最終話 それぞれの道

この世界はそれ相応に息苦しい。

まるで.....地球の酸素が無くなった様に、だ。

酸欠で息が詰まる様な.....そんな感じだ。


でもその様に思ったのはかつての事だ。

一年以上前の事だ。

俺は.....皆穂と恋人という事で付き合いはじめて.....本当に幸せな今に至る。

これまで余り大きな事件も起こらず変わらずでゆっくりと春夏秋冬を感じながら日常を過ごしていた。


臨床心理士になる為に臨床心理士になる為の大学に合格し。

そのまま入学し大学生になった俺は.....リビングで背後で紅茶を飲む受験間近の高校三年生になった皆穂を見つめる。

そのまま話を切り出した。


「皆穂」


「.....何?吉さん」


「えっとな.....ノア、元気にやってるかな」


「.....アメリカにホームステイなんて聞いた時は天地がひっくり返ると思ったからね。懐かしいなあ.....ちょうど二ヶ月前だね」


あはは、と苦笑する皆穂。

その事でもう分かるかも知れないがノアは現在この家にいない。

アメリカから帰って来た父親と母親と共に.....実家に帰ったのだ。


だけど実家に帰ったのにその実家で説明して。

直ぐに父親の心臓の手術をしたアメリカに俺の通っていた高校に書類を提出してホームステイしている。

信じられないだろ?俺も信じられないからな。

まさかあのノアが.....ってな。


俺はひっそりと.....ノアのその行動には喜んでいてそして応援している。

しかし.....医師になる為でも有るとノアは言っていたが英語を専念して勉強したいって言い出すとはな。

俺も皆穂も予想外の言葉だった。

失恋して吹っ切れた様な感じに感じなくも無いが。


何にせよ昔のノアなら有り得なかった。

根性が坐って無かった頃のノア.....だとな。

でも今のノアは全く違う。

俺たちと同じ様に成長したノアだから、だ。


まあ要約するとそれらが有ってノアはこの家を出た。

なので現在この家には俺と皆穂と由紀治さんと母さんの家族で暮らしている。


そんな俺は帰省中だ。

俺は隣の県で一人暮らしを始めたのだ。

その為に忙しい。


「.....でもノアが居ないとなんか寂しいね」


「.....そうだな」


因みに俺と皆穂は遠距離恋愛みたいな感じで有る。

俺の部屋にも隣の県にも関わらず3ヶ月に一回の割合で飯を作りにやって来てくれるのだ。

それから家事をしてくれるのだ。

俺はお世話になりながらも.....相変わらずの皆穂の少し残ったヤンデレの怖さに怯える日々だ。


でもヤンデレは昔とは違う。

皆穂は.....自分で自己制御が出来ているのだ。

一年経ち、それはまた本格的になった。

もう俺は必要無い感じだ。


俺は背後のテーブルの椅子に腰掛けている皆穂を見つつ、口角を上げてからコーヒーをゆっくりと飲んだ。

そしてふとして聞いてみる。


「そういや、漫画部とかは相変わらずか」


「そうだね。えっとね、時折だけど.....数人さんも来る。大学が近いから。それとか小町さんとか鹿島さん、吉武先輩もやって来るよ。高校なのにね」


「.....ハハハ。でもそうなんだな。仮にも仲良くやってんだな」


ああ因みにだけど成長期なのか何なのか数人はいきなり身長が伸びた。

今では大人の完璧な女性.....違う。

大人の男になりつつ有る。

でもやっぱり.....髪が長くて女の人にしか見えないんだよな。

俺は思い出しながらフッと笑う。


「.....だから賑やかだけど.....やっぱり吉さんが居ないから寂しいね」


「.....あはは。でも仕方が無いな。俺もたまにしか顔を見せれないから。臨床心理士の勉強が忙しいからな.....」


「そうだね。.....あと1日で帰っちゃうからね。吉さんは。.....あ、だから、ね。吉さん、手を繋いで」


カップを持ってから横に腰掛けて来た皆穂の手を俺は握る。

そして互いに見つめ合い、笑みを浮かべた。

そのままキスを.....と思ったがいきなりドアが開き。

どうやら母さんが帰って来た様だ。


「ただいま。.....どうしたの?皆穂ちゃん。吉」


「.....えっと.....いや、大丈夫だよ。母さん」


「.....?.....あ!.....お付き合いしているからってイチャイチャばかりでお勉強が疎かになったら駄目よ。貴方達」


その言葉に顔を背けて赤面する、俺達。

母さんと由紀治さんには俺達が正式に付き合っている事を全て話した。

俺達が兄妹の枠を超えたという事を、だ。


でも.....兄妹じゃ無くなっても認めてくれた。

いとも簡単に、だ。

由紀治さんは頭を下げて、皆穂を.....大切にしてやってね、と柔和な目で言ったのを今でも覚えている。


俺はその事に見開き、強く、はい、と返事をした。

それが一年以上前だが.....強く強く覚えている。

多分、生涯忘れない。


その勢いで、皆穂の母親の京子さんにも報告して。

