6・文化祭実行委員会

「すみません。遅くなりました」


 樹里きさとは委員会の行われる多目的教室の扉を乱暴に開く。視線が一気に樹里のほうへと注がれた。


「大丈夫よ。まだ十分あるし、まだ来ていない人もいるから」


 しばしの沈黙ののち、実行委員長の園田奈美そのだなみが答える。周囲からクスクスと笑い声が聞こえてくる。


(なによ。急がなくてもよかったじゃないの)


 先に来ていた弦音つるねを睨みつけた。


 弦音はとぼけたように天井を仰いでいる。


 その態度に内心苛立ちを覚えながらも、樹里は俯き加減で弦音の左隣に座った。


「大丈夫。僕たちもギリギリだったから」


 右隣に座っていた秋月がいう。


「ありがとう。いい人ね。秋月君」


「なんだよ。俺が悪者みたいじゃないか」


 少し照れている秋月とは反対に、弦音が拗ねたように頬を膨らます。


「さて、時間ということで会議をはじめましょう。あっ、そうそう、先生は急用ができたということで遅れるそうです」


 文化祭実行委員長をつとめることになった園田がいうと、一同がざわめいた。


「よかった。あの先生、面倒なのよねえ」


「そうそうなにかと口に出す」


「なんかさあ。いかにもオタクって感じの小太り眼鏡なのに、変に細かいのよねえ」


 そんな会話が行きかう。


「静粛に。とにかく、始めるわよ。秋月くん。書記お願いできるかしら」


「え? 僕」


「いいでしょ。お願い」


「なんで二年生?」


「三年生が書記しないのかしら」


「あれでしょ。園田先輩も……」


 そんな言葉が聞こえてくる。


 彼らの言葉は当たっているだろう。


 そういうことだ。


 園田も秋月狙いというところだろう。


「わかりました」


 秋月は立ち上がると、教壇のほうへと向かった。


 園田に従って、チョークで議題について書き込みを始めた。


「今日の最初の議題は部活動の出し物についてです。先日、各部からの出し物についてのアンケートは出してもらいましたが、いくつかダブっているものがあるようです」


園田が各部の出し物を読み上げ、それを秋月が黒板に書いていく。


そして、樹里の所属するバスケ部と弦音が所属する弓道部が書かれた。


「肝試しってなによ」


「お化け屋敷って定番じゃねえ?」


 樹里と弦音の声が重なった。


 言葉の通り、バスケ部女子はお化け屋敷と書き、弓道部は肝試しと書いたのだ。


「文化祭の展示品に"肝試し″はないと思うわ」


「いいじゃん。お化け屋敷も肝試しと同じじゃないか」


 どうでもいい話だ。


「弓道部といえば……」


 園田が口を開いた。


「なんか出たらしいわよ」


「出た? なにがですか?」


「決まっているじゃない。幽霊よ」


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