椿散る時

和之

第1話椿散る時

 椿散る時


 新選組隊士、福島の馴染みの店は高瀬川沿い四条木屋町を下がったところにあった。今日が非番の福島は祇園の芸子、生駒と今夜その店に泊まった。

 夜明けと共に身支度を始めた福島の背中に向かって生駒は声を掛けた。

「昨日はいつもと違って指ひとつ触れはらへん、どないしゃったんどす」

「そうか……」

 福島は振り向きもせず力なく答えた。

 生駒は着物を整え寂しく櫛を入れた。

「何でそう冷とうならはったんどす。……もう内のこと嫌いにならはったんどすか」

 福島は生駒の顔を見直して激しく否定した。

「そうじゃない。ただ・・・」

「ただ? ・・・どうしゃったんどす」

「お前が今日は余りにもいとおしからだ」

 今日は変な事を云うと生駒は思った。

「それやったら何で抱いてくれやらへんかったんです」

「いとしさゆえに抱けなかった」

「そんなん理由にならしまへん、女にはそんな言葉通用しまへん。あてのどこが気にいらんのどす」

 恋は言葉や理屈じゃないと生駒は言いたげに迫ってくる。福島は言葉を探りながら女と膝を突き合わしたままじっと瞳を擬視続けた。耐えきれず生駒は眼をそらした。

「何でそんないけず言わはるのどす。まるで今日で終いにしゃはるような物の見かたどすやん。壬生で何かおましたんどすか?」

壬生と云う言葉に福島の眼が鋭く生駒を捕らえた。

「なぜいつも壬生の事を訊く!」

 この女に限ってと思っていた福島は動揺した。やはり京の町衆は公家と似たり寄ったりで他国者を言葉ではぐらかすか、しかしこの女は本当に長州の女なのか?。

 幕末に吹く都の風は凄まじく、多くの人々は己の心を把握するすべてを見失ってゆく。

「そんなことおへん。ただあんたはんが新選組のおひとどすさかい……」

「だから壬生の事ばかり聞くのか」

「そんなことあらしまへん。そやかて何も喋らへんおひとやから、内がいろんな事を聞くはめになってしもたんどす。ただそれだけどす」

 弁解する生駒に一点の動揺も陰りも見られなかった。

「悪かった」

 この女の生国に拘り過ぎた。福島は頬を緩めて絞り出すように低い声で呟いた。

「あんまりいけず言うて内を困らさんといておくれやす」

 生駒はまるで素人娘のように愛くるしい顔をして瞳に笑みを浮かべていた。

 福島は判ったように頷いて店をあとにした。

 冬の若狭街道は日本海を渡る寒気を京の都まで運ぶ。北山杉を震わせ都の鬼門、叡山から比叡下ろしとなって寒気を集めて加茂川に沿って一気に都に流れ込んだ。更に鴨川に漂う冷気は都の人々の隙間風となった。

 比叡の山並みが霞みだすと雪が舞って来る。雪は福島の背中で舞い上がり吹きすさんだ。


 生駒が長州の女だろうと祇園の女だろうと、このまま添えるなら俺にはどっちでも良い。福島は沖田に言いくるめられた事など吹っ切れてしまい、ある決意を秘めて屯所に帰って仕舞った。

