4月1日 -2-
鬱陶しさしかなかった始業式が終わり
体育館からみんなぞろぞろと出て教室に戻っていく。
僕もその一人だ。
僕はとりあえず教室を出て、屋上に向かった
屋上手前の扉を開けた。
開けた時、僕を押すかのように風が吹いた。
屋上には僕の顎下まで柵があり扉のすぐ近くに2人は座れるぐらいのベンチがあった。
それ以外は何の変哲もないただの屋上だ。
その近くにあったベンチに腰をかけてバックから本を取り出した。
学校のある日はいつもこうして本を読むのだ。
今日持ってきた本はシェイクスピア作'ハムレット'
僕は感情や情緒に訴えてくる小説が好きだった。
ベンチに腰掛けて始まりを読んだ。
世界観にどっぷりとハマっていていつからいたかは分からなかったが、読んでいる本が影に隠れた時に僕の後ろに人がいることに気がついた。
僕が見渡した時には誰一人といなかったので正直少し驚いている。
しばらくその影に気づかないフリをして読み続けた。
「何より肝心なのは、己に嘘をつくなということだ。」
その部分が丹精で優しさのこもった声で読まれていた。
やっぱり誰かいる…そう思い、影の元凶であるその誰かを見ようとした。
僕は上半身だけ動かすように後ろを向いた。
濡れたかの様な長い黒髪、透き通った瞳、眼の形はほんの少し細く何を見ていて、何を考えてるかわからないような形だ。
鼻は高くもなく低くもなく広くもなく狭くもなく丁度良く…
全体的に綺麗というより美しいの類だ。
その人は学校指定の鞄の紐を肩にかけて脇の下に鞄を挟み込むかのように持ち僕を見て立っていた。
太陽を背にして佇んでいた。
僕は太陽を隠してるその人を見ていた。
「シェイクスピアのハムレットだよね?」
「………」
僕は黙った。
いや、黙るしかなかった。
屋上に人がいる事に驚きしかなかったからだ。
「横座っていい?」
そんな事を言いながら横に座ろうとしてきたので、ベンチの端まで僕は移動した。
「……」
僕のテリトリーとも言えるこの学校の屋上に今、自分以外がいるとは思わなかった。
僕はどうしても悠真以外の人とは仲良くなれるとは思ってもいない。
というよりか、ここまで話しかけてくる人は少し苦手なタイプだ。
僕はそんな事を思い、読む事を止めていた脳と目を動かして黙読した。
「シェイクスピアが好きなの?」
僕の座っているベンチの端にスーッと寄ってきた。
「…シェイクスピアが好きってわけじゃなくて小説を読む事が好きなだけ…です」
僕はこの人はある程度話してつまらない人間ってのを理解しないと距離をとってくれない人間なのだと思った。
「ふーん、最近本を読まなくなったなぁ。」
「最近はマンガを読む人が多くなりましたから…」
返事をしてしまった事に気がつくとこれ以上喋らないぞと言わんばかりに直ぐに口を閉ざした。
「なぁーんだ!会話できるんだ」
「……」
「こらっ!黙らない」
その人は何故か笑っていた。
側から見たらただの変人だ。
黙ってるだけの僕に一人でツッコミを入れて足をバタバタさせるぐらい笑ってるのだから。
「君はいつもここにいるの?」
この人は僕が本を読んでる事にお構いなく話してくる。
そんな事を考えると、本を読む気が失せてしまった。
本を閉じてほんの少し俯きながらその人の質問に頷いた。
僕は本を鞄の中に入れた。
「何でしょうか…?」
本当に何故話しかけてくるのか理解ができなかった。
僕はそう言ってほんの少しあしらったのだ。
でもその人はそんな事をお構いなく、ちょっとだけ笑って
「私も最近嫌な事があって屋上に来ててね。まさか人がいるとは思ってなかった」
「そうなんですね」
「ちょっと堅苦しい!同じ学年なんだから普通にしてよ!」
「えっ?」
この人、見た事ないのに何故、僕と同じ学年だと気づいたんだ?
そう思ったが、あまり深く聞かない事にした。
他所からしたらつまらないだろうと思う話をしている。
そのせいあってか、ほんの少しの沈黙が続いた。
「誰か待ってるんですか?」
僕は何故、ここにいるのか理由を聞く事にした。
「じゃあ、そういう君は?」
「僕は誰も待ってません」
「私も…」
「………」
余計、気まづい雰囲気になった。
この空間にいる事が苦しくなっていた。
自分の家を荒らされた気分だ。
でも、本を読む気が失せてしまってるのでもうすこしだけここにいて黙ってようと思った。
その人は立ち上がって僕の後ろにある柵の方へ歩いていった。
柵に肘をついて僕の方を見た。
「君は、----た---って思ったことある?」
「え?」
僕は、急な質問で全く聞いていなかったし、思わず振り返ってしまった。
その人は普通の顔をしていた。
僕が顔をうつむかせて帰ろうとした。
「友達になろっ!」
吹いた風が耳に届くより前に、その言葉が耳に届いた。
僕は、その人の方を見た。
驚いているが平静を保とうとした。
「ねぇ、聞いてる?」
その人は僕の横に座ってきてニヤニヤしている。
僕はその姿を見てちょっと腹がたってしまった。
「僕は、人が嫌いだ。だから誰とも友達にはならないしなれないよ」
そう言って
僕はベンチから腰を上げて鞄を持ってその場から走り去った。
僕は、暗い屋上につながる階段を急いで降りて言った。
四月の雨は五月の花を咲かせる 空乃 南雲(そらの なぐも) @shinonome-yakumo
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