第9話 魔物
生物はなにかと魔力を体内に蓄えている。それを食べることで魔力を回復することができる。魔力は時に強くすることもできる。魔力を多く含む食材を食べ、十分な運動をこなせば、体格は大きくなり、容量も増える。
魔物も同じ、餌を食い、十分な運動をすると体格は優れ、容量も増える。そして、それを繰り返すことで、強力な化け物へと姿を変える。
今まさに、ルシアーノの前に魔物が立っていた。
口からヨダレを垂らし、ルシアーノを食べようとしていた。
ここは私有地のはずだ。
魔物が出るなんて聞いていない。
「ルシアーノ!」
素早く駆け込み、ルシアーノの前につく。
目の前にいた魔物はクマのような大柄で黒く、目は赤く輝いていた。星の光だけなのにその異様な体格の大きさが幻影のようにぼくらを恐怖させるには十分な威力を放っていた。
「魔法で抵抗するぞ」
クロナたちが駆け付けるまでの時間稼ぎだ。
「≪束縛(ホールド)≫」
地面から棘の蔦が魔物の身体を縛り付ける。
ぎゅっと縛り上げるのもつかの間、魔物の想像以上の抵抗力に負け、棘の蔦は木端微塵に吹き飛んだ。
「……!」
ルシアーノも唱えた。
声が聞こえない。無詠唱の可能性もある。
地面に転がっていた砂埃が魔物の頭に向かって吹いた。
魔物は両手をバタバタと動かし、砂埃を払おうとする。
隙をついて、二人で逃げようとするが、魔物はこちらの気配に気づくなり、すぐに瘴気に戻り、距離をあっと言う間に縮めてきた。
「回復するのが早い! このままじゃ、全滅だ」
「……」
全滅と聞いて、ルキアは嬉しそうにぼくに話しかけてきた。
『全滅と聞いて、びっくりぎょうてんだよー』
「いま、ルキアと話している場合じゃないよ」
誰もいないところに向かって話しかける。
ルシアーノはやや戸惑いつつ、目の前の魔物に集中する。
『魔物と遭遇し、死亡しました。めでたしめでたし――』
「めでたくない! それに、こんなところで死んでたまるか!」
『ふーん。それじゃどうするんだい? やっぱ二人に頼るのかい?』
「そんなことは…可能性だ。それに、ぼくに切り札があることを忘れかい」
『別に忘れていないさ。でもね、それを使うってことは、ドン引きされるぞ』
「そうでもいいよ。ここで仲間を守れればね」
『ああーいやだいやだー。こんな能天気な生物がいていいのだろうか。よくないよくない、仲間とか絆とか味方とか、胡散臭いよ。守るだけ守って全滅もあれば、一人残して全滅もあるし、ましてや、君は弱いままだ』
「少し黙っててくれないか」
『黙れ…か。わかったよ、黙っておいてやる。でもな、魔物は食えよ、俺の腹が鳴るからな』
わかっているよ。魔物を食わないとルキアによって呪いを進行させてしまう。ルキアの呪いで魔物を食べないと死んでしまうなんて、みんな思わないだろうなと深く思う。
「紫の印≪デルタ・サール≫」
地面に印を描く。紫色のΔ(デルタ)文字。
雷を放ち、魔物を怯ませる。
しかも一定の間隔で攻撃するため、相手の隙を作り放題でもある。
「赤の印≪アルファ・サール≫」
自身にΑ(アルファ)文字を付与させる。
一次的に身体能力を向上させる。
「にげるぞ、ルシアーノ!」
高くジャンプした。五メートルの木を軽々飛び越えるほどのジャンプ力だ。
ルシアーノをお姫様抱っこして、その場から逃げ出す。
途中、クロナたちを拾い、転送魔法がある場所まで逃げ、クリストン学長に報告する。
魔物は結界を破って侵入したことが発覚し、討伐隊が急速に編成され、魔物討伐に向けて出発した。
魔物を食べることはできないが、仲間を助けるためだ。
こんなこともあろうかと、魔物の一部を冷凍庫に保存してある。これが魔物の肉であることを内緒に振舞ったことがあるが、まだバレていない。
それに、料理は簡単なものなら作れるが手間がかかるものは作れない。
今度、クロナたちに作ってあげなくては。
この日、クリストン学長に無断で山に入ったことがバレた。クロナは許可をとったような口ぶりだったが、実際は無許可であった。
そのため、罰として詩を百回書かされることになった。
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