第9話

「なにバカやってんの?先輩がすぐに眠らせたから実害なんてないでしょ」

鳩村が地べたにうずくまりながら呆れ顔で呟く。

「馬鹿野郎。男にとってはかなり繊細な問題だぞ」

そうですか、といいたげな表情で鳩村はガッチリ握手をしている二人をみている。

「で、話は変わるんだが。君は私たちの計画に協力してくれるということでいいんだね」

「この街の被害が拡大しないように魔物の駆除をするのに魔法が使えないから、代わりに俺がするっていう話ですよね」

そうだね。と相槌を打たれる。

「最初に君には魔法の概念を簡単に説明しよう」

柔らかく身振り手振りで日高さんはそこから火がついたように事細かに説明し始めた。

「まず私たちの体の中には生きるために必要なエネルギーがある。そしてそれは動物、植物問わず生き物がいるところには必ずある。それを転用しているのが魔法なんだ」

なんだろう、ファンタジーものの漫画とかアニメみたいなテンプレをなぞるような説明に少しばかりゲームか何かの追体験している気分になってしまう。

「しかし、この世界の架空の魔法とは別物で規則によって万能な力としての効力はないんだ」

出来ることと出来ないことが存在するということなのだろうか。

「私たちの世界にも槍や弓などの武器もしっかりある。でも疑問に思わないかい?魔法で全て解決できるならそんなもの無用の長物だろう?」

たしかに、そっちの方が明らかに戦略的にもコスパ的にもそっちの方が全てにおいて有利にことが進むはずだ。

「そう言えば鳩村がなにか言っていたな。殺しをすると良くないことが起きるとか」

「厳密に言うと魔法で何かを成そうとするにはそれなりの犠牲がつく。治癒、人身掌握、生物の殺害、この三つの魔法は禁忌とされている」

「犠牲ってどんなものですか?」

優しそうな日高さんの面持ちが少し真剣になる。

「例えば治癒だったら、自分に怪我や病気が降りかかってきて。人身掌握の場合は錯乱状態に陥る」

とにかく魔法には行うことにそれ相応の裁きが問答無用で下されるということで、つまり鳩村の言っていた通りに殺しをした場合は言わずもがなという感じか。

「でも清の怪我。あれはどうやって治療したんですか?」

「あれは鳩村の荒療治というか血液に混ざった毒を空間魔法で無理矢理透析させたって感じだね。あいつはああ見えて空間のスペシャリストだからレギュレーション違反ギリギリも普通にやってのけるのさ」

「ま、全部の摘出は無理だったけども」

不服そうな顔で舌打ちをする。鳩村は相当な自信家なのか私は全部毒を取り除けたとでも言いたげに悔しそうだった。

「それじゃあ、そろそろ本題。私たちの計画の全貌とその誤算、諸々について説明させてもらうね」

ここから俺はどんどんこの事件にどんどん引きずりこまれていくのだった。

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mo/ON 新森たらい @taraimawashi-guruguru

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