第21話 人の噂とネットの噂
This Message From NIRASAKI N-TOKYO JAPAN
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ビッグニュース! 我らが地元のサッカーチームが、ヨーロッパから遠征に来たチームに大勝利! もはやサッカーなんてしても仕方ない、と思わなくもなかったけど、こうなると、俄然、興味がわく。我らが地元は日本代表を輩出した、素晴らしい街でもある。ドクも珍しく、嬉しそうだった。
で、こういうことをすぐにネット上にアップするのが、平成の人の特徴だよね。えーっと、ツイッター、だよね? 今ではもうなくなったんだけど、それは例のVR機器の発展による。別にテキストで情報を世の中に公開する必要性も、冷静に考えてみたらないんだけどね。だってそうでしょ? どこにでもいる一般市民に過ぎない、君の日常を、どこの誰が知りたがる? まぁ、僕にもVR友達はいるから、あまり否定したくもないけど、VR友達は、アバター禁止のプライベートスペースでしゃべっているわけで、ツイッターでのつながりとは、少し違う。ツイッターのような不特定多数とのつながりとか、匿名での交流は、今の時代には基本的になくなった。あまりに危険だと、多くの人が認識したんだ。
SNSと呼ばれるものが平成の終わり頃に隆盛を極めたのは僕も知っている。ネット黎明期からあるだろう、掲示板、というものもあったと知っているよ。でもどちらも今は、ほとんど消えた。一部のマイナーなユーザーが使っている機能だけど、これは国による規制のせいで、ほとんど骨抜きだ。僕が中学生の頃に、そんな規制が発生するほどの重大事になったんだよね。当時の中学校を思い返すと、僕も変な感じがあったと感じる。僕はほとんど友人らしい友人がいなかったけど、他の連中を見ていると、どこかぎこちないというか、前の日の放課後に笑顔で別れたのに、翌朝にはギスギスしている、ということがよくあった。僕も友達とネット上で交流していて、その時は今ほどじゃないけど、VR機器を親が貸してくれたので、それでアバターで交流していた。プライベートスペースが多かったけど、それでも、そこは秘密基地のような場所で、様々な噂が乱れ飛んだものだ。だから、僕はクラスの連中も、そういう文字にできない汚い言葉を、ネットの闇の中で喚いているんだろうとは、想像はしていた。
ちなみに、この時点でアバターは現実の姿から大きく逸脱してはいけないことになっていた。そもそも、個人情報を登録しないと、使用できなかったけど。アバターに関しては、ゲーム内などでは、まったく違う姿になることは可能で、今もそこは守られている。しかし、ほとんどの領域では、自分の姿を維持する必要がある。
話を戻そう。そんなネット上で膨れ上がる一方の憎悪は、十代の少年少女に悪影響を与える、という主張が、湧き起こった。実際、子ども同士の喧嘩や、大きな事件が起きるようになり、大人たちもいよいよ本気になった。平成の頃から十年は余裕で過ぎていたから、遅きに失したのは明らかだ。もっとも、大人たちでさえも、ネットの闇の不透明さ、そして間違った自由に、浸っていたんだろう。
ネット上での発言が規制されるようになり、今では、ものすごく下品なことを発言して、その音声をデータとしてネット上に残したとしても、そのデータは部分的に規制されるため、修正音が挟まれる。テキストも同様だ。消されてしまう。健全な空間になったといえばどの通りだけど、窮屈に感じる面もある。きわどいジョークはみんな消えちゃうからね。でもこれは、僕たちの自業自得ではある。
ネット上に情報が溢れて、これがビッグデータとか呼ばれたけど、今では、ネットグラウンド、とも日本人の中では呼ばれている。もう一つの大地、ってことだね。令和の初期には、この巨大な情報を整理したり分析して、コンピュータがユーザーを半ば支配する事態が出現したんだ。最初は誰も気にしなかった。例えば通販のアプリ、例えば動画配信サイトのアプリ。開いた画面に表示される商品や、表示される動画。徐々に違和感が生まれてきたのは、あまりにその商品やら動画が、利用者の心理をついてくるからだった。この段階で利用者は、発信者が、あくまで自然に情報を限定している、という事実に気づいたんだ。それがコンピュータによる支配、と一部で報道され、やや混乱が起きた。便利だからそれでいい、という意見もあった。通販サイトが扱う商品は膨大で少しくらい限定されないと不便だし、動画配信サイトもこちらの好みを理解してもらった方がいい動画に出会える、という発想による。で、議論の結果、コンピュータによる情報の限定を解除する権利、が利用者に認められた。
ネットというものは令和が進んでも変化せず、僕たちの身近にある。正確には少しずつ変化はしているけど、それはネットというものが、今の時点でも生まれてから五十年も経っていない、若い存在だからだと思う。自動車が発明されて、一般に普及して、それが電気自動車になって、さらに自動運転車になるまで、どれくらいかかったか、想像してみてほしい。つまり、ネットもまだまだ子どものようなもので、未来には大きな可能性がある。今の時点での規制とかも、その可能性をより良い形で現実にするための、礎石みたいなものさ。
さて、サッカー中継の長い長いインタビューとリプレイ映像も終わったし、そろそろ引き上げよう。実は試合の映像は、ドクの家にある最新型のVRゴーグルを借りて見ていた。ドク自身は一つ前の型のゴーグルを使って見ていたけど、まぁ、ドクはサッカーにそれほど強い興味もないだろうから、許されるはず。さすがに二時間近くVR映像を見ると目が疲れるので、最後だけは、モニターで眺めたわけだ。この文章を音声入力しながらね。ドクはまだVR世界にいる。
では、今回はこの辺りで。
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P.S. FREEDOM in the WEB is Nothing
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