 屯所に戻った福島はすっかり腰を落ち着かせた。そこへ沖田がさっそくやって来た。

「どうでした」

 彼の落ち着き振りを見て安堵して声を掛けてきた。

「土方さんはあなた自身で始末させることでそれ以上は問わぬつもりですよ」

 先日、沖田から生駒は長州の手先だと云う探索方からの情報を聞かされていた。今日はそれを福島は確かめに行ったのである。

「沖田さん、あの女から屯所の情報は漏れていませんから女を責める理由はありません」

「福島さん、そう云う話ではないんです。一度目を付けられれば他の者への示しがつきませんから、福島さん、あなたの手で殺って下さい」

 ーーやはりそうかも知れぬ。しかし、もう遅すぎた。彼女はともかく俺は……。澄んだ瞳でじっと見詰める生駒の姿が福島には焼き付いてしまった。

「俺には女は切れぬ」

 沖田は暫く黙って福島を見た。

「分かりました私がりましょう。その代わりあなたは後日切腹することになりますよ」

 ーーどうせ死ぬのなら……。

「判った。……沖田さん女を連れ出すから俺と一緒に切ってくれ」

 隊士は日々のやり取りの代償を女に求める。別に彼に限った事では無い、多くの隊士にあることだ。その為に女に溺れても業務に支障がなければいい。しかし彼は別だ。たとえ惚れ合ったとしても相手が長州では良くなかった。

「惚れたのですね」

 沖田はそれだけ聞くと打って変わって淡々として連れ出す場所と時間を訊いた。


 沖田は火鉢で暖を取る土方と対座して報告した。

 土方は眉を寄せて渋い顔をした。

「そうかせっかく目を掛けてやったのに馬鹿なやつだ」

 いつもは眉ひとつ微動だにせずに報告を聞いている土方を、沖田はおやっと? と云う顔をした。

「奴の望みどおりにしますか?」

 土方の顔付きに少し戸惑いながらも沖田は訊いた。

「沖田くん、出来れば奴に女を切らせろ」

 土方にいつもの厳しい表情が戻った。

「一緒に死ぬつもりで惚れているんですよ」

「相手はそのつもりじゃないだろう? 奴は女に利用されているだけだ。それを解らせば自分で始末するだろう」

「どうしても福島を生かしたいんですね」

「新撰組には今どき珍しいほど純粋な男だ。総司、武州多摩の頃は俺も女にひたむきだった」

一度庭に目を投げてから土方は火挟で火鉢の灰をかいた。

「今はどうなんです」

「今はこれだけだ」

 土方はキッパリと刀の柄に手を掛けた。

「奴にもそうなってもらいたいが……」

「もし女も本気ならどうします」

「その時は総司、お前に任す」

 火挟をグッと握りしめた土方は目を少し細めた。


 御所のかみ今出川通りを挟んで薩摩藩邸がある。そのかみが相国寺、そのかみに約束の御霊神社があった。

そこに福島は楼門から境内に足を踏み入れていた。周囲を見回しても人の気配はなく彼ひとりだけだった。そこに刻限である暮れ六つ(午後六時)の鐘が鳴り響いた。

昼過ぎから降っていた雨が辺りが闇に包まれる頃から春の淡雪に代わり始めていた。

 刻限を過ぎても来ない生駒に対して福島の心境は複雑だった。来れば殺されるが来なければ約束を反故にされたことになる。

 楼門から石畳の路が真っ直ぐ本殿まで五十間ほど続いている。入って直ぐ左に手水舎があり、その向こうに社務所があった。右手三十間の所に絵馬所がある。福島は辺りを見回しながら本殿に来た。そこでもう一度見回すが人影はない。

 本殿から西の楼門、南の四脚門が見渡せた。入り口は此の二カ所しかなかった。やはり女は来ていない。

 じりじりと時が経ちやがて淡雪から激しい雪に変わると福島は軒下に身をひそめた。

 生駒は俺を捨てた。いや感づかれた俺は利用されただけで生駒は此処には来ないかも知れない。いやそんな女ではない「きっと行きます」と云った生駒のあの瞳を俺は信じてやりたい。この時には生駒の身の安全よりも彼女との絆に囚われてしまった。

 

 忠義、大義に準ずる此の時代でただ一人の男の心に寄り添って生きる道を貫く稀な女が居る事を福島は信じたい、いや賭けたい。

心こそ今の世を生き抜く力です。でも一人では生きられません。それを誰に託すかで今まで身分を偽って此の世界に身を置いて来ました。あなたも幕府、長州そんな物に囚われないで生きて欲しい。それが生駒のあなたに対するささやかな望みです。

