5
放課後の教室で一人、窓際の席に座って泣いている女の子がいた、天音 美雪だ。
彼女が泣くのもむりはない、だって“急に”好きになった男の子が大怪我を負って意識不明になったかと思えば、これまた“急に”その男の子の親友であり自分の幼馴染である男の子を好きになり、その途端その男の子も不幸なことに親友に大怪我を負わせた犯人だと誤解されバットで殴られた。
立て続けに起こった事件の原因は自分にあると美雪は思っていた、なぜなら隆弘を階段から突き落としたのは美雪本人なのだから。
あの時、なぜだか無性に彼の背中を押したくなった、あんな結果を招くなんて思いもしなかったのだ。
「君は何も悪くないよ」
美雪の一つ後ろの席から甘い声が聞こえてきた。
美雪が振り返ると、そこには真っ黄色のレインコートを着た美少女がいた。
三鍵 コハクだ。
「私を呼んだってことは何か欲しいものがあるってことだよね。 ね、何が欲しいの? 教えてよ」
突然現れた美少女に美雪はあまり驚かなかったようだ、心が弱くなり過ぎてそういった感覚が麻痺しているのかもしれない。
「私、好きな女の子がいるの」
コハクはニコッと笑う。
「そっか、君は女の子の方が好きなんだね。 いいよ、その女の子、ゲットしちゃおうよ。 もちろんタダじゃないけどね」
公園のベンチにコハクが座った、レインコートがグシャと鳴る。
彼女の手にはケーキ箱が握られていた。
コハクはウキウキしながら箱を開け中からキレイな三角形のタルトを取り出す。 数種類のベリーがトッピングされている、見た目だけでもそのタルトの甘酸っぱさがわかる。
お金なんて必要のない彼女のことだから、このタルトも運良く手にいたのだろう。
「ん〜 おいしっ! やっぱり仕事で得た幸運で食べるタルトは美味しいねぇ」
一口食べてからコハクが呟いた。
実際、彼女が彼らから貰った幸運なんてタルト一切れが手に入る程度なのだ。 彼女は何も嘘をついていない、不幸になったのはそれ相応の幸運を求めたからだ。
コハクはちゃんと忠告をした、身の丈にあっていないものを求めるほどに多くの幸運を使うことになる、と。
一人はなれるはずのない野球部のキャプテンと男が恋愛対象ではない女の子を恋人にしようとし、もう一人はそんな他人の恋人を自分の物にしようとした。
きっと彼らはそれを手に入れた時、人生で一番の幸せを感じたことだろう。
もし、この幸運を使い切ることなく人生を真っ当したのなら、その時はきっと良い人生だったと思うことができたのではないだろか。
「あの女の子はどれだけ幸運を使うんだろーなー」
コハクは唇をペロッと舐めて呟いた。
青春トライアングル〜おわり〜
幸運少女の契約記録 上終 夜助 @KMHT_yasuke
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