第59話 ノアと皆穂と俺。最終決戦
だからと言えど俺達の日常が変わった訳では無い。
高校を卒業した春休み。
何でかって?今がそうだからだが。
俺は今現在、皆穂とノアに黙って秘密裏に二日前、つまり買ったばっかりでやってないエロゲを鍵の箱の中からいとも簡単に見つけられて正座させられていた。
今、俺は恐怖に怯えている。
まるで心臓を冷や手で撫でられている様な感覚なので.....。
軽蔑の目を向けていた皆穂がゆっくりと口を開いた。
「.....吉さん.....本当の本当にエロ本といい良い加減にしないと怒るよ本当に」
「.....す、すまなかった」
「.....吉くん.....最低過ぎるからね」
「.....ノア.....す、すまん」
えっとね、先ず、箱の裏面。
これは何をやっているの、と皆穂は指を差す。
いやその、フランクフルトを咥えているとしか言いようが無いんだが。
俺は恥ずかしさにモジモジしながら赤面する。
そして、しかも.....とノアが言った。
「.....これって.....義妹の設定なんだけど.....」
「.....だからすまんって」
「.....キモい。吉さん」
「.....み、皆穂、かなりキツいっすその言葉.....」
本気でゴミを見る様な目で俺をみてくる、皆穂。
俺は.....盛大に溜息を吐きながら蔑視の眼差しのノアを見た。
その中で、皆穂は、で?どうするの?、的な目をしている。
これをどうするの?的な感じでエロゲをバンバン叩きながら。
俺は頭を下げる。
「.....片します。すいません」
「だよね?.....あ、まだ隠している訳じゃ無いよね?」
「そ、それだけだ.....」
「.....どうだか。信頼出来ないんだけど」
皆穂は溜息混じりに言う。
でしょうね。
今の俺の信頼度って多分、ゲーセンのスロットとかで設定一だろうな。
俺は青ざめて怯えながらエロゲを受け取った。
ち.....畜生.....お気に入りと思ったエロゲだったのに.....。
と思いながら涙目で廃棄の為に受け取った。
その時だ。
「それはそうと吉さん」
「.....何だ?皆穂」
「私とノアをどっかに連れて行って。エロゲの罰で」
「.....いやいや、金が無いっつーの」
その様に話すと、皆穂とノアはジト目になった。
へぇ?良いんだあ?このままエロゲの事をお父さんとかに言っても、と静かな感じで脅してくる皆穂。
俺はまた盛大に溜息を吐いた。
確か貯金が有ったな.....クソ、それすらも知っているって事か。
分かった、と答えながら俺は苦笑した。
「やったね。ノア」
「そうだね。皆穂ちゃん」
「お前ら.....計ったな」
「「計ってないでーす」」
だよね?と頷き合う、二人。
クソッタレ共。
俺は思いながらも口角を上げた。
でもお前ら.....何処に行きたいんだ?と聞く。
すると少しだけ考え込む、皆穂とノア。
そして.....俺に真剣な顔で話す。
「.....水族館なんだけど」
「.....水族館?珍しいなお前」
「.....そう。でね、実は昨日の深夜に色々、ノアと考えたの」
「.....何をだ?」
真剣な顔のまま、頷き合う二人。
そして俺を見つめてくる。
皆穂もノアも決意の顔をしていた。
何だろう一体?
思っていると直ぐに答えが出た。
「.....私とノア。どっちを恋人に選ぶか。それを決めて」
「.....は?.....お、お前.....!?」
「この恋のバトルを完結させたいの。卒業したら決めるって言ったじゃない。だから選んでね。水族館で」
それは.....ただひたすらに固い決意の様だった。
見た事も無い真剣な顔をしているのだ。
俺は.....改めて赤面で顎に手を添えながら、それで良いのか、と思いながら。
真っ直ぐに見て聞く。
「.....それで良いのか?」
「.....うん。これが最後。だから.....」
「そうだね、皆穂ちゃん」
そして俺の右手を皆穂。
左手をノアが握って俺を真っ直ぐに見つめてきた。
それから.....皆穂とノアは宣言する。
俺は目を丸くする。
「「えっとね、どっちが選ばれても後悔は無いって話し合ったの。だから遠慮無く選んでね」」
「.....」
その言葉に.....昔を思い出した。
俺と皆穂がノアに出会った頃を、だ。
その際は本当にノアを皆穂は敵視ばかりしていた。
だけど.....皆穂もここまで成長したんだな。
俺は感慨深く思いながら.....大きく頷く。
「分かった。確かに俺は高校も卒業したし.....お前の.....言葉通り決めよう」
「.....うん。それでこそ吉さんだね」
「そうだね。吉くん」
本当のラストバトルが間も無く開幕する。
それは.....皆穂とノア。
二人の女の子のどちらを選んで付き合うかというバトルだ。
俺は.....どっちを選ぶのだろう。
ふと、そう不安が心を過った。
すると.....皆穂が俺を柔和に見てくる。
「吉さん。後悔しないでね」
「.....大丈夫.....だ。うん」
本当に.....俺は決めれるのだろうか。
二人の女の子の.....どっちかを。
俺は.....軟弱な男だから.....な。
そう思いながら居ると皆穂が怒った様に話した。
「でもそれはそれでエロゲの件の全部を忘れた訳じゃ無いからね」