「此処へ来てからあんたはんは変わりはりました」  

 市中見回りで精根尽きて転がり込むように福島はやって来る。その相手をしながら情報を聞き出すのが生駒の役目だった。

 今までの隊士にそうしたように福島にも接した。だがある日から気が付いた。此の人は他の隊士とは違うと云うことに。どう違うのかとにかく此の人は京の人やなかった。若狭の人だった。

 そこには蝦夷地からの北前船が出入りしていた。生駒はいつしか福島から聞かされる蝦夷地に興味を持った。更にその奥の北蝦夷地(樺太)の鵜城(北緯四十九度近いところ)には越前大野藩が越冬して開拓を続けていると云う。そこにはオロシャの兵も駐屯していると聞かされた。生駒は自分の立場も忘れてこの話にはまり込んで仕舞った。。


 安政二年にロシアへの脅威に対応して幕府が南部、仙台、津軽、秋田、松前の五藩に(あとに譜代の会津、庄内藩も加えた)蝦夷地警備を命じた。その折に希望藩を募った。なんとわずか四万石の貧乏藩(廃藩置県での報告書では実収一万三千石余り)の越前大野藩が北辺の開拓経営の伺い書を幕府に呈上ていじょうしたのである。

 大野藩は本蝦夷地(北海道)の開拓を願い出たが、幕府の直接経営の思惑から認められずやむを得ず北蝦夷地に活路を求めた。

越前大野藩は譜代大名で藩主の土井利忠は安政五年(一八五八年・明治維新の十年前)幕府からの許可が下りると洋式帆船の大野丸を竣工させて本格的に樺太開拓に乗り出した。しかしこの頃からロシアの南下政策が増して来た。

 万延元年(一八六〇年)以降幕府は南下するロシアに対抗するために会津藩、仙台藩、庄内藩、秋田藩の四藩に交代で樺太の警備とした。しかし大野藩の開拓地は更に北にあった。

「福島はん、面白い話どすなぁ。そやけど大藩でも尻込みするのに、何でそんな貧しい藩がそないえらいことやらはんのやろう?」

「此の藩は越前の中でも山村たる田舎に有るが、その大野藩四万石の中に日本海側に五千石ほどのとび領地をもっている。俺の居る若狭もそうだが蝦夷地からの北前船がしけで寄港することもある。おそらくそこから蝦夷地の豊かな海産物の話を耳に入れたのだろう、ひと航海で莫大な金が手に入るらしいんだ」

貧乏のどん底だから守る物がない。そんな発想から来ているのかと、うちも前向きにと生駒は変に目を輝かせて聞き出した。

「なんや夢のある話どすなあ、そやけどそれやったらみんな行かはるのとちゃいますか?」

 確かに珍しい異国の話は普通は興味半分で聞くのだが、生駒の興味は尋常ではなかった。それがまた彼女を惹き付けたから福島の会話は益々力が入った。 「そこだやはり危険も伴う。上方から江戸へ回航するのと違って北の海は荒れるらしい、それにオロシャと云う異国の船が来る」

 大野藩の樺太開拓と同じ時期(1856年)にロシアは清国と愛琿あいぐん条約を結んだ。この条約はアムール川(黒龍江)以北をロシア領として沿海州は清国との共用地とした。これによってロシアは隣接する樺太に乗り出して来た。ロシアはさらに清国と二年後の万延元年(1860年)には北京条約を結び新たにウスリー川以西の樺太と隣接する沿海州全域を手に入れた(次にロシアは満州と樺太を狙った)。ここにおいて沿海州と隣接する樺太はロシアのものだと主張し始めた。幕府は大野藩の開拓地を北限としての北緯五十度を国境線と主張して平行線をたどった。

