第8話

 とてもいい夢を見ていた気がする。そしてなにかデジャヴを感じる。数時間前にもこんな状況に置かれていた気がする。ただ今回は気分がいいというよりは気持ちがいいと言ったほうが正しい。もう少し見ていたいというか男として留まらなければいけない気さえする。

「痛い痛い痛い、ギブギブギブ!上司勘弁して!お願いしますからーっ!」

だが悲痛な叫びで目を覚ますことになる。


起き上がると眼鏡の男が本を読みながら女にサソリ固めをかけている最中であった。

「足、足が痺れて、腰がへし折れる・・・というより砕け散るぅ・・・」

「減らず口が言えるようならまだ大丈夫だな」

そう言い放つと男は思いっきり力をいれる。そして女の悲鳴が部屋中に響き渡る。その横には縄で簀巻きになっている鳩村が横たわっていた。なに?この状況・・・

「おっ、起きたか。気分はどうだ?」

「・・・えっと、どちら様ですかね・・・」

いろいろと状況についていけてない。なにがあったんだ。清が刺されて、いつの間にやら意識が飛んでて、それで今制裁を受けている女に容態を説明するからといって、おいしい朝食を食べさせてもらって・・・そこから先は記憶があやふやだ。

「お前は状況を説明しろって言っといたろうがっ!!」

そのとき、ゴキッという聞いてはいけないような音が聞こえた。そして女は力なく床に突っ伏した。

「失礼した。こいつのことは忘れてくれ、君にとってもその方がいい」

「はあ・・・、それであなたは」

「これは失敬。私は日高聖司。この二人同様魔法を心得ている者だ。君の友達の治療もしている」

ここに来て、まともそうな魔法使いが出てきたと思う。女子二人が蹂躙されていることを除けばの話だが。この人を信用していいのだろうか。

「とりあえず、清は無事なんですか?」

「命に別状はないよ。ただ多少毒が回ってしまっていて腕に後遺症が残るかもしれないが」

鉢合わせたタイミングが悪かったのか、いや。俺がとどめをしっかりと刺しておけばこんなことにはならなかったはずなのに。

「でも初めてにしては上出来だし、及第点だよ」

はあ、と覇気のない返事をする。

「とりあえずいろいろと説明したいんだけど、どこまで覚えているかな?」

「高級そうな朝食食べた辺りで・・・。・・・媚薬を飲まされたときだ!」

途端に日高さんはばつの悪そうな顔をして、情けない声を出す。そして俺は一夜の、いや白昼の過ちを起こしていないか気が気でない位に不安が襲ってきた。

「大丈夫ですよね!俺何もしてないですよね!」

「えっとだね。あいつに手を出しかけた時点で蹴り飛ばしたから大丈夫のはず」

「じゃあ」

「そのあと見境なしに私に襲いかかってきたときには戦慄したけどね・・・」

男達はそこで二人とも無言になったのであった。記憶から消し去りたい。どちらも同じ気持ちというのが痛いほどわかった。その時、ある種の友情とでも言うべきものがそこに生まれたのであった。


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