「樹里。飲み過ぎ。練習終わった頃には飲み物なくなるわよ」
そういうと再びゴクゴクと飲み始める。
「あっ、もう遅い。飲んじゃった。しょうがない。もう終わろう。練習終了」
樹里はペットボトルの口を下にして、軽く振る。もう水滴が少しでるだけになってしまった。
「なにいってんの。二学期になったらすぐ新人戦よ」
「そうだけど……」
「新人戦も大事だけどさあ」
突然、背後から少年の声がした。
「きゃあ」
驚きすぎて、樹里は思わず声を上げる。
「おいおい。俺、なにもしてねえぞ」
慌てたのは、少年のほうだ。
「なーんだ。杉原か」
「なんだじゃねえよ」
樹里は突然現れたクラスメートにつまらなさそうな視線を送ると、バタバタとタオルで自分を仰ぎ始めた。
「なんで、あんたがこんなところにいるのよ。あんたの場所は体育館じゃないでしょ。それになに? その暑苦しい服装は……。余計に暑くなるわ」
樹里の言う通り、クラスメートの
それを見るだけで暑苦しい。
「うるさいなあ。そういう服装なんだよ」
弦音はムッとする。
「そんなって……。確か普通の練習の時はジャージでいいんじゃないの?」
「いいじゃねえか。気分だよ。気分」
「まあ、私には関係ないけど……。けど、本当に暑い」
「どうでもいいなら聞くな! けど、そんなに暑いのか?」
俺はそこまで暑くないけどなあも思いながらも尋ねる。
「はあ? あんたの感覚可笑しすぎるわよ。こんな炎天下。暑くないほうが変よ」
「そうか」
確かに暑い。差し込む太陽の光がこれよがしに突き刺さってくる。けれど、彼岸前に比べれば、ずいぶんと涼しくなったように思
う。
それなのに、えらく暑がる樹里に「どんだけ暑がりなんだよ。太ったオッさんか」と心のなかで突っ込みを入れながら、完全メタボなオッさん化した樹里の姿が頭に浮かび思わず絶叫しそうになった。
「どうしたの? 顔を青くしてさあ」
樹里が怪訝な顔をする。
「どうせ、へんな妄想してんでしょ。樹里がメタボなオッさんになった妄想とか」
「はあ? なによそれ!? ひどくない」
樹里はギッと弦音を睨む。
「いやいやいや。そんなこと考えてねえよ。誤解するな」
「怪しいーー」
しどろもどろする弦音を猜疑の目でみる樹里。弦音の視線は麻美に向けられる。麻美は楽しそうに笑っている。
(西岡のやつ~。俺の心読めるかよおお! どっちにしても、江川に変な目で見られたぞ。
コンチキショー)
「きゃあ♥️」
その時、突然黄色い声があがる。なんだろうと振り返ると、みんなの視線がバスケ部の隣で練習しているバレー部のほうへと注がれていた。
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