読ませて! 横暴編集長! 篇
第6回 読ませて! 横暴編集長!
ウハウハシェイクスピア
お久しぶりでございます。
今日はいつもと趣向を変えて、「
……えー、コホン。
さて
……そうそう、シェイクスピアであります。まぁ、アタクシの教養の片鱗をお見せ致しますと、かの御仁の四代悲劇といやぁ、アリ王、グスベリ、ハムエッグにブロックスときたもんだ。……え、違う? リア王、マクベス、ハムレットにオセロだぁ? ……だぁぁ! 細けえこたぁ、いーんだよ!
……えーまたも、大変失礼致しました。
まぁ、エゲレスを代表するお方ですから、他のエゲレスの有名人の中にもかの御仁のファンの方がそれは沢山おりました。
これからお話する、デイヴィッド・リビングストン先生もその一人と言われております。
ちょいとそこのお客さん、知っておいでですか? ……何、知らない。それじゃ、知らざぁ云って聞かせやしょう、デイヴィッド・リビングストン先生は、探検家でお医者で宣教師という、何ともマルチタスクなお方でございます。今じゃぁ世界遺産であるヴィクトリア滝を発見し、
とはいえ、三度に渡るアフリカ探検の合間にはエゲレスに帰国しておりましたし、その間に「南アフリカにおける宣教師の旅と探検」、「ザンベジ川と支流」という、二冊の書物を出版しております。
これらには、アフリカの地勢、動植物、先住民族……等など、多岐に渡って記述されており、当時の欧州列強に対する「アフリカ観」への影響は絶大だったのでございます。
で、先にも申しました通り、これら二冊にはアフリカの先住民族のことも記されているんですが、ひょんな事情で掲載されなかった部族があるというんですよ——
時に一八五七年、リヴィングストン先生の居室でのお話であります。
件の「南アフリカにおける宣教師の旅と探検」の執筆の合間にパイプを燻らせ、先生は本棚を眺めます。そこにはずらりと並んだシェイクスピアの作品の数々。
それを眺めて先生はふうぅ、と深い溜め息を吐いたのであります。
「あなた……。どうかされまして?」
執筆中の夫に労いの紅茶を持ってきた妻のメアリーが心配そうに声を掛けます。憂い漂う夫の背中が気になったんでしょうなぁ。
「……メアリー。ちょっと引っかかることがあったんだ」
夫の苦悩の表情にメアリーも笑顔も曇がちです。
「執筆がうまく行かないんですの?」
「いや、そういう訳じゃない。ちょっとある部族のことで頭を悩ましていてね」
「あら。よろしければ、私にもお話をお聞かせ願えませんか? 何か、力になれるかもしれませんもの」
「ありがとう、メアリー」
優しい妻の言葉に、リヴィングストン先生の顔も綻びます。そうして、先生は話し始めたのであります。
ヴィクトリアの滝から百マイル離れた平原に変わった部族が住んでいたんですな。何を聞いても「ウハウハ」しか云わないその部族は、先生たちの間では「
「——気のいい人達だったよ。いつもニコニコして、我々にも良くしてくれた。しかし、一つだけ気に食わないところがあったんだよ」
そのウハウハ族、嬉しいことがあると、踊りでその喜びを表現したんだそうです。
「——その踊りというのが、棒を振り回しながらするんだよ。でもね、どうにも、人を小馬鹿にしたような踊り方なのさ。見ている人間にお尻を向けて、ペシペシ叩いたり、舌を出してアカンべしたり、ね。それをしているウハウハ族には何の悪気もないのは分かるんだけど、見ているとだんだんこっちの方が腹が立ってくるんだよ」
「まぁ」
「で、問題はここからだ。彼等ウハウハ族が、普段我々に見せてくれるのは日常生活のもので、神聖なる儀式の踊りは少し違ったんだ」
「あら、何処が違ったんですの?」
「神聖な儀式の踊りは棒じゃなく、それ専用の槍を使って踊るんだよ。でも、踊り方はほとんど変わらない。相変わらず、お尻ペンペンのアカンべなんだ。……何だか、あの踊りを思い出しただけでも腹が立ってきた」
メアリーさんが見ていても、夫がイライラしているのは見て取れた。それだけ人を小馬鹿にしたような踊りなんでしょうなぁ。
「今執筆中のこの本には、アフリカの様々な部族を紹介してる。でもね、このウハウハ族だけは書いていて気分が悪いから、掲載を止めようか悩んでたんだよ。でも、決めた。やっぱり、止めることにするよ。一つぐらい、謎の部族があってもいいじゃないか」
「そこまでのものなんですか……」
「ああ、この一文を書いたら、我が大英帝国の誇るシェイクスピアまで馬鹿にされてるような気分になるからね」
リヴィングストン先生の書いた原稿にはこう書かれていたんですな。
「
お後がよろしいようで——
※註1:クイズグランプリ……1970年3月30日から1980年12月26日までフジテレビ系列局で放送されていたフジテレビ製作のクイズ番組のことである。
カクヨム寄席「御題拝借」 大地 鷲 @eaglearth
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