光る財宝と姫君の銃

 ちょっと涼しくなったのに、まるで病み上がりに無理をしたが如く、夏の熱はぶり返した。俺は百貨店の中に駆け込んで、一番クーラーの効いたエリアを求めてふらふらとさまよっていく。

 今日は姉と待ち合わせだ。買い物をするのだけど、壮ちゃん良かったらお昼どう。おごりだと聞いて、俺は一も二もなく飛びついた。スマホを見ると、すでに姉からメッセが来ていて、化粧品売り場にいるから来ないかという。来たくないなら終わったら連絡すると。

 あの化粧気のない姉が化粧品売り場!面白くて、俺は指定された店に行った。少し猫背気味の姉が、係の女の人に化粧を施されているのが見える。

「姉ちゃん」

「はぁい」

 振り向かない姉は間延びした声で返事をする。係の人は、肌色のスポンジで姉の顔をちょこまかと拭うと、コンパクトを開けて、その中身を塗りつけた。女の子向けの変身ヒロインのイメージが抜けない。ああ、あれは実際に大人が使うものだったのか、と今更ながらに理解した。

「いいですよ」

 係の人が頷くと、姉は振り返った。

「待たせてごめんね」

「大丈夫…」

 あの化粧気のない姉が化粧品売り場。おかしくって見に来たけど、何もおかしいところはなかった。母やおばさんもしていた化粧を、姉がしているということが、俺には彼女が法事にいるその他大勢の女になってしまった気がした。

「変?」

「ううん。なんも変じゃないよ」


「壮ちゃんはねぇ、小さい頃私が持ってたコンパクトのおもちゃすごい欲しがってたんだよ」

「そうだったっけ?」

 俺はとぼけた。よく覚えている。姉が開くとピカピカ光るおもちゃが、まるで、財宝の詰まった宝箱を開けたかのようで、冒険心をくすぐったのだ。本物のコンパクトには、肌色をした塊しか入っていないのだと知ってから興味を失ったのだけど。

「私は壮ちゃんのカウボーイセットが好きだったな」

「拍車が?」

「壮ちゃん、光り物が好きねぇ」

 姉は笑った。

 ピストルがかっこよくて好きだったのよ。ヒロインみたいな顔して、姉はそんなことを言った。

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さみしい何かを書く 目箒 @mebouki0907

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