 生駒は身を乗り出して来た。

「オロシャってどんな国なんどすか?」

「何でも択捉島では三十人ばかりの上陸して来たオロシャの水兵に対して警備する南部、津軽藩三百人余りの藩兵がオロシャに打ち負かされたらしい」

「たった三十人の兵隊さんにどすか」

 生駒の驚きは尋常ではなかった。

「弓矢に僅かな火縄銃の南部、津軽藩兵と洋式銃装備のロシア水兵では話にならないんだ」

 火縄銃の有効射程距離は数百メートルだが洋式銃は五百から千メートル以内で連射速度も違った。

 国力が違いすぎて太刀打ち出来ないと福島は嘆いた。

「まあ! そんな怖い外国の人と大野藩のお人とは仲ようやったはりますのどすか?」 

 福島は生駒には初めて聴く物珍しい話ばかりを持って来た。あの山形模様を染め抜いた羽織がなかったら本当にこの人は新撰組の人なのかと見間違うほどだ。

「それが一筋縄ではいかんらしい」

 互いに使役として現地のアイヌ人を雇っていた。此のアイヌ人達がオロシャとの雇用の取り決めで色んな問題を起こす。そして大野藩の会所へ駆け込んで来る。そのつど藩の役人がその交渉に当たるが向こうは圧倒的な軍事力が背景にあるからそこで『一筋縄ではいかん』と云う文句が重みのある言葉になってくる。

 しかし普通の女は尻込みする話だが、生駒は興味深く益々身を乗り出して来る。祇園の芸子で無い事は確かだろう。それで異国との抜け荷の噂が絶えない長州の女だろうかも知れないと云う疑念も沸いた。しかしこの部屋を出ると生駒はどこにでも居る祇園の女と替わりはなかった。そこが福島には合点がいかない。だが此の女は時勢を超えて俺に興味を持つ。そんな女だからこそ生死を超えて愛しくなってしまった。 

 そう言った生駒との逢瀬で彼女とのやり取りが浮かんで来た。いつしかその影響か生駒も変わってしまった。それが幕府、長州に囚われない生き方に結びついてしまう女だった。

 

 だが待っても生駒は来ない。生駒は気付いて居るはずだ自分の正体を。その上で迷っているのか、間者と女とどちらに生きるか。

 この時に降りしきる雪ののれんが掛かる四脚門をくぐり抜ける蛇の目傘の人影を見つけた。彼は軒下伝いに社殿の角まで動いた。同時に社殿の角を折れた所、境内からは死角になる社務所から二つの浪人風の人影が動く。

 蛇の目傘の女は社殿の軒下に居る福島に向かって真っ直ぐ歩いて来る。女は三尺手前で足を止めて蛇の目傘を上げた。結い上げた髪に二つ、三つと雪が吸い込まれていった。生駒である。

