第12話 第十八回目攻防試験
学校に転入してもう、五月を迎えていた。
この日、集会場に集められ、ランク関係なくクリストン学長は皆にこう伝えた。
「高等部のみなさま、下等部のみなさま、本日は二年に一度の<第十八回目攻防戦試験>の幕開けとなります。詳しいことはパンフレットで拝見してください。以上」
クリストン学長が集会場から出ると、高等部・中等部の学生らが騒ぎ出した。
お祭り騒ぎになったのは言うまでもない。
ランクに関係なくお祭りのように屋台が学校中に展開された。<攻防戦>が行われる一週間はランクに関係なく、各チームがお店を開き、収入を稼ぐ。
学生たちはアルバイトをしてはいけない決まりになっている。そのため、この祭りの日にだけでも稼ごうとする生徒がたくさんいる。
もちろん、お金は親からの仕送りや外出任務に出ている学生が稼いできたものを含めて、お金の減り具合は少ないかもしれない。
ぼく自身はある事情で、親からの仕送りは止まっている。そのため、クリストン学長からの依頼を全うすることで収入している。
魔物の件でラビットホーンの素材で稼ぐはずだったが、見張りに見つかり持ち帰ることはできなかったこともあり、今の収入量は比較的にヤバいところにある。
「ねえ、なににする」
「たこ焼き屋、たい焼きや、あっ綿菓子やもいいよね」
「たべものばーっかり…」
すれ違ったチームが話していた。
食べ物屋を回っているというよりも自分たちで開こうと考えているようだ。
「あっ! ルア、いま時間ある?」
エレナが呼び止めた。
時間はあると返事すると、エレナは店を開くからとその提案として、来てほしいと呼ばれた。
部屋に戻るとすでにチームメイトのクロナとルシアーノが椅子に座って待っていた。緊迫な空気が流れている。
机の上に立候補で挙げられたものがいくつか書かれている。
そのいくつかに丸が書かれ、多くはバツ印で書かれていた。
「いま、みっつの立候補に絞れたの。最後の候補として、ルアが選んでほしいの。もちろん、公正なる判断でね」
クロナはテーブルの上にあった紙を見せた。
それぞれ三つの項目に丸印が書かれている。
「私は霊薬――薬草を進めたいです。学校内で薬草を手に入れるのは難しいので、姉の仕送りで届いた薬草を用いて薬を提供したいのです。いかがですか?」
「エレナって、姉がいたの?」
「うん。お姉ちゃんが私のためにって、店で売っている薬草を送ってくれるの。経営大変なのに…」
エレナのお姉さんか。あってみたいものだなと思った。
エレナは薬屋か。確かに、店舗数を数えるなり、薬草を扱った店は少なかった。Aランクで一か所、Dランクで一か所ぐらいだった。
「私もいいですか」
クロナが手を挙げた。
構わないというと、クロナはカンペを読み上げた。
「独自で開発したタロットカードです。タロットカードには魔法が掛けられています。もちろんクリストン学長に特許申請中ですが、いずれ私の発明として世に知らしめます。タロットカードを示せば、そのタロットカードに描かれた魔法を放つことができます。威力はまだ弱いですが、魔力が少ない時にきっと役に立ちます。もちろん、複製不可能にしています」
「面白そうだね」
「でしょ。エレナの薬草だと、数が少ないからきっと数日しか持たないと思うのよ。それで大量生産ができ、なおかつ一枚一枚販売すればいい値段で稼げると思うのよ」
クロナはエレナに対してこっちのほうがいいと押してきた。エレナはそれでも譲らなかったが。
「それでルシアーノは?」
「……」
紙に書いてきたのはびっしりと文字が書かれていた。
「文字がきれいだね」
「……」
頬が赤くなった。
「じゃあ、読むね」
「……」
コクリと頷いた。
