3・雨の日に
雨が朝からずっと降り注ぎ続けていた。
風もないのだから傘をさせば防げるのだが、運悪く車のタイヤにより跳ねた水が制服のスカートの裾にかかってしまい、彼女は不機嫌に車を睨みつける。
学校へ行けばすぐに体操服に着替えられるのだけれども、その間濡れた状態でいることになる。なんとも気持ち悪いことだ。
もういっそのこと今自分のすぐそばにある学校の更衣室でも借りようかとも思う。だけど、そこは樹里が通っていた学校ではない。もしも入っていったら、不審者と見られるかもしれない。
ならどうしようか。
着替えはあるが近くに公園があるわけでとないゆえに一度家に戻るか、学校へ急いでいくしかなくなる。
しばしその場で考え込んでいると彼女の視界に赤いものが飛び込んできた。なんだろうと足元をみるとそこには一輪の花が電信柱に立て掛けられているではないか。
なぜ、こんなところに花が一輪だけあるのだろうか。
まだ真新しい。
おそらくつい最近置かれたのだろう。
いや実際にはずっと前から置かれていたような気もする。
ぽつんと置かれた花はとくに強調するわけでとなく、どちらかというと身を潜めるようにそこにあったためにその存在を知りながらもさほど気に止めていなかった。されど、その日はなぜかその真っ赤な花が気になってしかたがない。
先程までスカートが濡れていたことを気にしていたというのにすでに樹里の意識は赤い花へ注がれいる。
あれ?
赤い花だったっけ?
しばらくそれを見ていた樹里は首をかしげた。
「でもこっちのほうがきれいだわ」
そうつぶやきながら無意識に花へと手にとるとそれをじっと見つめた。
「本当にきれいだわ」
もしも、その花がいっぱい咲き誇っていたならば、どれほどの美しさを持っているのだろうと想像するだけで心惹かれてしまう。
まるで心が吸い込まれてしまいそうな感覚。
「樹里―――」
そんなことを考えているうちに遠くから声がした。
親友の声だ。
樹里は花を戻すと慌てて声のするほうへと駆け出した。
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