自由
MW睦月
第零話
僕の母さんは死んだ。最後にこう言って死んだ。「処女のまま死ねるのさ、あたしは嬉しいよ」ってね。
母さんは、フツーに老衰で逝った。笑顔でね。母さんが死ぬ少し前の話を聞かせてあげようか。ってか、聞けよな。
2060年6月27日、母さんが倒れたって聞いた僕は特に老衰とかだろうと思ってとりあえず見舞いに行ったんだ。
ガラガラ
病室はやけに静かで、外の音がよく聞こえる。部屋には、見舞いの品はひとつもなく、花もない。ただ、今世紀最高の美貌を持つ母が座って相変わらず、裁縫をしていた。倒れても尚、やり続けるのかと少し呆れた。
「よぉ、暁斗。来るとは思ってなかったね」
「せっかく見舞いに来てあげた、息子に対して言う言葉?それって」
「知るか」
人に会えば、すぐさま煽る。通常運転。倒れたという話はどこにいったのやら、信じられるか。と思った一面、確かに口では元気そうだが、血色が良くない。
「母さんも、寿命なのね。あはは」
と、軽く言っておく。
「まぁな~、あたしもそろそろ死ぬってとこよ。あんたも一緒に死ぬかぁ?」
「ばーか、誰が死ぬもんですか。僕は、あと20年は生きるんで」
母は死ぬほど、口が悪い。もう、驚くまでもない。身内にも友人にも上司にも、軽く死ねとか言える変人。上司はいないけど。ちなみに、母親は今年で60だ。早死じゃあない、むしろ長生きだ。今の時代、色々な病気が流行していて、平均寿命は50ぐらい。20年前までは70ぐらいだったけど。
その時、後ろで声がした。
「ちょっと、三國さん、死ぬとかそういう不吉なこと言ってないで休んでてください。」
まずい、看護師に会話を聞かれたようだ。どんだけ、怪しい人なんだ僕は。患者の目の前で、そろそろ寿命だとか、死ぬかとか言ってるアホは普通いないだろう。
「あー、すまない。久々に、息子と会ったもんで話が盛り上がっちまったんですよ」
「あら、息子さんでしたか~~、イケメンですね。30はいってるでしょうに」
この会話だけで、この看護師調子がいい人だという事だわかる。乗り良いタイプ、関わりやすい。でも、ちょっと天然気質もあるようで怖い。
「ありがとうございます笑、よく言われます。なんてねー」
「私は抜けるんで、話してていいですよ。久しぶりなら、話しててもね。じゃあ」
ガラガラ
「いい人だね」
「だろう、関わりやすい。ところで、本題に入ってもいいか」
「ああ」
「さっき言ったように、あたしはもうすぐ死ぬ。だから、うちの家のこととか、ほとんど教えてあっけど全部先に言っとくわ、今ね」
「わかった」
「まず、あたしが住んでるマンション、売り払ってもらって構わない。部屋にあるものも、お前に捨てるかどうかは全部任せる。金も結構貯まってるから、好きなように使ってもらっていい。あとは、葬式は神道で、人もそんなに呼ばなくていい。こんくらいだな」
「おう、呼ぶ人は、僕が好きに呼んでいい感じ?」
「ああ、それでいいさ。あとは、お願いだ。聞くも聞かないも、自由だからな。」
「うん」
母さんは、いつもの軽口叩いている顔じゃなくて、真剣な顔になった。
「まず、あたしが死んでも絶対に泣くな。人は死ぬもんさ、そういうもんだと思ってくれ。葬式の時も笑っていろ、他の人が泣こうが、泣かまいが関係ない。あと、これからの人生、好きなように生きろ。周りに流されんな、。過ちを犯したら、その人に謝れ。相手を思って行動しろ。お前が何しようと、あたしはお前のこと応援しているからな。」
「ああ、わかった。じゃあ、僕も先に言っとくよ。今までありがと、これからも好きなように生きるね」
母さんは柄にもない事言っちまったと恥ずかしそうにしていたが、僕はとても嬉しかった。何よりも、愛を感じられた。少し、口が悪かったとしても、それは母さんのidentityだ。僕は、絶対に否定しないし、そういうところも大好きだ。
「あ、言い忘れてた。あたしの部屋の茶色の棚の1番上の段の引き出しに、ノートが入ってる。好きに呼んでくれ、読まなくてもいいが」
「おっけ、僕も言い忘れてたことあった」
スっと息を飲み込んで、言った。
「ずっとずっと大好きだからね」
死ぬ前に言っておかないと、泣いてしまうと思った。悔いのないようにしないとと必死に思って出た言葉。
「ああ、あたしもだ」
「お葬式泣いたらごめん」
と、言ったら涙が出た。やっぱり、母さんが死ぬは嫌だった。でも、今なら思いを伝えられる。後悔はしたくないって思ってるから、絶対にするもんか。
「ほらほら、いい大人が何泣いてんの、みっと、も……ないさ……」
母さんの言葉が少し途切れ途切れになっている。俯いていた顔を、ゆっくりとあげる、母さんも泣いていた。
「母さんもだよ。ふふ、ありがとう。僕を育ててくれてありがとう。拾ってくれてありがとう。大好き、愛してる」
「あたしもだ、暁斗を育てさせてくれてありがとう、
一緒にいてくれありがとう、家族になってくれてありがとう、一緒に泣いてくれて、ありがとう。ずっと、応援してる、あたしの最推しは暁斗だぞ」
母さんは、優しく抱きしめてくれた。僕が、最初に母さんと会った時と同じだなあと思った。とても、暖かい何かを、胸に感じた。
数分ぐらい、抱きしめられてから僕は言った。
「あーあ、母さんのせいだよ。こんなに泣いたの何年ぶりだか」
「知らないさ、もうすぐ死ぬんだから、水分使っとかなきゃと思ってね、もったいないからね」
「また、そういうこと言って、今の感動Time返してよ」
「はあ、思い出させんな。人生最大の黒歴史だ」
「あははー。じゃあ、時間も時間だし、そろそろ行くね。」
「次会うときは、白布被って、こんにちはかもな」
「はいはい。ばいばい」
今思えば、まともな会話をしたのはその日が最後だったかもしれない。その日から、2ヶ月後が今だ。
葬式やら、手続きやら、色々済まして生活が落ち着いて母さんの私物を整理しているときだった。ふと、思い出した。母さんが言っていたノートのことを。
整理はおおかた済まし、最後のに取り出して自宅へ持って帰った。
ガチャ
「ただいま~」
一人暮らしだが、とりあえずいっつも言っている。
部屋にはものが少なく、最低限のみ、に見える。自室に入ると、アニオタ、漫画大好き丸出しの部屋寝床以外、グッズと漫画とCDで埋まっている。でも、布団の隣には、母の写真を(若かりし頃の)。
「はあ~、最高」
僕の恋人と言っても過言ではない、布団になだれ込む。
項垂れながら、リュックの中にある、棚に入っていた何冊ものノートの表紙を見る。
「日記」と書かれている。人の日記を見るのはいい気がしないが、母が見ろというのだから、見るしかない。
1頁めくると、プロフィールが書かれてある。次ぎの頁を見ると、【中学入学式2013年4月8日】と書かれている。そこから、文の長さには差があるものの1日1頁で描かれていた。それも、僕が成人して独り立ちした日まで。
ペラ
自由 MW睦月 @mutuki_maimai58
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。自由の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます