第8話 キャンプ
キャンプに出掛けた。
箒に跨って近くの山で下りた。
そこは学校の私有地で、魔物も滅多に入ってこないという場所で、クリストン学長のお気に入りのスポットでもあった。
「さて、当番を決めるよ。私はテントを張るから、エレナは枝集め、ルアは水集め、ルシアーノは……」
「温泉作りなんてどう?」
「それに決定!」
無茶ぶりなことを言ってしまった。
ルシアーノは嫌がるどこか逆に嬉しそうだった。
「さて、水を集めるか…バケツとかなかったし、魔法で固めろっていうことかな…」
川先にやってきた。
川の底は浅い。魚がいても指程度の長さしかない。
「≪水の壺(ウォーターボトル)≫」
水で作らた壺だ。
水で覆い隠し、中に水を入れる。使う際には魔法を解けば、水として再利用できる。しかも、直接に火を浴びれば、お湯にもできるし、持ち運ぶのもやや力は必要だが、こぼれる心配もない。
「楽ちんだな」
ウキウキな気分で≪浮遊(レビテト)≫で≪水の壺(ウォーターボトル≫を浮かばせてキャンプ地まで運んでいた。
途中、困っているエレナを見つけた。
「ううう…どうしよう…」
植物たちを見つめながら、うう…と鳴いていた。
「どうしたの? エレナ」
「ルア!? どうしてここに…?」
「鳴き声が聞こえたもんで」
「?」
聞いてみると、エレナは生きている植物たちから枝をとるのはかわいそうだと言っていた。せっかく生きているのに、無理やりとるのは野蛮人がやることだよっと、訴えていた。
「エレナの気持ちよくわかるよ。わかった、ぼくに任せて!」
クロナには悪いけど、エレナの気持ちが優先だ。
ぼくは最善と思う魔法を選択した。
「≪複製魔法(コピーオブジェクト)≫」
木に手を触れ、魔法を唱えた。
すると瓜二つの姿でもうひとつ複製された。
「どうなっているの!?」
エレナは驚いた。
複製したほうをエレナが触る。見た目は木だが、中身はまるで発泡スチロール並みに柔らかい。
しかも中身は空洞のようで叩くと中で音が金属のように響いた。
「本物そっくり…」
「本物さ、見た目だけね」
転移魔法と複製魔法の合わせ技だ。
部屋に置いてあった捨てる予定の紙を複製し、それをここに持ってきたのだ。そして、複製した紙を木にそっくりに化けさせることで、あたかたも木が増えたように見せかける。
「これなら、クロナも許してくれるよ」
「ありがとう」
エレナに水の壺(ウォーターボトル)と一緒にもっていくよう頼み、ぼくはルシアーノの様子を見に探しに行った。
ルシアーノはすぐに見つかった。
水の壺(ウォーターボトル)にした川の位置から上流にいた。
水をせき止める形で水集めていたため、下流にいたぼくは川の水はもともと浅いのだと勘違いしてしまっていた。
「すごい装置だね」
コクリッと頭を頷いた。
相変わらず無表情のままだ。
石はすでに積み終え、粘着性の魔法で固定している。水が逃げないように床下と石の壁を念入りに何回か魔法を重ねて固定していた。
ちょっとした露天風呂の完成だ。
水はまだ入り切れていなかったが、ルシアーノが必死に頑張っている姿を見ているとついつい協力したくなってしまった。
「僕も手伝うよ!」
「……お湯」
お湯? この中にある水をお湯に変えてくれと言っているのだろうか。お安い御用さと言いたいところだが、まだ夕飯までに時間はある。魔力を≪水の壺(ウォーターボトル)≫と≪浮遊(レビテト)≫に使ってしまい魔力があまり残っていない。
≪水の壺(ウォーターボトル)≫は見た目の割にけっこう魔力を使う。それに≪複製魔法(コピーオブジェクト)≫を使った。遠くにある物を引っ張ってくるのも疲れるうえ、別のものへと作り替えるのも骨が折れるほど難しい魔法だ。
それを今日一日で使ったためにお湯を簡単に沸かせる――精霊を呼ぶほどの魔力が足りていなかった。
ルキアは魔力を失った状態を好むため、助けてはもらえない。むしろ好都合と思っているのかもしれない。
「……むり?」
「無理なもんか! ぼくが手伝うっていったんだ!」
精霊は呼べないけど、炎を水の中に溶かして温めることくらいはできる。手のひらに熱を集めるように呪文を唱えた。
「火の粉よ、消えそうな火の命よ、手のひらに集まり、お祭り騒ぎとせよ。一つの火の玉となった時、長らく燃え続けるだろう」
手と手の間に隙間を作り、合わせる形で待機していた。
すると火花を放ちながら火の粉の精霊が少しずつ手のひらのなかへ姿を現した。
火の玉となったときには、手のひらが火傷しそうになるほどの熱を発していた。
「ごめん」
両手を放して、火の玉を水の中へと落下させる。
それと同時に魔法を唱えた。
「≪水の壺(ウォーターボトル)≫」
火の玉を覆うように水の壺でコーティングする。そうすることで火の玉は崩れずない。
「空気の糸≪エアチューブ≫」
細い糸のようなものをアメーバー上に伸ばす。酸素を取り入れるため、水の中に入れながら空気中から酸素を拾えるようにと、≪水の壺(ウォーターボトル)≫とコンボした。
