未完成

「やれるもんならなぁ!」


男は次々と刃物を繰り出し、間髪入れずにギルへと投げつける。


しかし数が多かろうが結果に変わりはない。


表情1つ変えないギルは相手を嘲笑うかのごとく、片手でリラを抱き、もう片手で剣を抜いて次々と弾き落としていった。


「クソッ、クソクソクソクソがぁっーー!」


「急に語彙力がなくなったな」


何もないところから刃物を生み出す…。


初めて見る攻撃だ。


確かそんな恩恵をもつ冒険者も話には聞いたことがあるが、仮にそうだとすると、


「そーいやお前、なぜリラを攫った?」


ギルはなるべく情報を得ようと、敢えて彼から攻撃は仕掛けない。


何から何まで疑問点が多すぎるのだ。


「はっ、ホントに何も知らねぇんだな」


「…なに?」


「小僧、お前その守護神がどれだけ価値のある存在か知ってるか?」


攻撃を止め、男はリラを顎で指した。


「さぁな」


「守護神さまってのは、自分たちではどうにもならないダンジョン攻略のために人間に恩恵を与える。これが一般常識だ。恩恵は無差別に与えられ、1人の守護神から複数の人間にも分け与えられる…。だがそれは、恩恵に限るんだよ」


「……何が言いたい」


「その女がお前に与えたのは、恩恵だろ?つまりまだ、そいつが与えられる最強の恩恵が与えられてないままってことだ。そしてオレたち『条理卿会』は、守護神から強制的に恩恵を授けさせるシステムを持っている」


そのシステムというのが、おそらくあの祭壇のことか。


「なぜたちのことを知っている」


「ふん……今から死ぬやつが、そんなこと気にしてどうする?まぁ、死に土産に教えておいてやろう。このダンジョンを管轄する統括本部だが、?」


男が地面に手を叩きつけると、地中から無数の槍が突き出してきた。


スピードは大したことないが、ランダムなのと威力があるのが厄介だった。


砂埃に乗じ少し離れた所へ移動したギルは、これ以上怪我をさせないためにもリラを静かに下ろした。


、直ぐに終わらせて帰ってくるから」


ギルは男に気づかれないよう背後に回り、首の根元めがけて回し蹴りを放つ。


しかし直前に槍が邪魔をし、逆に攻撃を仕掛けられる。


「良いな、その技。楽そうで」


間合いを取り、身体全体に力を込める。


そのときギルは不思議な感覚に包まれた。


なぜだかいつもより血が滾る。


「………う…うん…」


激しい攻撃音に、リラはゆっくりと目を覚ました。


ここは……あれ、なんで私こんなところに…。


思い出そうとし、身体の至る所が痛むのが分かった。


そうだ、確かアルバイトを早退して街へ買い物に行く途中、バーバラ亭でルナンが追い払った刺青の男たちに捕まったのだ。


『無垢の守護神』がなんとか言っていたが、よく覚えていない。


「ここは…ダンジョン…?」


そのときようやく、少し先で戦闘が行われているのに気付いた。


埃が舞っていてよく確認できないが、自分に向かって顔を見せているのは、あの刺青集団のリーダー格の男だ。


そして自分を守るように戦っているのが--。


「ギル君?」


それはリラがよく知る彼の姿ではなかった。


纏うオーラは禍々しく、なにか赤黒い電流のようなものが迸っている。


守られているというよりは、目の前の敵を殺そうとする意思を感じる立ち姿だ。

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