唯一の兄である俺は、妹の妹と共に立ち上がるのでした
「金剛家は昔、忍の里の長をやっていたもので、その技術を代々子孫に継がせる仕来りがあるんです。それで今回はお姉ちゃんがその後継者として抜擢されたんです」
どうやら真里ちゃんの話によると、生まれた時から身体能力の高さ、優れた洞察力のあるマリーは、次の後継者として幼い頃から鍛錬をしていたのだった。
確かにマリーの能力値は異常に高い。
そんな逸材を、大人たちが放っておく筈は無い。
「けれど来る日も来る日も鍛錬続きのお姉ちゃんは、次第に心がすり減っていって――いつしか余り笑わなくなりました」
幾ら潜在能力が高くとも、幼子が厳しい鍛錬に付いて行くのは難しい。
しかし皆の声に応えようとしたマリーは、ただひたすらに鍛錬に励んだのだろう。
その結果、感情の欠如が起きてしまった。
今のマリーからすれば考えられない事だ。
「だから私、お姉ちゃんの代役として立候補したんです。もうあんなお姉ちゃんを見たく無かったから……」
その時を思い出したのか、空を仰ぐ真里ちゃんの目は、何処か寂しげで哀しそうに映った。
「それじゃあ、マリーはその後継者となる為……行ってしまったのか?」
「そうです。大好きなお兄さんの元を離れて……」
「でも、なんで今更なんだ!」
「それは、私がお姉ちゃんの代わりになれなかったからです……」
その言葉を口にする真里ちゃんは、その拳を強く握りしめる。
それは真里ちゃんの、自身の無力さの現れだった。
幾ら同じ血が流れていても、流石にマリーの代わりは真里ちゃんには荷が重すぎた。
それ程までに、マリーの才は圧倒的だったのだ。
「私がもっとお姉ちゃんみたいに出来れば……お姉ちゃんは幸せになれたのに……お姉ちゃんを救えたんです!」
「真里ちゃん……」
大好きな姉を救えず、結局元の場所へと向かわせてしまった己の不甲斐なさに、真里ちゃんは一筋の涙を流す。
その涙から、真里ちゃんがどれ程マリーのことが好きなのか伝わってきた。
もうマリーはここには戻らない。
俺たちの金神家には帰ってこない。
そんなのは嫌だ。
――俺はやっとマリーを好きになれたのに。
ならば答えは決まっている。
俺はするべきこと……それは。
「なら取り返そうよ、マリーを」
「……え?」
「このままマリーとお別れなんて俺は嫌だ。それに俺はマリーのお兄ちゃんだし、妹の幸せを思うのは当然だろ?」
綺麗な顔をくしゃくしゃにしている真里ちゃんに、俺は優しく微笑みかける。
そんな俺に、目の周りを赤くしている真里ちゃんは、無理やり笑顔を作って答えてくれた。
「……この前までお姉ちゃんのこと怖がってた人の言葉とは思えませんね」
「はは、そう言われると何も言い返せないな……」
「……でもお姉ちゃんが信頼している人なだけありますね」
「え、何だって?」
『ふふ、何でもありませんよ』と真里ちゃんは微笑んだ。
そんな真里ちゃんに、俺は立ち上がり手を差し伸べた。
「行こう真里ちゃん……マリーの所へ!」
「はい、お兄さん!」
手を取った真里ちゃんは、俺に手を引かれて立ち上がる。
そして俺たちは、マリー奪還作戦を決行するのだった。
ヤンデレでブラコンの妹に俺の生活が脅かされるのでした スーさん @suesanboirudo
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