「<第十八回目攻防戦>にでること。優勝すればランクアップは確定のほか、賞金として一年は過ごせるほどの大金が手に入る。エレナの薬とクロナのサポートがあれば、勝利は目前となる。もちろん、両者が気に入ればだけど…」
読み終えた。
クロナとエレナを見ると、二人は俯いていた。
「優勝すれば話しでしょ…私たちに勝機の可能性? …それはまずないわ」
クロナは鼻で笑い、その提案は聞けないと却下した。
「それはなぜなんですか?」
「ルシアーノもルアも入って間もないから知らないかもしれないけど、<攻防戦>はサッカーのような試合なのよ。互いにゴールを前にして戦う。二人は攻め、一人は守り、一人はゴールを死守する役目なのよ。ゴールは少なからず死ぬほど危険とされている。ゴールは先輩や力がある人、頼りになる人に申請することが多い。でもね、ゴールは二人からの魔法で直撃を押さえることになる。ゴールを守るだけでなく自分を守らなくてはならない。つまり、死ぬ可能性がある戦いなのよ。」
クロナは経験を頼りに話している節だった。
エレナも同様で、そのときのことを思い出しているような青白い顔をしていた。
「ぼくがなんとかするよ」
「ゴールを? 確かにクジナに勝ったのもわたしに勝ったのも事実だ。でも、それはエレナの≪プロテクション≫があったから、被害を最小限に抑えられたにすぎない」
「……なにがいいたい」
「私たちは力不足なのよ、守り役にエレナを使わせたくない。それに魔力でハッタリをしても敵はきっと上級生なみの使い手がくるはず。まだ、私たちには力不足よ。それに、賞金なんて一位をとらないと、手に入らない。二位以下なんて、ランクの昇格がある程度、大金は得られない」
クロナが言っていることは正しい。
でも、勝負を簡単に捨ててもいいのだろうか。
「もし、どうしても参加するのなら私とエレナは手を引くわ。死に急ぐ必要はない。ルア、考えておいて、大事なのは命だけでなくチームメイトの絆も必要だっていうこともね」
クロナは離席した。
部屋から出て行った。
「……」
なにか悪いことをしたのかとルシアーノは俯いた。
「エレナ、なにかあったの?」
エレナはクロナが不機嫌だったことを知っている。エレナは口に使用とはしなかったけど、今の関係ではチームでお店を開くのはとても十分じゃないと判断した。
「……クロナの尊敬していた先輩が去年、死んだのよ」
「え!?」
「あれは、まだ雪が降っていた時だったわ。<第十七回目攻防戦>の準決勝の試合の最中だった」
***
三人のチームを率いる優勝候補のリック。クロナの憧れの先輩で、なによも同じ故郷の出身だったこともあって、リックとはよく話とかみ合っていた。
相手のチームはBランクでリックよりも魔力が劣っていたけど、勝利するたびに相手のチームが棄権していた。それも毎回同じようにして。
それで、不振と不安な気持ちに至っていた。
クロナは言った「相手が卑怯なことをしてくるかもしれない。だから、棄権して――」とでも、先輩はこう言い返した。
「たとえ、そうだったとしても、俺は勝ち続ける。後輩たちが俺達が勝ったと見せないと、みんなテンション下がりっぱなしだろ」とほほ笑んだ。
確かに、あのときはCランクからBランクに上がった生徒はここ三年誰もいなかった。リック先輩はCランクでもBランクに上がれるとみんなに言い聞かせて試合に出た。
「先輩…」
「大丈夫だ。可愛い後輩を置いて倒れやしないよ」
クロナの嫌な予感は的中していた。
この五分後、先輩は元の姿で戻ってくることはなかった。
「せ、せんぱい…せんぱーい!!!」
クロナの必死の呼びかけもまるで聞いていない様子で何度も叫んでは、周りを遠ざけるように暴れくるっていた。
獣そのものに姿を変えようとしていた。
「の、のろいだ。獣ののろいだあああ!!」
同じチームメンバーがそう口にした。
頭を押さえ、苦しそうに叫んでいる。
ゴールを死守した先輩がこうも代わるなんて、ありえない。
これは、相手チームが不正していた事実の証拠だ。
「お前ら、なにをした!?」
チームメンバーの一人が相手を抑え込み、なにをしたのかと問うた。相手は「はあ? 知らねーよ。呪いとか言われて俺らは正々堂々と戦ったんだ。相手が苦しんだのは、魔力が足りなくて、魔法を直撃しただけだろ」と鼻で笑っていた。
こうなることを知っている口ぶりだった。
「先輩はどうなるんですか!?」
クロナが相手の胸元を掴み、抗議した。
「俺らがどうすることはできないぜ、せいせい、動物園に入れられることがないような。」
わっはははと笑いながら去っていった。
彼らの不正は明らかだ。
さっきまで笑っていた先輩はもうどこにもない。いないんだ。
「返せよ。先輩を…。私はお前たちを許さない!! 公正なる裁判の主よ、公正な裁きで死を鳴ら――」
「だめだ! やめ…ろ…!」
先輩がクロナを後ろから抱き付いた。
「せ、せんぱい…?」
振り返るともはや、動物の成りをした生物がいるに過ぎなかった。
思わず叫びを上げたくなる。でも、先輩は最後まで抵抗し、クロナを支えた。
「復讐に…はし……な。おま……えは…いい…子……だ。だか……ら……むちゃ…は……す……な……」
バタリと倒れた。
その後、医者や緊急隊の人が駆け付けたが、先輩は息をしていなかった。
リック先輩をするチームメンバーの話だと、先輩はもともと<獣の呪い>を持っていたらしく。発作とともに獣へと姿を変えてしまうそうだった。
獣にとって苦手な強烈な音と悪臭が獣へと変えてしまうことを恐れていた。
仲間たちは止めたが、「ヒーローは引きこもっていたら始まらない」といわれ、後輩たちのためと想い、仕方なく許可した。
相手はリック先輩が<獣の呪い>だったということを事前に知っていたようだ。
だから、ゴールを死守する先輩ではなくゴールの前で守っていたリック先輩に向けて≪悪臭の魔法≫と≪強烈な音を放つ≫魔法を当てたのだ。
その結果、先輩は先輩じゃなくなった。
もし、公正なる裁判の主を召喚していたら、きっと彼らを裁きを下すことはできなかった。なぜなら、悪意を籠っての戦略ではない、相手の弱点をついての攻撃だ。たとえ成功したとしても、召喚した人物はその代償として命を奪われてしまう禁断の魔法だったからだ。
故郷で禁じられていた魔法を知っていたリック先輩はクロナを阻止したんだ。自分が足場が崩れ落ちるがけっぷちにいるにも関わらず。
「先輩は…先輩は…」
墓の前で涙するクロナを最後に、クロナは魔法を磨くようになった。
エレナをイジメるクジナの存在を知ったのもこのころだった。
Aランクに昇格した相手チームリーダーと同じ出身のクジナは奴らと同じようにしてエレナを自分のものにしようとしていた。
優勝したチームリーダーの妹――クジナ。クジナはチームリーダーの血を受け継いでいた。
先輩を奪い、親友のエレナも奪おうとする奴らを阻止するために、呪いの本であり、クリストン学長が隠していた本を手にし、呪いを受ける代わりにエレナを救おうとした。
でも、ルアの魔法に打ち破られ、呪いは解き放たれた。
元に戻ったクロナは、ルアに詫びるとともに、エレナも自身も救ったことに感謝をしていた。
また、先輩と同じようにエレナの命も奪おうとしていたことを聞いたとき、クロナは身を閉め、心を磨くことにした。
***
<攻防戦>に出ない理由がクロナの暗い過去が原因だった。
しかも、相手に仕打ちしずに終わったことも後味が最悪だ。
「クロナは今でもリック先輩の墓の前で泣いている」
エレナは退席した。
「……」
ルシアーノは相変わらず黙っていた。
何も言わず退席し、ルアは少し考えたうえ、クロナがいる墓へ向かった。
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