9・避難

 スクランブル交差点付近は騒然としている


 それは先ほど起きた出来事のせいだ。


 いつもの変わらない日常のなかで人々がスクランブル交差点をわたり、さまざまな場所へ向かっている。それが急に悲鳴へと変わったのは、交差点を渡りきった先にあるビルの前に突如として、巨大な化け物花が現れ、人々を混乱へと導いたことだった。


 逃げ惑う人。怪我をする人。


 車はお互いに衝突事故を起こすなどの混乱を引き起こしていく。


 通報を受けた警察がすぐにきたのはいうまでもない。警察もまたみたこともなんか化け物に青ざめた顔をし、自分達がなにをしにきたのかわからなくなるほどの動揺を見せていた。


 そのなかで唯一冷静に対応したの尚孝なおたかたちのチームだった。慣れた手つきで逃げ惑う人々を誘導していく。


「ぼーっとするな。避難誘導してくれ」


 愕然としてきる同僚にも指示を出すと、彼らは我に返り人々を誘導し始める。


「半径一キロよりも遠くへ逃がせ。ビルにいるものはそのまま待機。なるべくこちらがわの窓に近づけさせるな」


 そういう指示を次々とだし、尚孝とチームを組んでいる同僚がテキパキと動いていく。


 そんななかで、ナツキという子供に引きずられるように化け物花から逃げてきた弦音つるねの姿があった。


 弦音は化け物花から数メートル離れたところで座り込み身動きがそれない状態で愕然としている。


 そんな彼をよそに周りは右往左往と喧騒の渦に巻き込まれていた。


 弦音のすぐそばには子供がたたずみ、だれかに手を降っている。


 それがだれかなんて確認する余裕など弦音にはない。ただ、いま何が起こっているのかを必死に自分の中で整理している最中だ。


「君たちもすぐにここを離れなさい」


 1人の警察がやってきて、弦音を無理やり立たせようと腕をつかむ。


 けれど、弦音には立つ力もなかった。一度立ち上がるもすぐに膝が折れる。警察官も引きずられるように倒れそうになるがそれを別の警察官がささえた。


「すみません。芦屋刑事」


 刑事だ。病院にいた芦屋尚孝が弦音を立たせようとした制服姿の警察官の腕をもっている。


「この子たちは俺にまかせてくれ。君は他の人たちの避難を」


 どうしてなのかといわんばかりに尚孝を見ていた警察官だったが、なにかを察したのか敬礼すると別の人たちの誘導へも回った。


 それを見送った尚孝はナツキの方を見る。


 ナツキは無邪気な笑顔を浮かべながら頷いた。


「あっ」


 呆然と化け物花を見ていた弦音が声をあげる。


 先ほどまでいたはずの化け物花とそれにむかって戦いを挑んでいた朝矢たちの姿が忽然と弦音の視界から消えたのだ。


 残ったのはビルのすぐ前に円形にできた凹みだけだった。



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