そのせいか、火の玉は消えず、燃え、≪水の壺(ウォーターボトル)≫で火は消えず、燃え続けた。
グツグツと煮える音が聞こえるときには、冷たい水をお湯へと錬金していた。
「これで完成だね」
「……」
無表情で見つめられた。これはどんな気持ちなのか想像できないような表情だ。しかも体は何の反応も見せつけていない。
怒っているのか悲しいのか悔しいのか楽しいのかまるでわからない。
ああ…まだまだ、ルシアーノと分かり合えるのはまだ遠い日のようだ。
夜、夕食を終える、四人そろってルシアーノが昼間作った温泉へ向かった。
雲一つない夜空の真下で明かりもつけず、ただ温泉がある場所へウキウキと高らかな気分で突き進んでいた。
「意外だなー」
「なによ」
「クロナって料理下手なんだね」
クロナが怒った。
「下手って、私は調合とか錬金とか苦手なのよ…。ましてや味を確認する危険な作成手順は命を捨てるレベルだわ」
どんなレベルだよとツッコミを入れたくなった。
というか、クロナはエレナと比べて調合や錬金が苦手なんだなと初めて知った。
授業ではエレナよりも上手いのに、ちゃんとしたレシピがないものに限っては苦手のようだ。
「それに比べてルシアーノは料理上手なんだね。もう一度味わってみたいなー」
ルシアーノはクロナと比べると天と地の違いだ。絶望的で何日も寝込む味といえばクロナ。一方で天に昇れるほど元気いっぱいになる味はルシアーノだ。
食べ比べてみて、クロナの料理はいっぱいで十分。ルシアーノは何杯でも食えるほどだった。
「ルアさんは、料理作らなかったですよね? どうしてですか」
エレナに問われ、話題がそれたと確信したクロナはぼくに攻撃してきた。
「ルアさんの料理食べたかったなー。きっと私よりも自身が無かったら作らなかったんだなー。今度、作ってほしいね」
料理は下手ともいえないが、ぼくの料理は三人に食べてもらえるほどおいしいものかといえばそうではないと答えてしまうものになる。
作るのはルキア風。つまり、魔物の料理だ。
魔物から採れる素材から作るものであって、三人はきっとドン引きするだろう。
旅のエルフもそうだった。
魔物を食うとドン引きされた。
普通の飯じゃなくて、魔物そのものを食べる? ありえない。ありえないよ、君はいったいどんな人生を過ごしてきたんだね? と聞かれたほどだ。しかも詩人並みにうまく歌ってきた。
だから、魔物が手に入らないのとエルフのドン引き以降は作らないことにしている。現に、幼いころのキャンプもそうだったし。
「ねえ、もしかしてあれ?」
エレナが人差し指を向けた。
そこには湯気がホカホカと浮かんでは消える温泉があった。
昼間、二人で作った場所だ。
お湯を温めた程度だけど。
「……」
ルシアーノが頷いた。
「こうしてはいられないわね!」
クロナが一番乗りだと走ると同時にエレナもつられるようにして走った。まるで子供だ。珍しいものに群がるようだ。
「ルシアーノ、行こう」
ルシアーノと一緒に遅れてやってきた。
目の前で呆然とする二人を見るまではいい雰囲気だと思っていた。
「な、なによ…これ?」
クロナが唖然としていた。
なにがあったのかと前のめりすると、お湯があったはずの温泉にはすでに水は惹かれあがってしまい、水の壺に入れた火の玉だけがグツグツと煮えていた。
「み、みずが…ない…!?」
あれだけの水をあっと言う間に干からびたのか? そんなはずはない。それに、水を引いているし、中に入っている。
それがこうも干からびるなんて、火の玉が熱を持ちすぎたのが原因か、それとも――
「……」
フルフルと震えている。
ルシアーノが造った温泉が台無しだったのを目に、どこかへと走り去ってしまった。責任を感じたのだろうか、エレナが指摘し、水が干からびた原因が分かった。
どうやら、水を引いていたはずのチューブ魔法が不完全だったようで、川の深さは元に戻っていた。確認しておくべきだった。チューブの確認を怠っていなければ、嫌な気持ちを受けなくてもよかったはずだ。
「ルア、ルシアーノを追いかけないと!!」
クロナはすでにルシアーノを追っていた。エレナに呼ばれ、ハッとしぼくらもルシアーノの後を追った。
手分けして別々に分かれて探しに向かう。
森は暗く、星の光があっても周辺を照らすには事足りない。
「松明≪ランプ≫」
複製した木に魔法をかけ、散策する。
多めに作っておいてよかった。なかったら、エレナの怒りを買うが、木を松明代わりにしているところだった。
しばらく走り、ルシアーノの名を呼びながら探していた。
『こっちだ』
ルキアに知らされ、その方向へ走っていくと、ルシアーノがいた。
だが、それはルシアーノよりも巨大な大きさの魔物と鉢合わせしているところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます