第6話 図書室
翌日、クロナたちと一緒に図書室に向かった。
昨日の一件でクロナの変貌が特定の本に関係があるのと探るためだ。
もっぱら呪いを解くヒントになるかもしれないと内心思いながら来たのが正解だ。
図書室へ向かうには大きな休憩室へ行く前の通路をまっすぐ進んだ先に何百というほどの絵画がずらりと並んでいる。
彼らはクロナを襲ったのとはべつのもので、それぞれの部屋の番人を承っている。
彼らに話しをつけて扉を開けてもらわなければその部屋まで行くことは困難となる。
「こんな時間になんのようだい?」
欠伸をかきながら絵画は喋った。
花を摘む一人の女性が描かれている。彼女はノーレイ。図書室の番人である。
「図書室で調べたいことがあるのです。今日までに片付けたいので」
今の時間は夕食前の時間だ。
あとニ十分もしないうちにみんなが食堂に集合するころ間。
「夕食までまだまだ時間があるようですし、…いいでしょう」
扉が開かれた。絵画は扉の役割を果たしている。
彼らの許可なくして部屋に入ることはできない。
とはいえ、彼らの力を借りなくても図書室に行くのは簡単なのだが、彼らに許可をもらっておけば、図書室で調べたいものをすんなりと探してきてくれるので、前もって許可をもらっておいた方が楽である。
「ノーレイさん、ありがとうございます」
「いいのよ。可愛い生徒たちのためですもの」
クロナたちと一緒に図書室へ入った。
そこは夥しいほどの数で本棚にぎゅうぎゅうに収められた場所だ。古来から集められた本から今の時代まで、時代を飛んで収入されたものだ。
他のランクと比べれば整頓がなっていないのだが、ノーレイいわく「綺麗にしている」とのことだ。
「ノーレイさん」
「なんでしょうか?」
本がひらひらと蝶のように羽ばたいてきた。
ノーレイさんの分身だ。
用があるときは白紙の本が飛んでくる決まりだ。
「クロナ、君が開いた本はどんなものだったのかい?」
クロナは記憶を探り、一つずつ丁寧に答えていく。
「赤く薄汚れた色の表紙、年代記は今から十年前のもの、本棚にあって、私たちでは届かない場所にあった、魔法が掛けられていた、模様は何一つなく、あるのは持っただけで妙に気なる本です」
「すばらしい。該当する本は17種類あります」
ノーレイさんは、その本のいずれかだとすかさず判明した。仕事が早い。さすが図書室の番人だ。
「他の特徴を教えてもらっても…?」
「えーと覚えているのはそれくらいです」
「いつ頃触りましたか?」
「え…? ええーと…つい数日前です」
「数日…9種類に絞れました。ちなみにジャンルは?」
「ジャンル…よくわかりません。中身を開いたらクルクルと渦巻いたので、思い出せないのです」
「中身はおそらく魔法による副産物……4種類に絞れました。ちなみに、あなたの指紋を確認しても?」
「はい」
クロナは手のひらをノーレイさんに見せた。
ノーレイさんはふむふむと頷き、「羨ましい手ね」と褒めると同時に「私の手は絵ですもの」と自分の手を見て残念そうに俯いた。
「該当する本が見つかりました。いま持ってきますが、貸し出しはできません」
貸出できない本。
図書室内でしか開けないということだ。
「別にかまいません」
クロナの代わりにルアが答えた。
「少々お待ちを――」
本が鳥となって飛んでいった。大きく白い梟だ。
「見つけるのはいいけど、持ち出しはできないですし、どうするのですか?」
「どうするって…処分はできないからなー。ノーレイさんに訊いて封印してもらえるかどうか聞いてみようよ」
「すんなりうまくいくのかしら」
「やってみるしかないよ。それに個人的に気になるし…」
「ん? なんだって?」
「なんでもなーいよ」
その本に興味があるなんて言えないな。
「お待たせしました」
梟が本を持って飛んできた。
落とし、ルアがキャッチする。
ずっしりとした本だ。臭いは古臭くかび臭い。
日が当たっていないせいか色は褪せていない。でも、年代物のようで今の時代で書かれた文字ではない。
魔法書。魔法書だけあって、文字はこちらが読み解ける文字に変換される。しかも、見た人によって変えている。
「ナーブ語ですね」
「アシャイラ語ね」
「古代エルフ語だね」
「「「え!?」」」
三人とも違う言語だと答えた。
ナーブ語は南の大陸の言葉で一部の民族しか使われていない言葉だ。クロナがそう口にした。
アシャイラ語は、近年使われるようになった言葉だ。エレナが読みやすいと答えていたあたり、文字の大きさや太さ、削れていないなど細かく変化している。
「ナーブ語だよね?」
「いいえ、私はアシャイラ語に見えます」
「ぼくは古代エルフ語だと思う。つまり、人によって変わるということだ」
「そんなことって…」
「魔法書と呼ばれているあたり、妥当だと思う」
エレナとクロナを後に、ノーレイに尋ねてみた。
「この本の出版はどこなんだい?」
「それは社が行ったものではなく寄付によって贈られたものです」
「寄付?」
「はい。記録では旅人が学校へと寄付したものです。ですが、最初に送られてきたときには魔法書ではなく、旅人の冒険小説だったと」
つまり、何者かによってこの本は書き換えられたということだ。
貸出禁止になった理由も聞いてみよう。
「ノーレイさん、貸出禁止になったのはいつ頃なんだい?」
「そうね、6年前にはすでに禁止されていました」
「…6年前…か…。ノーレイさん最後にひとつ、この本を最後に借りた人は誰ですか?」
ノーレイさんは一瞬止まった。
なにか思い出すかのように何かを思い出すことをこらえたようにして、ノーレイさんは何事もなかったように答えた。
「クリストンさんです。現、学長です」
クリストンさんが!? 最後に借りたのが学長。そのあと、なぜ禁止になり、クロナに呪いをかけるほどの物になったのかは謎だ。
学長に聞いてみようか。
「ありがとうございます。では、この本を元の場所に戻してもらってもよろしいでしょうか」
「わかりました」
梟の姿で本を返品に戻る。
「どうする? 学長に聞いてみる」
クロナの問いにぼくは頭を左右に振った。
「どうしてですか? あんなに調べたいて言っていたのに…」
確かに、調べたいと思った。
でも、触れたとき、古代エルフ語を呼んだ時、落胆したんだ。
この本は冒険小説であって暗号で書かれた本だった。
その暗号をたどることを辞めたのは、呪いを解くカギがあるものではなかったからだ。
呪いと関係するときは、ルキアが反応する。
だけど、今回は何も起きなかった。
それに、ページを開いたわけじゃないが、クロナのように錯乱したわけでもない。
つまり、学長の後、返された。
この本は隠すようにあり、なおかつ魔法が掛けられていた。
呼んだ人に、錯乱するような魔法でも掛けられていたのだろう。
でも、そんなことをしてでもこの本は重宝するべきだったものなのだろうか。気になる点は幾つかある。
「――そんなところで何をしているのですか? すでに夕食の時間ですよ」
クリストンさんが現れた。
「学長!? どうしてここに?」
疑問な表情で答えた。
「調べものがあってきたのですよ。それにしても、どうしてあなたたちがいるのですか? ノーレイさん」
「はいはい。これはこれはクリストンさん。いま、クリストンさんの話で盛り上がっていたのですよ」
余計なことを…と言葉をうのみにノーレイさんに睨みつけながら、クリストン学長に事の真相を話した。
クリストン学長はため息を吐いた。
「どうせ、話さないと解散しないでしょうし、いいですわ。処分もついでに話しておきましょ」
すると、クリストンは意外なことを話してくれた。
「あの本は、単なる冒険小説で書けたものではありませんでした。暗号でこの学校に眠るお宝について記述されていました。二か月をかけて暗号を解きました。その結果、この学校にはとんでもない秘密が隠されているのが分かりました。ですが――」
チャイムが鳴り響いた。
夕食の時間が終わった合図だった。
「続きはまだ別の日にしましょう。今晩は、弁当をとっておきます。ルームシェアでゆっくりと食べるといいでしょう」
そう言って、さっさと本を持って図書室から出て行ってしまった。
いいとこでチャイムが鳴らなければ~と悔しい思いとは裏腹に聞かなくてもよかったのではと安心する気持ちも浮かび上がった。
「弁当だって、嬉しいな。どんなんだろう」
「エレナ、本当に明るいわね。いま、私たちは退学の直面にいたのよ…。それに、ノーレイさんも必要以外に話さないでください!」
「そうですか? 人間の子供はわかりませんね。」
とノーレイさんはどこかへと消えてしまった。
そのあと、クリストン学長と会うことはできなかった。
どうやら急な用事が入り、しばらくは戻ってこないのだと教師から話しを聞いた。
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