「あ、はい.....」
すまん、すっかり忘れているものと思っていたのだが。
世の中そんなに甘くは無いか。
俺は額に手を添えながら.....溜息を吐いた。
最終決戦は明日。
でも多分.....俺は.....。
☆
その翌日の事の話だ。
そう言えば此処の水族館と言えばと考える。
色々な本当に珍しい水の生き物が居る場所だな。
ここに来たのは久々の様だなと思いながら。
後ろから付いてくる皆穂とノアを見た。
二人共にデートするかの様にバッチリ決まった服装だ。
先ず、皆穂がカジュアル。
そして.....ノアは長いスカートなどでコーデしている。
俺はその姿を微笑ましく見ながら.....昨日の事を聞いた。
「.....この場所に来たのは良いが、本当に良いのか。皆穂」
「.....後悔は無いって言ったじゃない。大丈夫だよ」
「.....そうそう。皆穂ちゃんの言っている通り」
「.....」
皆穂の言葉を聞きながら顎に手を添える。
俺は川で救った時から二人が好きだ。
だけど今回は話が変わってくる。
思いながら水族館に入る為のチケットを三枚購入した。
それから三人で頷き合って水族館の中に入る。
暗い中、電気が.....俺を光の道へ誘っている。
最後の恋の戦いの火蓋が.....燻っている中へ、だ。
☆
ノアと皆穂。
相反しながらも一緒だった二人。
昔、六歳ぐらいの時に彼女達に出会った頃を思い出す。
それから本当に二人は俺の心の支えとして.....寄り添ってくれて俺は生きてきた。
皆穂とノアは二人。
イルカショーと巨大水槽の前で別れて待機するという。
此処まで来たなら俺は.....彼女達の想いに応えなくてはいけない。
暫く待ってと言い聞かせながら一年経ったしな。
俺は胸に手を添えて心臓をバクバクさせながら。
ゆっくりと水族館の中を歩いて進む。
そしてイルカショーが有る場所の扉を開け。
俺は彼女に声を掛ける。
その彼女は.....イルカショーが有る会場の座席に腰掛けていた。
「.....よお」
「.....此処に来たって事は.....私で本当に良いの?」
「.....そうだな。俺は.....多分、あの氾濫した川でお前を救った時からお前の事が好きだったんだ」
「.....そうなんだね」
目の前の彼女はそう言いながら。
涙を浮かべて笑みを浮かべた。
そして.....俺を静かに見つめイルカショーを見る。
この光景が懐かしいね、と呟きながら、だ。
俺は.....そうだな、と頷く。
「.....イルカショーも一緒に来たよな。二人で俺の親父と一緒に」
「そうだね。一緒に来たよね。.....確かにこの場所に」
「.....懐かしい記憶だな」
「そうだね。あの時から君の優しさを知っていたよ」
ソッと手をビクビクさせながら俺の手に乗せてきた、彼女。
俺はその手を握り返す。
ビクッとする彼女を見ながら.....笑みを溢した。
これで良いのだろう。
俺の選択肢は.....多分、間違って無い。
そう思って、彼女の名を呼んだ。
「皆穂」
「.....何?吉さん」
「そんなに号泣する様に泣くなよ。これは全部、お前が言ったんだろ」
「.....でもね.....うん.....そうだね.....うん.....」
俺は目に手を添えて.....ただ涙を流す彼女に対して心配げに話すと。
皆穂の携帯にメールが入った。
直ぐに皆穂はスマホを開く。
お互いにそのメールを見て確認するとノアからのメールだった。
俺達は少しだけ複雑な面持ちになる。
ノアは.....敗北の宣言をしていた。
(やっぱり私、勝てなかったね。でも後悔は無いよ。皆穂ちゃん。私の分以上に幸せになってね。お願い)
「.....そうだな。.....ノア。.....皆穂」
「.....何?吉さ.....」
そこまで言い掛けた皆穂の唇を俺の唇で塞いだ。
所謂、キスってやつだ。
イルカショーにはあまり人が居なかったから良いかと思って。
丁度、イルカがジャンプした時に離れてから皆穂を確認する。
見開きながら俺を見つめている。
そして.....泣きそうな笑みを浮かべて震えながら俺を見ている。
俺は.....その皆穂に一番似合う言葉を告げた。
その言葉を、だ。
「.....皆穂。愛してる」
「.....そうだね。吉さん。.....私も貴方の事を.....一途に愛しています」
此処まで辿り着くのに相当掛かった。
だけどそれも.....いい経験だったと思う。
そして.....俺達は義妹と義兄ながらも恋人同士になった。
俺は.....皆穂をノアから託された。
一生守って、と。
俺の気持ちも同じだ。
決意しながら.....銀髪を靡かせてそれを抑える皆穂を見た。
そして.....紅潮している彼女の手を握る。
「.....絶対に、絶対に、絶対に。ノアの分まで幸せになろう」
「そうだね。ノアには後で会おうね」
「.....ああ。必ずな.....!」
そのままイルカショーを見ながら。
俺と皆穂は寄り添った。
親父。
そして.....皆んな有難う。
その様に考えながら.....皆穂の肩を寄せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます