第20話 住宅事情と集団の破綻

This Message From NIRASAKI N-TOKYO JAPAN

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 こちらは雨だよ。仕事が終わってからドクの家に行って、ちょっと雑談をしているうちに、ドクが新しい倉庫を建てたい、と言い出して、困った。確かに今の倉庫も、ガレージも、とんでもない混雑ぶりだけど、新しい倉庫なんて、どうするつもりだろう。まだ場所も決めていないようだけど、僕の移動が面倒にならないといいんだけど。自転車で行ける範囲にしてほしい。

 人口の集中が行われた結果、今の時代、もう自治会のようなものは消え去った。昔の人は、自治会を結成して、草刈りだの、清掃活動だの、自治会で持っている山の手入れだの、そういうのをしたらしい。僕より前の時代だし、そもそも僕は都会人なので、草刈りなんてしたことがない。ネット検索するとビーバーという単語がヒットしてくるけど、草刈機のことらしい。結構、かっこいい見た目だけど、ビーバーというのが商品名なのか、それとも愛称のようなものか、よくわからない。僕だったら、八つ裂き光輪、とか、そういう感じにしたい。

 話が逸れた。というわけで、都会でぎゅうぎゅう詰めで生活する結果、行政の皆さんはかなり手を焼きつつも、住民の自治性のようなものを丁寧に奪ってくれたわけだ。税金を払っているので、ゴミ収集はきっちり行われ、ゴミ集積所もきちんと管理される。そこらの道端の草も、たまにどこかの老人の集団が摘んでいて、これは自主的な行動ではなく、未だに延命を続けている、シルバー人材センターだとわかる。お揃いの服を着ていて、背中に大きくそう書いてある。

 僕からすれば、自治会なんてもう時代遅れだし、自治会があることで得られる利益よりも、むしろ、そういう自治会での仕事のようなものをしなくちゃいけない不利益の方が、多いと思っている。多分、今の若年層はみんなそう思っているだろう。都会にありがちの、人間関係の希薄さは、今の時代もある。人口密度がここ三十年でものすごく集中しても、その希薄さは変化せず、つまり、当たり前になった。

 僕が生活している集合住宅は、三棟ほど、全く同じ建物が並んでいる。六階建てで、一つの階に二十の部屋がある。全部が同じ間取りのワンルームだ。六畳しかないけど、僕は別に不自由していない。今の時代、ほとんどの人がそんな感じの狭苦しさの中で生活をしていて、一軒家を持っている上にガレージや倉庫があるドクのような人は、勝ち組というか、金持ちだ。ドクがどれくらいの税金を払っているか、僕は怖いので聞かないことにしている。聞いてしまったら、僕はドクに対する印象を変えざるをえない気がする。

 それで、僕が住んでいる集合住宅だけど、築二十年は過ぎている。僕が部屋を借りてから十年近く過ぎているけど、他の部屋での出入りもそれほどない。知っている住民はわずかだけど、新しい顔は滅多に見ない。顔見知りは変わらない顔ぶれのまま、じわじわと年を取っていて、それは僕も同じだろう。集合住宅の住民の集会は、全くない。住民同士の揉め事もないようだね。思い出した、二、三年前に、ちょっとしたケンカがあり、警察が来た。その時の住民は二人、追放されたね。どちらも一人で生活していた。それもそうか、六畳を例えば恋人同士とかで二人で共有するなんて、背筋が寒くなる。

 というわけで、夫婦や家族のための大きな集合住宅もあるけど、最近になって建てられるのも珍しい。令和になってすぐくらいに、そこかしこで大規模な集合住宅の建設ブームが来たんだよね。でもそれから十年以上が過ぎてみれば、人口は減りに減って、建物は余っている始末さ。だから新しく建てるなんてことは誰もしない。古い建物を、騙し騙し使う。

 老人たちは元気な人が多くて、そんな人たちは過去の栄光とも呼べる自治会を復活させようとする向きもあるけど、若者は全く乗っていない。総スカンだね。結果、老人たちだけが集まって、老人会のようなものが今も作られ続けている。それでも六十代程度の初老の人から上、だね。そんな集まりの中には、同郷会、と自称する集団もあって、これがメディアでちょっと話題になったりした。この集まりは、人口集中が行われたがために地方から都市部へ移住した人たちが、同じ故郷を持つ人で集まろう、という意思の元で結成された集まりだ。ちょっと規模の大きい同窓会と思ってもらえればいい。

 僕の世代からすれば、そんな集まりはネット上のVR空間で済みそうなものだけど、老人たちは未だにVRを信じていない。VRの中のアバターは作られたもので、真実や実像ではない、という主張が、飽くことなき彼らの理屈である。前時代的だなぁ。映画「レディ・プレイヤー1」を見てないのか? いや、あれを見たら、逆に不信感を持つかも。でももう、あれから長い時間が過ぎている。老人の頑固さは、どの時代でも変わらないんだろう。

 ドクも老人だけど、彼は非常に進歩的で、同郷会にも入らない。そもそも、どこの出身だろう? 山梨だと思うけど。

 おっと、ドクが売り出されている土地の情報を探し始めた。止めなくちゃ。

 また、メールする。






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P.S. Please Check “PSYCHO-PASS” First Season! Last Scene!

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