7・恨み声(1)
「あー。やっぱり終わったのね」
会議のあと、体育館へ向かうが人の姿はすでにない。
それを確認すると部室のほうへと向かう。部室の扉を開くと曲が流れてくる。
部室にはだれがいつ持ってきたのかは不明だが、一台のラジオ付きMDプレイヤーがある。大概、部活が終わると最初に入った人がラジオをつけて流すという習慣があった。
流れてくるのは、今時は流行りの曲がMCのトークの間に流れていく。
決して、電波がいいわけではないから、時折雑音も聞こえてくる。しかし、別にラジオを聴いているわけではない。ただのBGMにすぎず、好き勝手にガールズトークを展開させているにすぎない。
『続きまして、
パーソナリティーの紹介する声の後ろから曲が流れてくる。
『松澤愛桜さんは、一年間のインディーズをえて、ついに今年デビューした新人ながらも、今年最も注目すべき歌姫です』
しばらくの前奏から女性の歌声が聞こえ出してくる。
『それでは、松澤愛桜のセカンドシングル曲“私の夏休み”です』
パーソナリティーの声が聞こえなくなると同時に曲が全面的に出る。すると、先程まで下らない話をしていた部員のひとりが、この曲好きだと言い出した。
「初めて聞く名前だね」
「あれ? 先輩しらないですか? 松澤愛桜」
「知らないわ。誰?」
「ほら。女優の
「ああ。よく聞いてみたら、聞いたことあるわ」
「それを歌っているのが、松澤愛桜なんです」
「ふーん」
ラジオから曲が流れてくる。透き通るような伸びやかな声。
脳裏には化粧品のコマーシャルが蘇る。
「今度歌番組にでるらしいよ」
「初よね。初。どんな人なのかしら……」
「きっときれいな人よ」
どうやら、正体不明の歌姫に想像を膨らませているらしい。
歌は美しい。けど、どうでもいい。
樹里はまったくというほど芸能界には興味がない。
というよりも、正直なにか特別に興味を示すものなど一つもない。ただ学校の勉強して、部活して、友達とくだらない話をするだけだ。
恋愛もまだしていない。
“松澤愛桜”の曲が終わり、またラジオのパーソナリティーのトークが始まる。
「ねえ。やっぱり秋月くんってかっこいいよねえ」
すでにラジオから関心をなくした部員の一人が別の話題を振った。
その話題を聞いているとふいに花を思い出した。
学校へ来る途中で見つけた一輪の花。
なぜ急にそんなことを思い出したのだろうか。
「ねえねえ知ってる? 秋月くんって花が好きらしいのよ」
「花?」
だれかがいった。
「うん。昨日見たのよ。秋月くんが花屋から出てくるの」
「それって彼女さんへのプレゼントじゃないの?」
「花・・・・・・」
「どうかした? 樹理」
「花といえば、今朝中学校の塀のところに
」
「それって園田先輩?」
樹理は麻美から秋月の話題をしているチームメートの方を見る。
「園田先輩がどうしたの?」
樹理が尋ねると彼女たちが振り替える。
「なんか付き合っているって噂があるのよ」
「付き合っている?」
どくん
心臓のおとが聞こえた。
どうしたのだろうか。
急に息が苦しくなっていく。
「どうしたの?」
それよりも別の方向から気配を感じる。
それが徐々に近づいているような感覚
なんだろう。
脳裏に浮かぶのは花
一輪の花
それを手にするだれか
ずしん
背中に重みとともに寒気が走る。
樹理は思わず後ろを振り返った。
「樹理?どうしたの?」
「いや、なんかだれかいたような」
麻美が振り替える。
だれもいない。
振り返った先は扉のみだ。
麻美が立ち上がると扉をひらいて外を見た。
だれもいない。
麻美は首をかしげながら樹理を見る。
どうやら気のせいだったらしい。
「それってただの噂でしょ」
だれかがいう。
「うん。でも、雰囲気いいよね。あの二人」
なんだろう。
腹が立ってくる。
腹がたつ?
何に?
誰が?
──渡さない
え?
突然、樹里の耳元で声が聞こえた。
くぐもった声
恨めしい声
樹里ははっと横を見る。
麻美が怪訝な顔で見ている。
彼女から発された声ではないようだ。
「園田先輩も美人だもの。私たちじゃかなわないわ」
―あんな女に渡さない
また声がする。
背筋が凍る。
体が重い。
押しつぶされそうだ。
樹里は思わず、体を丸めて俯せになった。
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