家族
マサチカが再び倒れたと連絡を受け、母親のミスズは困り果てた。丁度ドラッグストアのパートが終わったばかりのところで電話が入ったのだった。
大学に入ってからのマサチカはそれはよく勉強していたし、お金のことなら気にしなくても良いと何度も言ったにも関わらずバイトにも精を出していた。
しかしゴールデンウィークの治験バイトは親にも知らせていなかった。
「サークルの後輩が旅館の娘で有志何人かでバイトをする」と嘘をついていたのだ。
友達には治験であることを知らせていたようだが、親には言い辛かったのだろうか。
ミスズは薬科大学を出て若い頃は薬局でフルタイムで働いていた。
今は大手ドラッグストアでのパートタイム薬剤師であるが、中途半端にプロのミスズに言えば反対されることを懸念していたのかもしれない。
病院からは「急を要する事態ではありませんので明日でも構いませんよ」と言われたが心配になり思わず電車に乗ってしまう。自宅近くの病院への転院は出来ないのかと聞いたのだが、特殊な事情のためそれは簡単ではありません、と言われた。
余りに胡散臭い。
しかし医者の言う事にどう反論して良いのかもわからない。
マサチカは2人部屋に移動になっていたのだが、ミスズが看護師に付き添われ中に入るともうひとりの患者は席を外していた。
マサチカは寝ていたが顔色が悪いなと思った。顔を近づけた時、ふと不思議な匂いがしたように感じた。なんとなく覚えがあるようでいて、しかしすぐにはわからなかった。
入院はいつまで続くのだろうか。
看護師に聞いても要領を得ない。
お金の事でしたら治験を行った会社の方から出ますので心配なさらないでください、と言われたが、千葉から頻繁にここまで通うのも負担であるし、これ以上長引くのなら大学は休学の手続きを取らなくてはならないのだ。
時計を見ると三時過ぎ。
この時間なら恐らく大学の学生課はまだ開いているはずだ、相談に行こう。どうせまだマサチカは目を覚まさないのだから。
今週中にまた来ます、と看護師に言い、病室を出た。
入れ違いで車椅子に乗った青年が病室に入って行った。色白で横顔だけなら少女のようであったが、寝間着から伸びる腕は男性特有の肉付きだ。恋人か嫁か、同じような若い女性が車椅子を押していた。
田町駅のホームから旦那………マサチカの父にメールを送る。
マサチカの事、休学手続きの事、今日の夕飯は手抜きでも良いかという事。
返信は少し遅かったが「わかった、お疲れさま」と短い物であった。
………いつまで続くのだろうか。
芝浦オブザデッド タチバナエレキ @t2bn_3
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