第5話 「とりあえずそれは置いといて。」


痛烈な一撃をお見舞いされたあの日からなんだかんだで半月が経過した。



本人は『儂の本来の名前なんぞとうの昔に忘れよった故にな。』って言ってたけど、



そう言われても僕が呼びづらいので|表札に書いてあった

小見山こみやま しき」という通り名に合わせ、ご先祖様を呼ぶ時は「しきさん」と呼ぶことにした。


と言うわけでしきさんの家で世話になり始めて大体半月。


わかったことは、『このご先祖様、生活能力が低い』と言うことである。


僕が引越しの荷物を整理してる最中にも


『なぁ〜せっかく部屋を貸してやってるんじゃあ〜年寄りの相手してたもれ〜』


と、最近の低所得層ストロングなに熱い支持を受けている缶飲料を片手にウザ絡みしてきたり


『お前さん、料理が得意なんじゃろ?お前の母親から聞いとるぞ』

と言ってなにかと食事を求めてきたりする。


確かに僕は浪人してた頃に少しでも家への負担を減らす為に個人の料理店と洋菓子店でバイトをしてたけども….、してたけども!!


ちなみに洋菓子店で1度僕考案の新商品を採用してもらった事があり、辞めて結構経だいたい半年った今では定番メニューになったらしい。


これは数少ない僕が胸を張って自慢できることのひとつだ。


…脱線したけどつまりはその甲斐あって2週間経った今でも荷物を降ろしきれてないってのが今の現状である。


あと数日で入学式なんだけどなぁ…


PM1:00


そういう風に愚痴ってる僕の手元にはタッパーに入った肉じゃが。

いっそ先に渡してしまって片付けをする時間を作る作戦に出たという訳だ。


アッタマいい〜。


自画自賛ひとりごともそこそこに、いよいよ肉じゃがを持って行こうとしたその時、玄関のドアが開いた。


「おゝい秋冬しゅうとや。言い忘れとった事があるんじゃが…なんぞいい匂いじゃの。」


しきさんだ。

なんだ?見計らっていたのか?お狐様パワーで僕の考えてる事ぐらいはわかってるのではなかろうか。


「あぁ、しきさん。ちょうどこれ持って行こうとしてたんですよ。」


こう言ってタッパーに入った肉じゃがを渡すと『おぉっ』ともらしてた。


「それで何を言い忘れてたんです?」


正直不安要素いやな予感しか無い『言い忘れてた事』。

聞きたくない気もしたけど聞かなきゃ話が進まない。


「お前さん妹が居ったじゃろ。」


確かにいる。

近畿の全寮制のエスカレーター式の学校に通ってる妹が。

年に数回しか会わなくなってたからか、一瞬思い出せなかったが。


「妹の通っとる学校、経営破綻がどうたらで廃校になったらしくての。こっちの学校に編入する事になったから今日辺り来るぞ」


「は?」


と、疑問に思っているとそれを裏付ける


「もう来てるで」


という声が聞こえてくる。


「はい?」


そして玄関の先、しきさんの後ろ側を見てみると、まぁ見覚えのあるシルエットが見えてくる。


「なんや?べりぃきゅーとなウチの魅力にメロメロか?兄やん。」


間違いない。妹だ。

僕が呆気にとられていると妹は


「一足先に兄がお世話になってます。

これからついでにお世話になる、狐塚春夏きつねづかはるかと申します。以後よろしゅうお願いします。」


ほんと、外面そとづらは良いな。お前。

「ほんと、外面は良いな。お前。」


しまった。心の中が完全に漏れた。


しかし妹であるところの春夏は、

「アホか。初めて会う人にはとりあえず外ヅラだけでも良くしとかな失礼やろ」


当たり前のようにこう返す。

はっきり言おう。妹は個性派変わった女だ。


「まぁ、仲がえぇみたいで良かったのぅ。」


さっきから肉じゃがにしか視線行ってないっすよご先祖様。


「じゃ、儂コイツで一杯やるんで失礼するぞぇ。」


そう言ってそそくさと自分の部屋に戻るご先祖様。

どんだけ好きなんだよ。肉じゃが。


そんな時、久しぶりに会った妹から


「なぁ兄よ。ちょっとこの街を案内してくれてもええんとちゃうかって妹は思っとる訳なんやけど、どや?」


とのお言葉。

………これは今日も片付ける時間はなさそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代における妖狐による怠惰。 うまあじ @good_taste

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