第10話 書店の衰亡
This Message From NIRASAKI N-TOKYO JAPAN
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ちょっと風邪っぽい。病院に行く前に、ドクの救急箱を漁ったら、瓶に入った錠剤が出てきたんだ。瓶に貼り付けられた表示を見ると、今の僕の症状に合うようなので、適当に飲んでおいた。伊藤計劃の世界だと、こんな手間もないはずだけど、まぁ、真綿で首を絞められるよりはいい。
というわけで、僕は堂々と仕事を休んで、ドクの作業場でのんびり過ごして、今、夕方だ。昼間に眠っておけば回復も早かったかもしれないが、眠るのは夜にもできるし、夜こそ寝るべきだろう。僕は昼間に眠ると夜に眠れなくなる。
で、ドクの作業所に行った理由は、昔ながらのマンガ本が読みたかったからだ。藤田和日郎の「からくりサーカス」全巻と、荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」の第三部の全巻。これがどちらも、ほぼ完璧な状態で作業所の書棚に並んでいる。「ジョジョの奇妙な冒険」は第六部が最高だ、とドクは僕に何度も何度も、ついに認知症かと思わせるほど、しつこくオススメしてくるけど、ここの書棚にはない。どうも、あまりに好きすぎて、どこかに隠して、厳密に保管してあるようだ。僕はといえば、図書館でその第六部を借りて読んだけど、結びが謎すぎて、がっかりした。ちなみに一番好きだったシーンは、フーファイターズを畑で乾燥させる奴。えげつない。
そう、図書館といえば、平成と比べて図書館は激変した。大半の図書館はもっと小さい建物に移転したんだ。今の図書館にあるのは、蔵書を確認できる端末で、これも賑わっているとは言えない。大抵の図書館はそう言った書籍案内所のような役割になってしまっている。
全ての本はデータ化された。既存の紙の本の電子化は、一時的に経済を活発化させるほど、劇的な業務だったね。でも三年くらいで落ち着いた。日本人は仕事熱心すぎて、偉大な事業をあっという間に完了させてしまう。少し手を抜いてもいいのでは?
そんなわけで、紙の書籍は高級品で、出版されるとしても電子版も同時に発売される。こうなっては図書館は本を置いておく必要はなく、ただデータを収集し、それを管理するのが仕事になる。もう大きい建物がいらないが、わかろうというもの。
肝心の書店がどうなったのか、はっきりしている。個人書店は九割九部九厘が消え去って、残っている書店は、ほとんどが大型書店だ。その大型書店も、図書館とやっていることは大差なくなった。大型書店は、書籍の情報をチェックするための場所で、出版社は刊行前の書籍の情報を、ここで公開、販売する。ネットを介しての電子書籍の発売より前に、ここで商品を展開することで、大型書店は生き残ったことになる。読書家の諸氏は、事前販売のこのデータを大型書店で手に入れるけど、それは全部ではなく一部のデータしかなく、書店が販売する補足版(刊行前に手に入る情報の続き、最後までだ)を刊行後に手に入れることになる。ただ、空振りに終わって事前販売版で読むのをやめにして、補足版を買わないことも多い。僕はそれほど本を読まないけど、大抵は補足版を買わない。
というわけで、大型書店は情報拠点という意味が強い。そんな中で、個人書店はどう生き延びたのか。
生き延びた一部は、書店と何かの併設を推進している。これは平成にもあったけど、喫茶店と書店を合わせるようなスタイルだ。しかし、これはカッコつけが好むような店で、何かを飲みながら本を読むのに、いちいち外へ出ずに、家で済ませることは自然とできる。まぁ、そういう、えっと、平成でいうと、何だっけ、伊達男? 違う、えーっと、そう、できる系? あっているかな、いや、意識高い系、かな、まぁ、そういう奴は、令和にもごまんといる。
他に生き延びる道を辿ったのは、あえて紙の本を揃える書店。しかしこれは高給取りの道楽とか、懐古趣味に近いね。僕は人生で二回、行ったけど、正直、怖くて紙の本に触るのに緊張した。この一冊に傷をつけたりすれば、とんでもないことだ。
電子書籍のサービスをしている会社は、減っているものの、大手企業のサービスが終了された事態は、令和では二回だけだ。僕は運悪く、そのうちの片方を利用していた。マニアックなSFをまとめている会社の電子書籍を、だいぶ収集して、正直、悦に入っていると言っても問題ないほど、満足と自負があったけど、これは一瞬で瓦解した。あの時のショックは、ちょっと他に類を見ない大きさだった。落ち込んだね、あれは。ただ、すぐに気づいたけど、端末に全部を放り込んでおけばよかった。よかったけど、すでにソフトドライブが一般的で、ハードドライブはものすごい値段だった。で、ドクにねだってどうにか平成の頃から使っているというメモリーカードをもらった。少ない容量のほとんどが何十年も前の写真で埋まっていて、ドクが写真を消すな、と言わなければ、僕はそれを全消去しただろう。でもできない、悔しいことに。で、どうにかこうにか、電子書籍のデータを百冊ほど、カードに移した。これでカードの容量はいっぱいになった。こうして僕のコレクションの八割が失われた。今思い返しても落ち込むし、それでもメモリーカードを見るたびに、少し落ち着く。僕の大事なメモリーカードはドクが手放さないので、電子書籍リーダーとカードの中身を入れ替えるときには、ドクを訪ねないといけない。不便だが、まぁ、ドクと会えるし、悪くもないか。
というわけで、紙の本はおおよそ消えた。消えたけど、面白いのは、ドクの作業所のデスクの上だ。
ドクの作業机の上には、無数の紙が散らばっていて、そこに様々なアイディア、数式、設計図、落書き、罵詈雑言、そういうものが書き散らかされている。これが地味に面白いんだけど、ドクはたまにこれを全部片付け、まとめて、倉庫へ運んでいる。
書籍というものがなくなりかけている時代でも、紙に何かを書く、ということは忘れていないし、それは時には閃きの始点になるようだ。
でもドクは、その紙がものすごく高価だって知っているのかな?
自分で買っているのかな? それとも後援者からの贈りもの?
もしかして、ドクの評伝を書いた出版社から、もらったのかも。
それくらい、紙は貴重なんだよ、この時代。
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Reply - Impossible.
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P.S. Read Or Die!!!
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