「こんな所へ呼び出してすまない」

 数日前に勤王の志士が殺害された場所だった。

「あなたがこの場所を決めた時から覚悟をして参りました」

 もう祇園の生駒ではなかった。

「そうか」

 あの時『あての何処が気にいらんのどすか』と言った。その目をじっと見ると生駒は俺から目をそらした。やはりあの瞳はそうだったのかと福島は力なく答えた。

「あなたはわたしにとってただの人では有りません。だから口数の少ないあなたから一挙動も見逃すまいと努めて参りましたのが逆にあなたには仇になりました」

 祇園言葉が消えた生駒は別人の様であった。だが言葉遣いが変わっても生駒に違いない。その証拠に生駒の笑顔が福島の不審をすぐに 打ち消した。

「お一人で来られたのですね」

 福島は頷き「誰にも言ってない」と力なく言い添えた。

 生駒の仕草を見ても福島は尚も一抹の陰りを抱いた。

「知って居ながらなぜ来た」

「あなたは人を切っても女は切らない人です」

「相手による」

「ではわたしをお切りなさいますか」

「その前に、なぜ俺に近づいた。俺が新撰組だからか……」

「最初はそうどした。でも今は違います」

 雪は境内を真っ白に染めて降り止み、雲間から射す月の光が社殿と立ち木を際立たせた。

「どう違う……のだ」

 真綿を敷き詰めたように積もった雪が紅潮した二人を照らした。

「ひと言では言えません」と生駒は即答をさけた。

 峻険しゅんけんを極める心のさがを言葉では尽くし難い。身構えたふたりはお互いに次の言葉を待った。沈黙がふたりの間合いを詰め互いの瞳を一点に集中させた。

 あの日と同じように先に生駒が眼をそらした刹那に声を掛けた。

「俺と一緒に逃げてくれまさか新撰組も蝦夷地までは追っては来ないだろう」

 福島は生駒の瞳だけを見続けた。そしてふたりは新選組の探索の厳しさも知っていた。

「でもこの場からは逃げ切れないわ」

 生駒は確かに此の場所を聞くと、少しの迷いのあとに九分ほど覚悟を決めた。今は一分の迷いが残るのみだった。生駒が残した一分の迷い、それがこの言葉だった。

 生駒の諦めは何に対する諦めなのか。福島は生駒の心の中に恋の切っ先を向けた。

「やって見なければ解らないではないか。それともまだ心に迷いがあるのか」

「あります」

 生駒はキッパリ言い切った。そこに澱みはなかった。

「え!」福島は驚愕した。

 驚いた福島を観て生駒は頬を緩めた。

「うそ。あなたに最初に言ったとおり覚悟を決めて参りましたから……」

 生駒は肩をすくめて笑った。

「では蝦夷地へでも良いのか、それでも来るか」

福島は生駒の笑顔に安堵して言った。

「はい、あなたの話だけではつまらなくなりました。あなたのおっしゃる無垢な大地をこの目に納めてたくなりましたから」

 ふたりは寄り添いながら蛇の目傘を小脇に抱えて歩き出した。

 その時に社殿の角から一間の間合いを取って聴いて居た人影が動き出した。人影はふたりのゆくてにたちはだかった。

 降り積もった雪面に反射した月明かりが映し出した人影は沖田と土方だった。

 福島は生駒の肩をしっかりと抱き寄せた。生駒もその胸に顔を寄せた。

 福島の眼は鋭く土方を捉えた。

「ふたりの行き先は今此処で俺が決める」

 土方の視線は生駒に注がれる。

「土方さんなぜここへ……」

 福島は咄嗟に沖田を見たが沖田は無視した。

「福島、もう一度言う。女を切れ」

 福島は生駒を庇いながら後ずさりし始めた。

「総司、れ!」

 沖田は刀の柄を握りながら間合いを詰めた。ふたりは雑林の中をじりじりと周囲の玉垣まで追い詰められた。玉垣の土手で足を滑らせた生駒は咄嗟に近くの寒椿の枝を掴んだ。すかさず福島が抱きかかえようとする刹那に沖田は抜刀した。

 沖田の剣は、生駒が咄嗟に掴んだ枝の先を切り放った。真っ白い雪面に血飛沫のように赤い椿の花は気高い香りを残して散った。

 土方は飛び散った一輪挿しの様な小枝を拾い上げた。

 生駒と福島は息を殺してじっと土方を見る。

「総司、見事な切り口だ」

 そして土方は暫く落ちても雪に染まらず、風にも舞わずに揺れる椿の花びらを眺めた。土方が投げ捨てた椿の小枝は飛び散った花びらの傍に落ちた。

「……総司、行くか」

 沖田は頷き剣を鞘に収めた。沖田と土方はそのままふたりを無視して楼門に向う石畳を歩き出した。

「土方さん、俺は椿を切ったのではない」

「解ってる、確かにふたりを切った」

 土方は、今更俺にそんな野暮な事を言わせるなとその目は笑っていた。

「それにしても蝦夷地とはなあ、俺は御免被る」

 と土方は寒さが応えるのか両手両肩をすぼめた。

 先ほどから降り止んだ雪雲から出た月が、境内を足早に遠ざかるふたりに降り注いだ。そしてその行き先を鮮やかに照らしていた。

(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

椿散る時 和之 @shoz7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