第7話 ラスト

 八月になった。あのつんつん発言から、私たちは、ライブの本数を積極的に増やした。

 練習も増やしたけれども、本番で力をつけるのが一番だと思ったからだ。

 

 今日のライブは、終わった後の感覚が良かったので、中々だったのだろう。

 あのスタバで集まった日から、もっと楽器の練習がしたいと思ったので、私は小説を書くのをやめた。小説を書くといっても、単語を並べていただけで、文章にまで発展していなかったけれど。


 最後のバンドの転換中、菊池さんが話しかけてきた。


「この間はきつい事を云って、ごめん。今までお前たちのライブを見る度に、心が痛かった。けど今日は違った」


 この間って、告白した時の事かな。結構前の事だと思うけれど、私は心の中で一人つっこみながら云った。


「菊池さんの云った事は、必要な事だったよ」本心からそう思っていた。あの時は本当に辛かったけれど、今思えば、あれがきっかけで、私は変われた。


 あれ? 何だか、告白する前より、菊池さんと話しやすくなっている。何だろう。菊池さんも同じ事を思っているのか、以前より表情が柔らかい気がする。


「私、本当は誰かに頼りたい位弱っているのに、心の底で誰かを救いたいって思っていた。だからいつまで経っても心が埋まらなかった。もっと自分主義で生きる事にした。まず自分がしっかり立てないと、他人を救える筈が、無いんだもの」

 自分でも驚くほど、すらすら言葉が出てきた。今までの私だったら、こんな事、云わなかったと思う。

 以前の私だったら、ライブであそこが駄目だったとか、楽器であそこが弾きづらいとか、そんなネガティブな事ばかり云っていた。


「菊池さんも、それに気づかせてくれた一人だよ、ありがとう」私は自然に言葉を発していた。

 菊池さんは、微笑んでいる。ちょっと困ったような、ちょっとはにかんだような、思い切り笑っていない、微笑み。……ん?


「あ! その流し目。その目に色気があるから、女子が勘違いするんだよ」私は本気で、何も考えず、菊池さんに向かって云っていた。


    ○


 ライブ後のSNSは、実は愉しみ。皆、どんな事を思っていたのかな、とか。ちょっと気遣って書く人もいると思うけれども、それも含めて、ライブに関する事を書いてくれるのが嬉しい。

 菊池さんが、投稿していた。


【流し目が、エロいと云った、お前の色気】


 これは……? 又勘違いするような書き込みを。

 大体私は、「エロい」じゃなく、「色気がある」って云ったんだから。

 違う人の事かな? けれど……同じ日に、流し目がどうのこうの云うかなぁ?

 でも……。


 ああ、もやもやする‼ ふりだしに、戻る。

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音楽と、不安 青山えむ @seenaemu

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