第33話

 遂にあの研究者たちを倒した。はじめに未来の私が行った通りちょうど一週間で終わった。今日は未来の私が未来に帰るらしい。そういえば、過去が変わったら未来の私はどうなるのだろうか……?


 500年くらい住んでいる私の家に、カミール先生がきた。カミール先生に会うのは一週間ぶりだ。


 「カミール先生! お久しぶりです」


 「あ、ああ。そうだな。今日は未来から来た方のライトに会いに来るように言われた」


 「そうなんですね! 異空間にいるそうなのでもう直ぐ出てくると思います」


 「異空間……そんなことまでできるのか」


 「私であって私ではないのでわかりませんけどね……あ、出てきました」


 あの異空間はどうなってるんだろうか? 未来の私は周りから見えないよう使ってると言っていたが……


 「カミール先生に俺から頼みがある」


 「なんだ?」


 「俺は教えられることは大体教えた。だが、俺に追いつくにはまだまだだ。だから、カミール先生からも見てあげてほしい。あとは、ペンダントに依存しすぎないようにしてくれ」


 「わかった。善処する」


 「あとは、未来の俺だな。お前は毎日素振りと試合をしてほしい。試合の相手は誰でもいい。とにかく経験を積め。それだけだ」


 「わかりました」


 「では、俺は元の時代に戻る。お前らも頑張れ」


 「はい!」「頑張ります……」



 帰っていった。嵐のようにすぎた一週間だった。未来の私がいっていたよう素振りと試合を毎日やるようにしよう。


 「あ、そうだ。ライトに行っていなかったが、明日からテストだぞ」


 「は?」


 ちょっと何言ってるかわからないです。何も聞こえなかったはずだ。


 「明日からテストだ」


 「……?」


 「本当ですか?」


 「嘘を言うわけがないだろう?」


 「嘘。嘘ですね。このあと本当は違いましたとか、練習でしたとか言うんですよね?」


 「嘘でもないし、事実だ」


 「テスト範囲から知らないですけど」


 「何を言っている? 私が担任だぞ。知らないわけがない」


 あ、そっか。何も心配することないじゃん。


 「テスト問題知っていたり?」


 「知っているが、教えるつもりはない。ちなみに学校に何日も行っていないからひどい成績とったら退学だからな」


 「私の学園生活は終わりました……」


 「はいはい。現実逃避はその辺にしておいて……テスト内容は、対人戦とペーパーテストだ。でもまあ、対人戦は大丈夫だろうから、しなきゃいけないのはペーパーテストの暗記だけだ」


 「何を暗記するんですか?」


 「今回の範囲は前に学校に残ってやった内容だ。完璧なら百点近いと思う。あとは、歴史の暗記を全力でやれ。あんまり量はないはずだ。一夜漬けでいける。問題は神話だな」


 「何が問題なんですか?」


 「私は神話をやっている生徒を教えたことがない。将来全く役に立たない科目からな。まあ、勉強はしたことがあるから範囲の内容は教えられると思う。早速勉強だ」


 「……はい」



◆◇◆



 めっちゃキツかった。カミール先生がずっとそばにいて一夜漬けとは思わなかった……


 こういうテストのための勉強は好きではないのだけど……どうにかなりそうな具合に仕上げられたと思う。明日からが戦争だ。


 今日は戦争だ。なぜかって? 今日のテストは今後の学園生活がかかっているからだ。カミール先生が言うには上位三十位に入らないとダメらしい。かなりきつい条件だ。一夜漬けで挑むランクではない。


 戦場に着いた。頭の中ではひたすら知識が溢れ出る。


 久しぶりのカミール先生のホームルームが終わった後、テストが始まった。


 科目は魔術学、魔道具制作学あとは選択した歴史、神話研究学だ。


 たったの四科目。一夜漬けで完璧だ。あとは、どれだけ応用で取れるかの勝負だと思っている。


 さて、今日はどんな戦場か?



◆◇◆



 あとは、神話研究学を残すだけとなった。今までのテストは想像よりも簡単だったのでおそらく満点だろう。だが、こういうテストは平均点が高い。ミスはできない。ミスをしたら戦死だろう。私はこの戦場で生き残る。


 チャイムがなった。最後の戦いだ。


 ペンを魔術で作って、テスト用紙を裏返す。


 さて、問一は……


 「最近の研究では、この王都でも信者の多い宗教の神である、魔術之神 ラマングルードは人間であったと予想が立てられている。もし、人間であると明らかになったとすると、王都にもたらす影響は何か答えよ。また、そのときただ一人の人間が1700年以上も宗教として崇められるようになったか、その理由を自分で考えて答えよ」


 なんだこの問題は。教科書に一切載ってない。世界の宗教から神話を考える分野でなんでこんな問題を出した? さすが、授業は受けてはないが、あの神話研究学の先生だ。


 でも、この話は知っていたりする。カミール先生がボソッとつぶやいていたのを聞いていたのだ! 


 この激しい戦場で勝つのはこの私だ。



◆◇◆



 疲れた。あのテスト問題以降は難しい問題は特になかった。このテストは、多分どれだけ点を落としたかの勝負だろう。あの問一以外の問題で、一、二問ミスした時点でアウトだ。


 明日は、トーナメント型のテストらしい。クラスで戦って、クラスのトップが1組の下から戦うらしい。


 そして、負けた人は全て下のクラスへ、1組の人に一人でも勝てたらその人は1組に上がれるらしい。


 カミール先生にもし1組が全員負けたらどうなるか聞いてみた。すると、


 「そんな事例はない。もし1組以外で1組のトップに勝てることはありえない。そんなことができたら、いつでも簡単にクーデターを起こせるだろう?」


と言っていた。


 クーデターはよくわからないが大変なことはわかる。だが、私は明日の本当の戦場で負けるわけにはいかない。ここで負ければ、退学だ。


 帰りは、ギルドに寄ろう。



◆◇◆



 「あ、ライトちゃん久しぶり! 今まで何していたの?」


 「ミリアムちゃん久しぶりです。今日はギルドの訓練場で練習したかったんです」


 未来の私がいた時は困らなかったが、家の庭で素振りをするには少し窮屈だった。


 あの異空間を作り魔術をはやく使えるようになりたい。


 「ふふ。ライトちゃんすごく強くなった気がするわ」


 「……ありがとうございます」


 「……いいわ。私が勝負してあげる。ライトちゃんはまだ下のランクだし、練習相手なんかいないでしょう?」


 「え、いいんですか。でも……」


 「大丈夫。ちゃんと戦えるわよ。これでも、一番上のランクなんだから。あと、傷がついてもすぐに回復できるから安心してね?」


 「はい。ありがとうございます」


 「じゃあ、行くわよ」



◆◇◆



 ちょっとだけ素振りをしたあと、ミリアムちゃんと戦うことになった。


 「ライトちゃん。もし、腕とか切り落としたらごめんね。私は両手がなくても四肢が回復するくらいの回復魔法は使えるから」


 「私も手加減できないかもしれないですが、よろしくお願いします」


 風の剣を構えて準備が終わった。ミリアムちゃんの剣も風らしい。


 「じゃあ、行くわよ」


 「はい!」


 私が明日の戦場で必ず勝てるように頭の中でひたすらシュミレーションをしてきた。


 明日使おうと思っている戦術をどのくらい通用するのか試してみたかった。


 思考速度上昇は使わない。使うと、それに頼ってしまうからだ。


 まずは、剣の詠唱をしながら前に詰める。


 強めの一振りを打つ。このとき択ができる。


 攻撃を受けるかギリギリでいなすかだ。


 攻撃を剣で受けた瞬間私は、今詠唱しているもう一本の剣で勝ちだ。


 ギリギリでいなされた場合は、左手に持っている剣を捨て、右手に詠唱し終えた剣で立て直す。


 そう、私の考えた戦い方は択を一方的に押し付けることだ。


 相手は選択をひたすら責められる。一つでもミスれば負け。ひたすら最適解をもとめ考え続ける。


 私ははじめに優勢を作り出しそれを保つだけで自然と勝てる。


 しかも、接近戦の速攻を仕掛けるので速く決着がつく。つまり、試合回数を多く稼げるということだ。「未来の私が言っていたたくさん経験を積め」という言葉。経験を積むのなら一試合を短くするのが効率的だ。


 ミリアムちゃんは、ギリギリでかわした。だか、


 「……与え給え」


 すぐに体制を立て直す。しかも、捨てる剣を投げるおまけ付きだ。


 これも躱す。ミリアムちゃんって避けるのが本当にうまい。


 もう一度詠唱をしながら、詰める。


 今度は、速度を最大限まで上げる。そして、ひたすらに背後を取れるような択を仕掛けた。


 かかった。前から凸ると見せかけて、ジャンプし飛び越える。


 そのまま振り向いて着地し、背後から、スパッと切りつけて勝利だ。


 このアクロバティックな動きは身体強化の魔術を知らなくてはできないだろう。未来のライトが教えてくれたこの魔術は本当に凄い。


 「!? ライトちゃん! いつのまにそんなに強くなったのかしら? 守ることしかできなかったわ」


 「ミリアムちゃん、戦わないのかと思っていたのにすごく強かったです。私だったら攻撃を受ける対面を全部躱していました。凄い技量です」


 「まさか、詠唱しながら突撃するとは思わなかったわ。凄い集中力ね。ランク上げても良さそうね!」


 「どういうことですか?」


 「ふふ。ライトちゃんが一番下のランクなんておかしいと思っていたのよ」


 「……そうですか」


 「どうしたの? 嬉しくないの?」


 「明日テストなので、面倒ごとは避けたいなーと」


 「ふふふ。しょうがないわ。また今度にするわね。でも、この強さだと対戦相手がかわいそうね?」


 「そうなんですか? あまり他の人と戦ったことがないのですけど……」


 「まぁ、明日のお楽しみね! じゃあ、もう夕方だしまた試合しましょう」


 「はい、よろしくお願いしますね!」


 良かった。勝てた。明日の戦場、絶対に負けはしない。


 今日も戦場へ向かう。……そろそろこのノリめんどくさいので、適当にボーッとしながら学園に向かう。


 カミール先生のホームルームの後、クラスメイト全員で訓練場に向う。正直、訓練場の場所なんか知らなかったので、よかった。


 向かう途中、前後の生徒が話しかけてきた。


 「あんたって学園に来なかったやつだよな」


 「なんで学園にこなったんだ」


 「あんたが初めの退学者かー」


 めんどくさい。このようなときどうしたら良いのか私には分からない。


 黙らせればいいはずだ。


 ……! 勝利宣言をして強気になればどうにかなるかもしれない。頑張ってそれっぽい言葉を言っておこう。


 「私は退学になる気は無い」


 ……もっと良い言葉を考えればよかった。とりあえずどうにかやり過ごせたと思った。


 が、前後の二人は笑い出し、周辺の人も笑い出した。


 「お前が1組? ありえない」


 「学園に来た日が二、三日の貴方が舐めてるんじゃ無いわよ」


 「無知って悲しいよな」


 最後の言葉は、許せない。無知……いや、考えるだけ無駄だとわかっている。やめておこう。


 ちょうどよタイミングで、訓練場についた。ついでにだめ押しで一言言っておこう。これって、ただ挑発させてるだけなのでは……?


 「無知は貴方たちの方。無残に負けなさい」


 「なんだと! ぶっ潰してやるからな!」


 「覚悟しておけ」


 「……」


 500年ほぼ他の人と話していないが、カミール先生とカルノアちゃんとかミリアムちゃんがいるからコミュ障は治っていると思っていた。


 しかし、現実は甘くなかった。思考速度上昇まで使ったのに思うように言葉が出なかった。これは、練習しなくては……でも、こういうキャラで行けば良いのでは?


 めんどくさいので、コミュ障キャラでいこう。いや、コミュ障なんだけどね……



 第一試合が始まった。出席番号順なので、1番と2番が試合をしている。


 クラスは全部で四十人。勝ち抜き戦なので、試合数は全部で三十九回。一日で終わらないのではないのでは? 


 そんなことをしているうちに一試合が終わっていた。二、三分くらいで終わった。全部で長くても二時間くらいで終わりそうだ。


 待ち時間暇だなー。することもないので、思いついた定理の証明でも考えておこう。



◆◇◆



 もう少し考えたかったが、順番が来てしまった。相手は、番号順なのでさっき起こっていたあの……名前を知らなかった。まぁ、別に知りたいわけでもないが。


 「次、ライト・ピタゴラス 対 リベロン。前に出ろ」


 カミール先生の澄んでいて綺麗な声はいつ聴いても綺麗だ。あそこまで教師みたいな声も珍しいだろう。


 「おいお前! ボコボコにするからな! 覚悟しとけ! その舐め腐った根性を叩き直してやる! まぁ、退学すれば見ることもないけどな?」


 まだ言っているのか。そんなことしてると女に嫌われるぞ……私は男?だが。


 「頑張れ」


 「お前、何を言っているんだ? あとで、どうなっても知らないからな?」


 「お前ら、もういいか? 始めるぞ?」


 「おう、早く始めろ!」


 始めてください、と心の中で答えておこう。コミュ障でうまくしゃべれる気がしないし……


 「では……はじめ!」


 「早く攻めてこいよ? どうしたのか? 怖くなったのか?」


 「……」


 「そういうことなら、俺から行くぞ? その根性叩き潰してくれる!」


 だるいが、学生のレベルがわからない。あそこまでいっておいて、私よりレベルがかなり高かったらどうしよう。


 戦ったことがあるのは、モンスターを除いて、ミリアムちゃんと未来の私だけだ。ミリアムちゃんを基準に物事を考えてはダメだと思うし、未来の私は論外だ。


 念のため、思考速度上昇を使っておこう。一体昨日の戦場に行くんだ、みたいなノリの気合はどこにいったのか……


 早速相手が攻めてきた。思考速度上昇は凄い。スローモーションのように世界が進む。やっぱりめっちゃ計算が早い暗算ごっこに使うためではないんだな、と思っているうちに剣で相手の一振りを受け止めた。


 軽すぎる、これが私の第一の感想だった。ミリアムちゃんでももっと重かったはずだ。このくらいなら私が訓練を始めて二日目くらいだろうか?


 何度か攻撃を流した後、めんどくさくなったので、決着をつけることにした。


 こっちが攻める時だ。模擬剣を使っているので、腕切れたりしないはずだ。


 「くそ、お前。防御ばっかで、おちょくっているのか?! ぶっ殺してやる」


 「もういいか? では攻めるぞ」


 「防御しかできないのに、偉そうな口をして!」


 本当は、こう女の子っぽく「次は私が攻める番ですわ。覚悟しなさい!」みたいなことを言いたかったのに。


 試合は、相手の振りを簡単にいなして、適当に打ち込めば終わりだ。いなし方は、未来の私の攻撃を受け続けたらできた。ひたすら腕を切断されないようにしていただけなのだが……


 この試合は、なんて茶番なんだ。でも、こいつのように少しばかり人と戦ってるんだと思うと安心する。未来の私とか化け物でしかない。しかも、あれで絶対本気を出していないのだから、勝てるビジョンなんて見えない。


 思考速度上昇を使っていると、切り終わってもカミール先生の声が聞こえるまで時間がかかる。思考速度上昇を切らないと……


 「勝者 ライト・ピタゴラス」


 周りはなんかざわざわしている。というか、また長い待ち時間がある。


 今日の戦場は、退屈との勝負なのだろうか?

 面倒だった試験が終わった。

 別にあれからレベルが上がるということもなく、平和に一位だった。

 五日でここまで強くなるとは……さすが未来の私! 


 しかし、クラスの雰囲気は最悪だった。


 そりゃあね。

 不登校が突然来て宣戦布告して挑発してクラス一位だとね……もしかして私って最低なのでは?

 でも、学園に来てはいたけど、記憶がないだけなのか。


 つまり不登校ではない。

 やっぱり黙らせるために調子乗って挑発したことがいけなかったのか……

 強くなるなら皆んな腕を切り落とされる訓練を受けたら良いと思うの。


 そんなこんなで今日の試験が終わった。

 明後日から1組と対戦して一人でも勝てたら1組に入れるそうだ。


 明後日の試験では、自作した魔道具も使えるとカミール先生が朝に言っていたので、今日カミール先生に受けてなかった魔道具作り方を教えてもらおう。



◆◇◆



 作り方を教えてもらった。

 自分の魔力を込めた特別なインクで魔法陣を書くだけらしい。

 結構簡単に思えるが、インクを作るのが難しい。

 名前すら知らないモンスターの血液とかを使って混ぜ混ぜしたらできる。


 カミール先生に魔道具を作りたいと言ったら消えるインクの作り方を教えてもらった。

 材料は全て分けてくれて、混ぜ混ぜしてたらできた。

 実はこのインクは、世界でも知られていないらしい。なぜそんなものをカミール先生は知っているのか本当に不思議だ。


 そんなわけで、インクはできた。あとは書くだけだ。


 今日はもう遅いので夕飯を食べて、どんな魔道具を作るか考えながら作ることにした。



◆◇◆



 目が覚めたら、昼だった。


 寝すぎた。徹夜した次の次の日だったので、疲れが溜まっていたようだ。

 あの辛い特訓のあとテスト勉強で徹夜して試験で沢山の試合……ハードすぎる。


 こんな日は、のんびりはじめての魔道具作りでもしよう。


 作る魔道具は、手袋に魔法陣を書いて、ファイアーボールか何か打つというものだ。

 遠距離は無理でも中距離から使える飛び道具はあれば便利だろう。最後の一押しにも役に立ちそうだ。


 なので、手袋が必要なのだが……どこで買えるのだろうか? 

 服は、適当にその辺でどうにか済ませているのだが、手袋は買ったことがない。


 ……リムアムちゃんに聞いたら教えてくれるだろうか? 

 あの人もギルドの受付をやっているから案内なんかはできるはずだ。


 ……リムアムちゃんに聞いたら教えてくれるだろうか? 

 あの人もギルドの受付をやっているから案内なんかはできるはずだ。




 というわけで、リムアムちゃんに会いに来ました。

 寝坊してもう昼時なので、ギルドにはあまり人がいない。

 きっと、モンスターでも狩ってるのだろう。


 「リムアムちゃんー」


 「あ、ライトちゃん! どうしたの?」


 「えっと、実は……」


 私のはじめての魔道具を作りたいことから、手袋が欲しいと頑張って伝えた。

 リムアムちゃん、かなり多くのことを聞いてきて話す時間が予想よりもかかってしまった。


 「わかったわ。私も付いて行くわ!」


 「えっと……ギルドの仕事は……?」


 「あ、大丈夫よ!」


 大丈夫なのか? でも、あまりリムアムちゃんが仕事しているところ見たことがないような、あるような?


 リムアムちゃんがなにかしらのあ魔術を使っている。

 というか、無詠唱なんですけど!

 無詠唱は魔術ではできないのでは……


 「これで問題ないわね!」


 そういって、リムアムちゃんは自分の分身を作り出した。


 「問題しかないですけど……」


 「細かいこと気にしちゃダメよ! さあ、早く行きましょう!」




 あれから、何時間経っただろうか。

 気軽にリムアムちゃんに相談したが、手袋を買うだけにこんなに時間を使うとは思わなかった。


 リムアムちゃんは、この白色の花が付いている手袋が合うだとか、この黒い手袋がカッコいいだとか……とにかく大変だった。


 そんなわけで、手袋を買ったわけだが、早速魔道具制作に取り掛かろうとしたところ、リムアムちゃんも付いてきた。


 家に来るとは考えていなかったので、すごく汚いのだが……


 「ライトちゃんの家ってすごいのね!」


 「汚くて、すみません」


 「いやいや、そうじゃなくって。よくわからない記号がびっしり書いてある紙が、沢山あるのよ! どんな研究者の部屋を見てもこんな部屋はないわ!」


 笑われているのか、褒められているのかわからない反応はやめて欲しいが、きっと汚くて、出ていきたいとかそんなことは思っていないと思う……多分。


 「この記号の意味はどういうことなの?」


 「それは、インテグラルといって、積分をするときに使う記号です」


 「???」


 「えっーとですね」



◆◇◆



 「凄いわねこれ!」


 「そうでしょう! 凄いでしょう! この形の面積がわかるなんて素晴らしいですよね!」


 「これは、いろいろなことに応用できそうね! 例えば、土地の面積を測るとか……」


 「そうです! この積分は更に応用して……」



◆◇◆



 「難しすぎてわかりません……」


 「確かにここまでくると難しいですね……本も参考資料もないですし……」


 「ところで、ライトちゃん! 魔道具は?」


 「あ……」


 「私も手伝うわ」



 まさか、テスト前にまた徹夜をすると話は思わなかった。

 どうにか、完成したが、魔力をかなり使った。

 明日、いや今日のテストで魔力が足りないとリムアムちゃんに言ったら、ポーションなるものをくれた。

 カミール先生が雑談でポーションについて何か言っていたような気がする……


 積分の話、リムアムちゃんはとっても楽しかったらしい。

 王都の土地の計測に使われるように頑張るとリムアムちゃんが力説していたので是非とも頑張ってもらいたい。

 もし、積分は王都の計測に使われるなら、すごく嬉しい……


 さあ、そんなわけで明日はテストだ。またあの知らない人たちの集団に行かなくてはいけないなんて……コミュ障は辛い。


 今日はテストだ。1組の人たちと戦うらしい。


 ぶっちゃけ、未来の私と同じくらい強い人がいたら勝てる気がしない。

 なので、私でも勝てる相手と当たる事を祈るしかない。



 学園についた後、カミール先生のいつものホームルームがあった。

 そして、そのあとカミール先生と訓練場に向かった。

 今日は誰にも話しかけられることがなかったのでとても平和だった。

 それどころか、すごい敵視さているような気が……



 訓練場には2組の一位と思われる生徒と、1組の最下位と思われる生徒が戦っていた。


 ……あれなら勝てそうだな。


 そう呟いてしまった。多分カミール先生を除いて聞こえた人はいないだろう。


 試合が終わったようだ。

 勝ったのは、1組の生徒とカミール先生が言った。


 「次はライトの番だ。お前が1組全員倒さなかったら私がライトとひたすら試合するからな」


 「は、はい……」


 カミール先生と戦ったことはないが、絶対に戦いたくない。

 未来の私はまだ、自分なので甘いはずと思っているが、カミール先生は怖すぎる……


 「緊張するか?」


 「はい……」


 「そうか……」


 カミール先生はそういって何かしらの魔術を使った。

 すると、緊張はいつのまにか消え去った。


 「これは?」


 「心を落ち着かせる魔術だ。それと、この手袋。昨日徹夜して作ったのだろうが、テストで使うなら学園に登録しなければならない」


 「えっ!」


 いつの間に盗まれたんだ。たしかにカバンに入れたはずなのに……


 「登録しないと使えないんですか?」


 「登録しといたから、使えるぞ。あとは、お前の使い方次第だ。頑張ってこい」


 「はい!」


 カミール先生、マジで神。

 一体いつの間に手袋を盗んだのかわからないが、徹夜して作ったはじめての魔道具が使えるようにしてくれたカミール先生にあとで感謝しなくては……


 そして、1組との試合が始まった。



◆◇◆



 勝ちました。作った魔道具を使う必要がないほど弱かった。

 これだったら、手加減したリムアムちゃんより弱い。


 そんな事を思っているうちに、二試合目が始まった。



◆◇◆



 あと一試合で終わりだと思う。ただ無双して終わっているが、相手の強さは強くなっていると思う。


 さて、これで最後の試合だ。これが終わったら、布団に入って寝るんだ!


 「1組一位のレオンハルト・デザルガーノ対3組一位のライト・ピタゴラスの試合を始める。二人とも用意は」


 「大丈夫です」


 「問題ない」


 「それでは試合開始!」


 能力 思考速度上昇を使った。

 というか、この人どっかでみたことあるんだよなぁ。

 どこでみたんだっけ? まぁ、いっか。


 いつも通り詠唱しながら突っ込む。

 そして、ちょっと姿勢を崩したら、詠唱を終わらせて、もう片方の手で剣を振る。


 耐えるのか。


 流石この学園一位なだけあって強い。


 では次はこの魔道具を使ってみよう。

 試合では、はじめて使うから楽しみだ。


 魔力を流して、発射! ファイアパール!



 「そこまで! 勝者、ライト・ピタゴラス!」


 や・り・す・ぎ・た。


 金髪の美形って感じの子が丸焼けなんですけど!?

 ちょっとはじめて人に使うけど、そりゃあ、ファイアなんだから萌えるに決まってるじゃん!


 どうしよう……


 カ、カミール先生がこっち来た! 

 絶対怒られって。というか、殺人だよ!

 人は何回も殺しているけど、殺すつもりなんかなかったのに……


 「ライト! やったな!」


 「すみません……」


 「??? あぁ、こいつのことか。ヒール。これで十分だろ」


 「詠唱! 詠唱はどうしたんですか!?」


 「細かいことは気にするな? では、この後は、ホームルームをして、これからについて話をするから……」


 「おい!」


 「……え、今喋った……」


 この黒焦げな人だったものが声を出したような気がした……


 「? 何言って……真っ黒じゃん! ちょっと、え? なにこれ!?」


 「えーと」


 知るわけないじゃん。

 カミール先生がなんかヒールって言ったのは聞いたけど……


 「まぁ、良いや。おい! お前! あの時俺にしたこと許すわけないからな!」


 あの時したこととは? 記憶に無いんですけど……


 というか、体が焦げてることは無視するのか……


 「えーっと、カミール先生?」


 「指輪の効果で、縛り上げておけ」


 「え、え? わかりました」


 カミール先生、やっぱり凶暴そうだもんな……


 「おいふざけんな! くそ! その魔道具ずるすぎるだろ! これで縛られるのも2回目だぞ!」


 そんなことしたか?


 「カ、カミール先生?」


 「はぁ。面倒だな」


 カミール先生が何かしらの魔術を使っている。

 もう無詠唱なのは、突っ込まないでおこう。


 「ライト様! 私の惨敗でした! 負けた上に色々なこと言ってすみませんでした! カミール様、これから教会に行ってきます。ライト様、この度の試合、ありがとうごいました。反省点が多く見つかる素晴らしい試合でした。では、私はこれで……」


 「……」


 ちょっと、待って。


 見間違いだよな? そうだよな?


 どう考えても洗脳してる気がするのは気のせいだよな?


 「ふ、やっぱり便利だな」


 か、確信犯だ……



◆◇◆



 確信犯だったカミール先生はそのあと、ホームルームをして解散となったが、カミール先生と一緒にヘロドス先生に呼ばれた。


 「カミール先生? 何で呼ばれたんですか?」


 「私はライトが呼ばれた理由は知らないが、私はライトの担任だから呼ばれたんだと思う」


 「そういえば、さっきの魔術……」


 「着いたぞ」


 さっきの洗脳について聞きたかったのに……


 一体カミール先生は何者なんだろうか……?


 「よくきたわね、ライト、カミール先生?」


 「えーと、呼んだ理由は?」


 今のはうまく喋れたと思う。


 コミュ障が最近多くて困る。

 なんか、頭の中でストッパーがかかるような感じがしてうまく喋れないんだよな……


 あれ、敬語は?!


 「そうね、理由はたった一つよ! あなたの回答についてよ!」


 あれ、また何かしちゃいました?


 「その問題は、『最近の研究では、この王都でも信者の多い宗教の神である、魔術之神 ラマングルードは人間であったと予想が立てられている。もし、人間であると明らかになったとすると、王都にもたらす影響は何か答えよ。また、そのときただ一人の人間が1700年以上も宗教として崇められるようになったか、その理由を自分で考えて答えよ』って言う問題よ」


 あー、そんな問題もあったような気がする。

 一夜漬けだから、忘れちゃたけど……


 「この問題は私の冗談で作った問題なのかに、ライトは本当に起きたような回答をして、しかもそれが正しかったと後からわかったのよ! なんで、あなたはこんなことを知っていたの?!」


 「そ、それは、カ……」


 声が出ない。カミール先生と言おうとすると、『カ』までしか言葉が出ない。


 そして、一緒についてきたカミール先生の方を見るとニヤッと笑っている。


 確信犯め……


 「カ?」


 「知っていたのは、なんとなく……」


 「なんとなくなわけないわ! どこでこれを調べたの?! やっぱりあの噂が関係しているの?!」


 あれ、噂って何?


