ハグレ恩恵

「おい、おいおいおい何だよそれ」


その男もギルの変化を感じ取ったのだろう。


普段『身体活性バースト』を使えば、70%の力を出しただけでも翌日身体に支障が出る。


しかし今、彼が実感しているのはそれを遥かに上回る。


低く見積もったとしても、200%の力が体内で暴れ回りたがっていた。


「まさか、あれって--」


曖昧な意識のなか、リラはギルの姿を目に焼き付けようと岩陰から身体を覗かせる。


彼女のなかでは1つ、今のギルに関してある仮説が立っていた。


そもそもリラがギルに与えた『身体活性』とは、その名の通りただ身体能力を通常値よりも高めるという、いわばだ。


対して実力のある守護神ともなると、自らで好きな恩恵を気に入った人間に与えることもでき、またを生み出すこともできるのだ。


しかし何事にもイレギュラーは存在するもので、それは恩恵も例外ではない。


リラはずっと、自分は大好きなギルに何もしてあげられない守護神だと考えていた。


簡単な傷も治せない。


彼を強くしてあげることもできない。


新しい剣や防具を買ってあげられない。


ダメなところばかりが浮かぶのに、ギルはそれらに文句を言ったことがない。


むしろ感謝をしてくれるのだ。


2人の出会いは、他人が羨むような運命的なものではなかっただろう。


しかしリラは心の底からギルの守護神になれて良かったと思っていた。


「もともと持っていた恩恵が、新たな恩恵へと生まれ変わる特殊事例--」


守護神同士でも予測が付かないことから、彼女たちの間ではと呼ばれている。


一体自分がヘマをして気を失っている間に、彼は何をしたのだろう。


何をきっかけにして、以前の彼を凌ぐ強さを得たのだろう。


願わくばそれが自分だったらと、リラはギルを遠くから眺めていた。


「なぁ、最後に1つだけ聞かせてくれよ」


油断でも、奢りでもなく勝利を確信したギルは、こう語りかけた。


「な、なんだよ…」


こちらはこちらで何かを感じ取ってしまったのか、ギリギリ保っている戦闘意思で返答をした。


「お前がどこに属する誰で、何を企もうが勝手だ。……だがな、リラに手を出したことだけがミスだった。今この場で、反省の意を述べる意思はあるか?」


「…くくくくっ…反省?誰にだよ」


最初は気のせいかと思ったが、やはり男は静かに、そして不気味に笑っていた。


「リラにだ」


「……………ねぇなぁ。あるわけねぇだろーがよぉ!オレたち条理卿会の野望を果たすため、あの女は----」


天を仰いで高らかに笑い叫んでいる途中、何かを感じ取って顔を下に向けた。


「聞く価値もない」


ギルの拳は男の腹部にめり込み、明らかに骨を砕く音を響かせた。


直ぐに後ろへ吹っ飛ぶことはなく、その場で相手はに曲がり、殴り1つで第1階層全体を揺るがした。


「うぅふぐぉっ…!」


衝撃の余波が収まってから、男は血反吐を吐きながら遥か後方へと吹き飛んだ。


そしてそのことには興味を示さず、今度は、まるで何かに取り憑かれたかのように、ギルはその場に立ち尽くす。


何を見ているのかと思えば最初に蹴散らした4人の男たちで、ギルの口元は彼らを前に何故か不敵に緩んでいた。

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ダンジョン攻略なんて口で言うほど楽ではない 千崎鉄将 @yuuuuoona

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