第21話 大きな戦
クリストン学長から急な呼び出しがあった。
チームメイトは呼ばれず、ぼくだけという限定的だった。
学長室へ入ったところ、見慣れない男と背格好が真っすぐと伸びた青年の二人が立っていた。
「なにがあったのです? クリストン学長」
本を手にし、クリストン学長はぼくに本を向け、こういった。
「君にしか頼めないことだ――」
***
急な要件ができた。
今日の<攻防戦>は保留となった。ランク昇格試験である<攻防戦>を無視しても確実に成功しないといけないことができたからだ。
クリストン学長がチームメイトには『実家の呼び出し』という言い訳を伝えておき、ぼくは真っすぐある場所へ向かった。
そこは、かつて迷宮(ダンジョン)と呼ばれた場所で、今はクリストン学長によって封印されている。
その場所でなんの用なのか?
「行けばわかる」
クリストン学長はただ、それだけしか言わなかった。
現場に着くと、魔女と青年がいた。
魔女は大きな欠伸をかきながら読書に夢中だった。
青年は魔女を見つめながらなにやら話しかけている様子だった。
「あ、あなたたちは…!?」
「あらあのとき以来ね」
ベランダで会った魔女と青年だ。ルシアーノとなにか取引を持ち掛けていたが、ルシアーノは断っていた。
なぜ、こんなとこにいるのか。
それも、クリストン学長を通してここに呼び出す理由は何なのか。
「自己紹介がまだったわね。私はソラ、彼がシロ」
「はじめまして」
ぼくは身を構え、彼らに言った。
「なんのようだ!?」
「そんなに身を構えないで。戦いに来たわけじゃないの。私たちはあなたたちに協力したいから、ここにいるだけなのよ」
ソラは優しそうな笑みを浮かべていた。
上面だけだ。魔女はそういうものだ。
「協力ってなんだ?」
「気づいていると思うが…」
青年は一歩近づき、ぼくに魔法を放った。
(う、うごかない…!!?)
身体を硬直化させる魔法だ。息はできる。目は動かせる。ただ、口と手足が動かない。身体も動かすこともできない。強力な魔法だ。解除魔法を唱えても解除できない。これが…魔女の魔力か。
「手荒な真似をして申し訳ない。一刻を争うことだ。君たちの学校内にルシアーノを狙う不届き者が現れた。クリストン学長はいち早く気づき、俺らに協力を求めた。」
クリストン学長が? 彼らとどういう繋がりがあるのだろうか。
「その人物はまだ不明だ。ただ、危険人物であることは事実」
「狙っているのはルシアーノの心の中にある聖剣アルベルク。魔物を寄せ付けない強力な結界を発動する古の剣」
「本来なら、俺らが管理し、守りたいところだが、先日、ルシアーノは協力を断った。俺らが外から助けることはできない。そこで、代わりに君に頼みたいわけだ」
シロ、ソラ、シロと交互に話しを進めていく。こちらの拒否権や質疑は全く無視である。
「……」
どうして、ぼくに頼るのかと、睨みつけた。
「”どうして君に頼るのか”と思っているようだね。その答えは簡単だ。ルシアーノときみとしかぼくらと出会っていないからだ。クリストン学長では力不足。魔力も呪文は遥かにクリストン学長の方が上だが、学校全体をくまなく管理することは難しい。そこで、ルシアーノとほぼ隣にいる君にお願いするというわけだ」
つまり、ルシアーノの護衛役をぼくに指名したということか。
(それで、お前らになんのメリットがある?)
「……」
「”メリット”…聖剣アルベルクを保護できるからだ。ルシアーノの願い事は知っている。そのうえでの行動だ。でも、メリットとか関係はない。俺たちはルシアーノを守りたいんだ。その理由はルシアーノの生い立ちに関係しているが…」
「――それ以上は言わなくていい。」
ソラが割り込んだ。
本にしおりを挟み、ぱたりと本を閉じた。
先ほどの表情とは一変して曇った表情をしている。どこか悲し気で怒りが現れているかのようなふくざつだ。
「あなたに掛けられた呪いや秘術のことも知っている。そのうえで、お願いしている。魔女はめったに人にお願いすることはしない。
でも、わざわざ言葉で言っていることは事実。それほど、重要なことだということだ。
すでに、賢者ククルト、狩人ファルスの二人が学校内にいる。ククルトはルシアーノを見守っている。ファルスはクリストン学長の友人だと言っていたが、どうも胡散臭い。
私は君――ルアよ、君に掛けられた呪いを解除する方法を探す手伝いをする。その代り、ルシアーノを守ってくれ」
ソラは深くお辞儀をした。
魔女がこうも年下にお願いをするのは初めての光景だった。
シロは同じようにしていた。
硬直化魔法をかけられ、なにもできないぼくに、二人を信じて守れと言うのか。おかしな話だ。でも、上手い話でもある。
ルキアの呪いが解けるのなら、魔女にでもすがるつもりでもいた。
ちょうどいい機会だ。
ぼくは心の中で”ひきうける”と返事をした。
彼らはぼくの顔を見るというよりも心を読んでいるようだった。
思っていることが通じるのなら、大丈夫だろう。
「…引き受けてもらえてよかった。これは、せめてのおまじないだ」
ふわっと光がからだのなかへと吸い込まれていった。
「精霊とお話しができる魔法だ。もし、なにかあったら精霊たちに呼びかけると言い。きっと協力してくれるはずだ」
そう言って、二人が霧となって消えた。
二人の姿が見えなくなるころ、ぼくに縛っていた硬直化の魔法も解けていた。
***
学校に戻ると、クリストン学長が意外なことを提案していた。
『急きょ、<攻防戦>・<争奪戦>を中止といたします。十日間を予定していた祭りを三日間に限定します。原因は結界が不十分で、生徒たちに危険が何度も及んだため、禁止にします。
また、いままで勝ち進んでいたチームメイトには賞金が与えられます。
屋台などで稼いだお金はそのまま、生徒たちに与えます。また、屋台で五位以上に稼ぐことができたチームメイトには昇格のチャンスを与えます。
実力を試す試練<攻防戦>・<争奪戦>を中止したことにお詫びいたします。
代わりに<協力戦>を開始いたします。十二年前に廃止になった試練ですが、賢者ククルトのほか、結界師さんの協力により開催することが可能になりました。
参加者は学年、ランクに関係ありません。
参加資格がある人はクリストン学長に直々に許可を申請してください。
<協力戦>は別でルールなどをパンフレットにより伝えます。
<協力戦>で勝利したチームメイトにはAランク昇格が与えられます。Dランク・Cランク・Bランク関係なく、Aランクに昇格されます。
Aランクの皆さんには、代わりに修学旅行を自ら決定する権利が与えられます。不満な方は、クリストン学長へ。
』
ルシアーノを守るためであるが、あんだけ拒絶していたのに、あっさりと許すなんて…。これも魔女ソラたちが絡んでいると思うと、心のなかが土砂降りにあったような感覚になった。
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