京子さんは地面に泣き崩れた。

なぜ泣き崩れたかと言えば.....幸せすぎる報告などだと泣き崩れたのだ。

俺達も涙を浮かべて京子さんを立ち上がらせた。

報告して良かったと思っている。


これについては和久田も知っている。

相変わらずのツンデレの様な感じで花束を贈ってきやがった。

そしてメッセージカードには、おめでとう、と記載されていた癖に会うとそんな事はどうでも良いという感じで俺に接して来る。

俺は.....その事に、ツンデレや、と思いながら盛大に溜息を吐いた。


因みに.....俺達の関係を引き裂く様に以前、俺達を襲撃した富山和彦。

少年院で坊主頭で相変わらずだった。

用事ってか様子見で面会に行った俺を睨み.....相当に暴言を吐いていた。

更生の余地も無い感じで俺は苦笑するしかない。


相澤由利ちゃんも俺達を変わらずに小学校の高学年になって祝福してくれた。

父親の相澤社長については.....傷害罪で裁判が今度、開かれる。

反省の言葉を口にしている様だが.....。

俺は.....裁判には注目している。


俺の親父の墓前にも報告した。

俺と皆穂の二人で墓前に行って、だ。

手を合わせて恋人になった事を.....全て告白した。


俺達はそれを思い出しながら思い出を共有している様に手を繋ぐ。


「.....みんなそうだけど.....色々だったね」


「.....そうだな。本当にな」


「.....でも.....今が一番、安定しているよね」


「そうだな.....」


その通りだ。

間違い無く今がきっと一番安定している。

だからその言葉には賛同する。

確かに今が平和なのだ。

思いながら俺達は頭と肩を寄せ合う。


「でも昔の様な波乱万丈も楽しかったけどね。吉さんも居るし」


「.....俺も皆穂が居るし」


「そうだね。クスクス」


その様な言葉を交わしていると。

背後から黒い禍々しい殺意のオーラが.....!!?

俺達は直ぐに向く。

そこには.....ノアが顔を引き攣らせて立っていた。

眉がピクピク動いている。


「.....あははイチャイチャですね。吉くん。皆穂ちゃん」


「の、ノア!?お前!いつの間に!?」


「ノア!?」


「いやー、此処に来るまで気が付かないなんて.....酷いし、今日メールの一本も無かったよね。酷い!」


服の形に日焼けしているノアが立っていた。

ちょっと待てアメリカに居る筈のコイツが何故、居るんだ!?

思いながら見つめていると、ノアは禍々しい笑みを浮かべた。

それから.....ゆっくりと言葉を発する。


「今日、帰国日なんだけど.....忘れていたね?吉くん」


「.....あ」


「酷い!酷いよ!吉くん!」


「ノア。アンタもその事を余り私達に知らせないのが悪いから」


何それ、ひっどい!とワタワタしながら涙目になる、ノア。

俺達はその姿にアハハと笑顔になる。

するとまたリビングのドアが開き、そして目を丸くした.....スーツ姿の由紀治さんが入って来る。

仕事が終わって帰って来た様だが.....驚愕の眼差しをしている。


「.....おお!ノアちゃん!久々だね!」


「はい。由紀治さん。会うのは60日ぶりですね」


ノアは由紀治さんに笑顔で答える。

その様子を見ながら由紀治さんは高笑いした。

それから横からやって来た西子さんを見る。

俺と皆穂は顔を見合わせて?を浮かべた。


「ハッハッハ!良いね、良い感じだ。じゃあ今日は帰って来たついでに.....祝杯だね。西子さん」


「そうですね。でも祝杯って言葉は間違えていると思いますよ。あなた」


「そうかな?まぁ良いじゃないか。ホームステイが無事に終わった祝杯だ。アメリカから帰って来た、というのもな」


そして鞄を置きながら腰に手当てて両端の頬を上げて笑顔を見せる由紀治さん。

俺はその顔に、そうですね、と返事をした。

それから.....皆穂も、はい、と返事をして俺を見上げ笑みを浮かべる。

そして.....ノアも由紀治さんの姿に圧倒されていたがやがて柔和な顔になる。


さあ俺達の明日に.....どの様な日が待っているのか。

そして.....俺達の日常はどう変化していくのか。

少しだけ.....楽しみでも有り。

そして不安でも有る。


だけど今はそう、全てが平和なのだ。

だからきっと大丈夫だろう。

思いながら俺は.....少しだけ暗くなった窓からの外を見つつ。


少しだけ目を閉じて開けた。

何が待っていても.....今居るみんなときっと乗り越えられる。

そう、思いながら由紀治さんからジュースを受け取る。

因みにその日は.....宴会の様で俺と皆穂とノアは圧倒された。


俺はその中で.....皆んなに伝えた。


笑顔で、ありがとう、と、だ。


fin

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