ここはそこ
亜済公
ここはそこ
あなたは立っている。
ここはどこだと首をかしげている。
あなたにはわからない。おそらくは永遠に。
けれどもわからないが故に、ここはどこでもあり、どこでもなかった。あなたの家なのかも知れず、どこか町中のおしゃれなカフェの中かも知れない。墓の中かも、母親の胎内なのかも知れない。それら全ての場所が重なり合い、打ち消しあい、同時に存在している。
あなたが気づくまで、ここはどこでもなく、どこでもある。
無論あなたは、そんな無茶苦茶な理論が通用するはずがないと知っている。
だからこそ――だからこそあなたは、ますます躍起になってここがどこなのか知ろうとする。
結局のところ、ここがどこなのかあなたが知る術はない。だからここがどこであろうと、あなたにとってここは永遠に知られざるどこかに過ぎないのだ。今も次の瞬間もその次もその次の次の瞬間も。
ここがどこだかわからない。ならば自分はどこに立っているのか。あなたはふと疑問に思う。自分は立ってなどいないのではないか。もしかしたら泳いでいるのかもしれず、座っているのかもしれない。落ちているのかもしれないし飛んでいるのかもしれない。
何しろ、ここがどこだかわからないのだから。
もしかすると、あなたがここだと信じ込んでいるここは、そこなのかも知れずどこなのかも知れない。それほどまでに曖昧なここ。
ここに、あなたはただ存在している。
どこだかわからないここ。
どこでもないここに、ただ無価値にたたずんでいる。
――一体いつからここにいたのだろう。
――一体いつまでここにいるのだろう。
答えるものはいない。ただ、あなたが存在するだけ。
ここまで読んで、あなたは「はて、これは私のことだろうか」と考えていることだろう。或いは考えていないかも知れない。けれどやはり、あなたはそう考えずにはいられないのだ。
何しろこれは、紛れもない「私」自身の物語なのだから。
ここはそこ 亜済公 @hiro1205
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