黒砂糖は紅茶と共に

ねこざかな

第1話 出会いは西日の輝きの中で

地域最悪と呼び声の高い底辺校『黒淵学園』、その校舎内の中でも人が立ち入らない北校舎の4階にその部屋はあった。旧生物実験室、過去に学校の不良がここで野良猫の解剖をしたことが問題となって以降生物実験を行われることがなくなり今では空き教室にやっている。

その部屋の前に佇む人影が一つ、『小番鋼一こつがいこういち』である。彼は小柄な体格で腕っぷしもそこまで強くない、完全に名前負けしている男子生徒だ。彼がスクールカーストにおいても最下層に位置するのも想像に難くない。

そんな彼が空き教室の前に佇むのには理由がある。無論この部屋に用があるからだ。いつもは空き教室となっている旧生物実験室だが、放課後になると普段日の当たらないこの教室にも明かりが点る。扉の前には[生活支援部 気軽に御相談下さい]とご丁寧に掛け看板が設置されている。

「気軽にって…こんな場所になんて気軽にこれないよなぁ…。」

そんなぼやきを言いつつ鋼一は扉を開ける。スライド式の扉はほんの少しの力を加えただけでも勢いよく開いた。ローラーが錆びていない辺り管理が行き届いていることがうかがえる。

「し、失礼しまーす…。」

中に入り辺りを見渡すが誰もいない、どうやら部屋の主は留守のようだ。

「いない…のか。」

落胆と安堵が入り交じった複雑な気持ちを言葉と共に吐き出しながら鋼一は踵を返そうとする。

「おや、客人とは珍しい。」

背後から声が聞こえた。背筋が凍る。まるで金縛りにあったかのように体が言うことをきかない。場所が場所なだけに声の主が幽霊なのではないかとさえ思えてしまう。

「ふむ、どうやら驚かせてしまったようだ。そう緊張しなくてもいい、別にとって食おうと言うわけではない。」

「あの…えっと…。」

恐る恐る声の方を振り返ると、そこには長い黒髪を靡かせた女学生がたっていた。

「……………。」

漆黒を感じさせるようなセーラー服を着こなし、気品すら感じさせる彼女を前に、思わず見蕩れる。

「別に見蕩れるのは構わないが、用があるんじゃないのか?」

「そ、そうでした!」

「まぁ立ち話もなんだ。続きは部室で聞こうじゃないか。」

そう言って女学生は部室に入り、鋼一もそれに続く。部室の中は地域最悪校の名に恥じぬほど酷かった。壁にはスプレーで書いたと思われる落書きがあり、実験台はその多くが傷だらけであり中には天板が完全に破壊されてるものもある。その中で比較的綺麗な実験台に鞄を置くと女学生は近くにあった座れる椅子に腰かける。

「それで、用件を聞こうじゃないか。それとも君は入部希望者なのかい?」

鋼一は全力で首を横に振る。

「冗談だよ。なにもそこまで否定しなくてもいいじゃないか。」

「ご、ごめんなさい…。」

「気にしてないよ。この程度のことは慣れっこさ。それよりも用件だ、ここに来るということは君も切羽詰まっていると言うことなのだろう?」

「…は、はい。」

鋼一は一呼吸置き、覚悟を決めた。

「実は……―――」


この学園にはある噂が流れている。北館4階にある旧生物実験室、そこには放課後になるとどんな悩み事も解決してくれる部活動があるらしい。ただし彼らに悩み事を解決させると一生かけても返しきれない程の代償を背負わされると言う。一体どこからが本当でどこまでが嘘なのかは依頼人にしかわからない。


「実は……、僕の呪いを解いてほしいんです。」

「…ほう?」

鋼一にとっての運命の歯車はここから回り始める。

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黒砂糖は紅茶と共に ねこざかな @bakemonoP

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