 「噂ってなんですか?」


 「どこからでも聞こえてくる噂を知らないなんて……いいわ。教えてあげる。


 それは、『仮面をつけた女神は不老不死であり魔術之神 ラマングルードの生まれ変わりかその人である』って噂よ」


 そんな噂があったのか……あってるけどね。


 それより、魔術之神 ラマングルード以外の神様を聞いたことがない。

 やっぱり、転生させたあの普通神は、ラマングルードなのだろうか?


 「あれ、本当は知っていたの? 驚きもしないなんて……」


 「別の子を考えてました。そうなんですね。不老不……」


 「どうしたの?」


 確信犯を見たら、やっぱり確信犯であった。

 そのカミール先生の魔術便利すぎないか?


 「その噂は本当なの?」


 「違います」


 「そうなのね。じゃあ、今回の回答は?」


 「たまたまです!」


 「そうだったの……しょうがないわね。新しいおもちゃが出来るかもって思ったのに。これからは、しっかり授業を受けてね! これで私の話はないのだけど、ライトちゃんからいうことはある?」


 「ないです」


 「そう。じゃあ今日はありがとうね」


 そう言われて、ヘロドス先生の話が終わった。


 それより、カミール先生だよ! 

 会話してて言葉が出なくなるの本当に驚くからやめてほしい。


 「無理だ」


 そういえば、この人心が読めるんだった……


 「なんでですか?」


 「お前という奴は……」


 盛大にため息をつかれてしまった。


 「いいか? ライトが不老不死と思われて、研究所ができた。そして、ライトが不老不死と確定する。するとどうなるか? わかるよな?」


 「あ……」


 「ということだ。明日は休みだし大人しく魔道具の練習でもしておけ」


 「そうですね……魔道具の練習はどこでしたら?」


 「そうか、練習場がないのか。わかった。私が地下に作ってやる」


 「おお! ありがとうございます」


 「早速ライトの家に向かうぞ」


 「はい、さっそ……く??」


 目の前には、両開きの立派な扉が現れた。

 それは、びっくりするぐらい、綺麗で、ひたすら魔導を極めないと使えないだろうと見ただけで思えるほど立派であった。


 「えっと、これは?」


 「ちょっとした魔術だ。これの扉は私の趣味だが……まぁ、細かいことは気にするな。早く入れ」


 「気になりますけどね……」


 やっぱりカミール先生がチートすぎる。

 なんでこの人が先生なんかやっているんだろうか?


 部屋についた。あっという間だった。

 こんな便利な魔術是非共使えるようになりたい。


 「使うのは、あと数百、いや、千年くらいは必要かもな。っと、この手紙は?」


 カミール先生から見せられた手紙は私の書体で書かれた手紙だった。


 これは、多分未来の私が書いた手紙だな。


 「なんて書いてありますか?」


 「えーと、大体は、『ちょっと強くなったからって調子に乗るな! 調子に乗っていたら、ぶち殺しにくるからな! あと、地下に魔術の研究室と、訓練場を作っておいたから、好きなように使うように。追伸 訓練中、俺の戦いの記憶を程よく、過去の俺に埋め込んだから何か影響があるかもしれないから、頑張れ』だそうだ」


 「記憶を埋め込む? ……もしかして!」


 「多分普段どうりに喋れなかったのは、このせいだろうな。もう引き返すのは無理だろうが……」


 「無理ですか? 戻らないんですか? 困るんですけど? カミール先生?」


 「出来るぞ。学園での立場は知らないが、コミュ障は直せる。これで大丈夫だろう」


 「おお! ありがとうございます」


 「しかし、未来のライトもすごいな。ちょっと記憶を埋め込むだけで、こうなるなんて。あれは、一体どれだけ人間不信なんだろうか……」


 「それより記憶を埋め込むって……」


 「そんなことより、地下を見に行こう!」


 「あ、はい」



 地下の施設は凄かった。

 訓練場は、びっくりするくらい広くて、学園の講堂くらいの広さがあった。

 家はこの大きさないのに……


 研究室は、よくわからなかったが、カミール先生曰く、今まで見た中で、一番使いやすそうと言っていた。


 私も、研究室で植物の栽培場があるなんて思ってなかったのだが……


 「こんだけ広い訓練場なら私も戦えるな。ライト、ちょっとひと試合しようか?」


 「え……」

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