残念少年は魔物吸収で最強に

@Aaaa0322

第1話 始まり

このクズが! 弟の二人を見習ったらどうだ!? あの二人は私たちの血筋を守って固有魔法を引き継いだんだ! それなのにお前は固有魔法どころか、魔法すら使えないなんて……。」

「本当にこんなのが兄貴って……」

「最悪だよ、なんで父さんと母さんからこんな無能が生まれるんだが」


俺の親父と弟の二人は何の躊躇いもなくなく罵倒する。俺がこんな風に罵倒されるのは日常茶飯事だ。

弟のアルゼ、ユーリアはストレス発散に暴力では収まらず、魔法をぶつけてくる。


俺は抵抗しようにも魔法が使えないのでやられるがまま。初めの頃は何度も泣いていたが、今ではもう慣れっこだ。


「お前には連れて行く場所がある」


親父は俺にそう告げると、出かける準備をする。その様子を見て弟の二人は口角を上げて、薄気味の悪い笑みをこぼす。


もう少しは企みを隠せよな。俺の精神力が魔王級じゃなかったら、とっくにいじけてるぞ。

まぁ、いいけど。


準備が終わると親父を追う。


どこに行くんだ? ここは森か? 森にしては魔物が出ないな。

魔物の餌にするという魂胆ではないのか。


そろそろ弟達は、レイス王国に止まらず大陸でも名を轟かせている学園、アルゲイツ魔法学園に入学する。

言わば表舞台に立つ。それなのに俺という欠陥品がいるのは、家柄上良くは思われない。なら、事故にみせかけて殺すのが一番だ。


「この碑石に触れろ」

「これは?」

「これは魔竜星アルケミのいるダンジョンの最下層に繋がってる転移碑石だ。これでもし魔竜星アルケミを倒して戻ってこれたら家に居ることを認めよう」


どういうこと!? そんなの帰れるわけはないだろう。魔竜星って、レイス王国の七天極しちてんきょくとかギルドマスターしか倒した実績はなかったはず。

……素直に殺せばいいものを。


「それじゃあ、行って来い」


親父は俺が何の返答もしないまま、無理やりに腕を掴み取って碑石に触れさせる。そして俺の視界は真っ白になって転移した。地獄へ。


「……これは死んだろ」


転移すると目の前には、深く澄み切った蒼の鱗を持つ竜。その鱗は天に輝く星となんの遜色もない美しさを誇っている。


これから死ぬといいうのに俺の心は落ち着いていて、この竜に殺されるなら受け入れられる。そう思えた。

竜は俺のその心を知ってか知らずか、その目に敵意は感じられずゆっくりと俺に近づく。


あのクソ共に殺されるぐらいなら竜に殺されたほうがマシだ。

……もっと普通の家に生まれてれば。

いや、そんなありもしない話をしてもしょうもないか。

いつでも殺していい。その覚悟を持って目を瞑る。


「グォォォォオオオ!」


雄たけびが聞こえると目を瞑っても分かるほどの光が発せられている。攻撃の予兆だろう。

……これで終われる。


(……小僧これで最後だぞ。ついでにお前の鎖で繋がれてる能力も解放しといた。……本当にこれで最後だ)


何の声だ? 人間の声……ではない。だけど以前にも一度だけ――声が消えた瞬間左胸に熱い痛みがはしる。

なんだこれは!? 目を開けると俺の胸から漆黒の輝きが放たれている。

顔を上げると、魔竜星はくるしみもがいている。


「グギャャャヤヤァァ!!!!!」


そして魔竜星の体は歪んでいく。その歪みは時間が経つと原形を保てなくなり、魔竜星だったものは俺の胸に吸い込まれた。だが突然、魔竜星が吸いこまれると全身に激しい痛みが走り、脳には膨大な情報の奔流が押し寄せる――そして俺の意識はそこで途絶えた。




「……うっ…痛っつー。何が起こったんだ?」


記憶を呼び覚まそうとすると知らない情報が俺の頭の中にインプットされている。

何か知らない情報ばかりだな。とりあえず整理するか。


抜き出すとこんな感じ。


俺は魔物吸収という魔法? みたいなのを使えるみたいだ。主な効果は、生命が尽きた魔物を吸収して自分の力として取り込む。ユニークや特異固体は、その原因となる力を吸収。××××の劣化版。

魔物吸収の効果は大雑把にこんな感じ。


それで魔竜星を取り込んだことで、【魔星ませい】という力を扱えるようになった。力の概要も以前から知ってたかのように、体に染み付いている。

これが全身を襲った痛みの原因だろう。


「……試してみるか」


新しい力でテンションが上がって試しに発動することにする。今まで散々だったんだ、これぐらいは許されるはずだ。


魔星を発動する。


すると全身から力が沸き上がる。体からは竜の鱗と同様の輝きを放つオーラ。そして目は黒から蒼に、髪の色も目と同じに。


「……これが魔星の力」


これがあれば家には戻れるだろう。だけどそれでいいのか? 力を手に入れたから認められる。そんなのはごめんだ。

今までの仕打ちを復讐するつもりもないし。冒険者にでもなるか。

独り立ちってわくわくするな。


そうして俺、ロクドウは冒険者となることを決めた。

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