第3話 金色うさぎ

 仕事帰り。駅に向かって歩いていた。明日は土曜日、予定はないけど休みであることは確かだ。どうせ、なんとなくネットで動画を見て気付いたら月曜日。そんなことは明白だけど、仕事からは離れられる。


 色々な人とすれ違う。それぞれに目的があって、家族がいて…。自分には何があるだろうか。仕事のことを忘れると、そんなことを考えだす。


 ため息が出る。その時、派手なゴスロリファッションの女の子が歩いてきていた。その子は輝いて見えた。アイドルか何か。あまりに美しい人を見ると後光がさして見えるときがある。

 よく見ると、肩に金色の小さなうさぎが肩に乗っていた。前足を器用に女の子の肩に乗せ、耳を立て、キョロキョロしている。

 疲れすぎだ。今週は忙しかった。いや、今週もか。いや来週も。がっくり肩を重くなった気がした。しかし、それだけでなく、肩が温かい感じもした。

 

 この温かさは以前にも感じたことがあるような気がした。なんとなく前向きな気分になり、今週、ミスもあったが、仲間でカバーし合い、なんとか乗り切り、仕事が前に進んだこと。夕飯は好きなお惣菜でも買って、少しお酒も飲もう、なんてことを考えた。

 肩から重みと温かさが飛び去っていくような感じがした。

 

 電車に乗るため、列に並んでいると俯きながらぶつぶつ呟いている中年の女性がいた。少し、距離をとって並んでいると、その女性の肩に、さっきの金色のうさぎが飛び乗ってきた。女性はうさぎに気づくそぶりもなく、相変わらず、ぶつぶつ言っている。

 なんだこのうさぎは。誰も気付かないのか。うさぎは耳を敏感に動かし、鼻をヒクヒクさせ、キョロキョロと周りを見ている。周囲の人々が気づく様子はなかった。

 すると、うさぎに乗られている中年の女性が俯きかげんから、背筋が伸び、独り言もやめた。心なしか、元気になったようにも見える。


 うさぎはぴょんと、飛び去りどこかへ消えた。


 あのうさぎは以前、どこかで見たかもしれない。また会うような気もした。



 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うたかたの歌 川澄華人 @yagarasu008

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