手紙

助けてくれ…。


殺される…。


ただその言葉だけが書かれていた。

何度もその言葉の繰り返しで、最後には彼の住所が書いてあった。


「…なんか悪い冗談って感じですね。」

「そうね、なんというか歳をとった人には見えないよね。」

「いや…そうじゃなくて…歳?」

「そう、林(はやし)丈朗(たけろう)。ペンネームは西川(にしかわ)久司(ひさし)。後咲きの作家だったのよ…。」

「でも、これワープロですよね?」

「だから、奇妙なのよね…。」

「何がですか?」

「ワープロで書いた手紙ということは印刷が必要でしょ?そんな切羽詰まった人間がワープロで文字を書いた場合電子メールで送信するでしょ?」

「あっ。」


たしかにその通りだ。

パソコンで入力した文字を手紙として出す場合にはプリンターを使った印刷が必要になる。

しかし、よく考えてみたらこんな文章を書いて印刷した時点で自分が何をやっているのか一度は冷静になるはずだ。

そして、そんなものをわざわざ印刷するよりもデータとして電子メールで送った方が早い。


「それで、思ったんだけどやっぱり、殺されたと思うの。」

「だけど、自殺する人間が書く文面ではない…ですよね?」

「その通り、ところで先輩にこれを送ったのは誰なんですか?」

「林(はやし)千里(せんり)よ。」

「推理小説が好きなんですか?」

「なんというか変った娘なのよね…。」


先輩よりも変な娘がいるとは思えませんけどね。

そう、口に出すのはやめた。

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