わがままは貫き通してこそ楽しめるよね

 

「……のうアレスティア」

「なんですかアテアちゃん」


「あと何戦じゃ?」

「二戦、ですね」


「もしジョーカーになったらわっちを捨てるのじゃな……」

「捨てませんよ。その問い掛け何回目ですか?」


 ムスッとした幼女を抱っこして、ヘルちゃんの部屋をノックしたけれど不在。今日は学院かな……

 そういえば、学校は中途半端で終わったな。

 卒業したかったなぁ……ミズキの学校に通うわけにもいかないし。

 通うわけにもいかないし……いかないし……あっ、そうだ。

 バックヤードへ行くと、やけ食いしているリアちゃんを発見。

 目が合うと幼女ごと抱っこされたので、とりあえずされるがまま……


「はぁーアスきゅんの匂い……」

「リアちゃん、わがまま言いに来ました」


「ふっ、私を見捨てたから生半可な褒美じゃ動かないわよ」

「ちゃんと用意しますよ。ひそひそ」


 リアちゃんにわがままと褒美を耳打ち。

 すると私を下ろし、正座をして頭を下げた。


「喜んで、お受け致します」

「では、準備をお願いします」


 リアちゃんが部屋に走っていき、後は家に帰って母達に頼めば完璧。


「アレスティアーー!!」

「いや、家に帰るだけですから大声出さないで下さい」


「嫌じゃ嫌じゃわっちも行くー!」

「暇なんですか?」


「暇じゃ」

「アテアちゃんって嘘吐く時キメ顔しますよね」


「アレスティアーー!!」


 幼女を振り切り、私の部屋に転移。ルナリードは居るかな?

 リビングを覗くと、ルナリードとルゼルママンが仁王立ちで見詰め合っていた。


「「……」」


 また喧嘩か?

 そーっと近付いて二人の様子を眺めてみる。


「「……」」


 特に険悪という訳ではないか……もしかして、私が来たから話を中断したのか?


「……おかぁさん?」

「やぁアスティ」「おかえりアレスティア」


「何していたんですか?」

「別に何もしていないぞ」

「あぁ……相談があるんだが……」


「ルナリード、駄目だ」

「いや何か欲しいものがあるか聞くだけだぞ」


「それが駄目なんだ。アスティは勘が鋭いからもうバレてしまうじゃないか……」

「そうは言っても何時間も話し合うより良いだろ」

「ホームパーチーでもやるんですか?」


 ルゼルの眉がピクリと動いた。ふむふむ……料理を披露する場として何かするのね。

 それに加えて欲しいものとな……私の誕生日は過ぎているし、何か記念日でも作るのかね。ルゼルって記念日好きだから。


「まぁ……そんなものだな」

「楽しみにしていますね。ルナお母さん、抱っこさせて下さい」

「えっ、恥ずかしいから」


 ルナリードを抱っこして、ソファーに座る。寂しそうに私を見るルゼルに手招きして、隣に座って貰った。

 暖かいなぁ……


「……落ち着きます」

「あぁ、そうだな」

「抱っこはやっぱり……」


「そうだ、これから地球に行って来るのですが、コーディネートをお願いします。お題はこちらです。リアちゃんの準備が出来たらまた来ますね」

「「ふむ……」」


 よし、後は待つだけー。



 ♀×♀×♀×♀×♀


 今日は週末。地球ではミズキとヘンリエッテが慣れた様子で朝の挨拶を交わし、学校へと向かっていた。


「みずきー今日行ったらお休みだねっ」

「ふふっ、そうだね。今日終わったら何する? 週末は公務無いんでしょ?」


 二人の間に主従の関係は無くなり、本当に仲の良い姉妹のような関係で、平和を楽しんでいた。


「お泊まり会しよーよー」

「リエはお泊まり会好きだねー。レティは忙しいみたいだから、史織誘ってみよっか」


「みーずきー! リーエちゃーん! おっはよー!」

「おはよー」「明日香さんおはようございます」


 橘明日香が二人の後ろから肩を組むように飛び込むのは、見慣れた光景だ。

 学校に到着し、教室で先に来ていた松田史織が小さく手を振り四人で昨日のテレビやニュースの話題で盛り上がる。

 すっかり仲良し四人組としてクラス内で定着し、羨望や嫉妬の視線を受けているが四人は気にしない。秘密を打ち明け合った絆があるから。


 ――キーンコーンカーンコーン。

 授業が始まる鐘の電子音が鳴り響き、教室に男性教師が入ってきた。

 ヘンリエッテも慣れたもので、今日の授業は何かな…と、楽しそうにしていたが、教師の表情が緊張しきっているようにガチガチになっている事に気が付いた。

 ヘンリエッテだけではない、クラス全員が気が付く程の脂汗と震えが、何事かあったのかと思わせる。


「え、えー…これから世界史の授業を始めますが……金曜日だけ、特別講師の方に、御越しいただく事になりました」

「特別講師?」「世界史で?」


「皆さん…本当に……失礼の無いようにお願いします。で、では……お入り下さい」


 ガラッと扉を開けて入って来た者を見た瞬間……教室の時が止まったような、音が無くなったかのような、沈黙が起きた。

 誰一人、言葉を発する事が出来ない程の、息をするのさえ忘れる程の完成された女性が入って来たから。

 ビシッとしたスーツは明らかに高級感漂い、銀色の髪がキラキラと輝いている。女神がこの世に居るのなら、この女性にこそ似合う言葉だと全員が思う程…美しかった。


「初めまして、私は…アレスティアと申します」


 鈴が鳴るような透き通った、それでいて鼓膜と心臓に直接響く声色で自己紹介をする女性に、自然と生徒達の顔が紅潮していく。


「ぅ…ゎ……」

 ミズキが声を絞り出そうとするが上手くいかず、ヘンリエッテに視線を動かすと……わぁっ、というキラキラした顔でアレスティア大人バージョンに魅入っていた。


「さて、私が皆さんに教える世界史は大学入試には一切出ません。なのて、心の片隅にでも留めておいてくれたらと思います」


 アレスティアが指をパチンと鳴らすと、教室を埋め尽くす白く輝く小さな光が現れ、蝶や鳥など様々な者に変化した。


「綺麗……」

 幻想的で奇怪な光景に、誰かが思わず呟き…アレスティアが嬉しそうに口角を上げた。


「信じる信じないはお任せします。退屈だと思うのなら寝ていて構いません。それでは、異世界について…学びましょうか」


 悪戯に笑うアレスティアに、クラス内がバッチリ魅了されている中……アレスティアがミズキに視線を送った。

「ぁっ……ぃゃだ……ドSの目だ」

 事態を悟ったミズキが頭を抱え……アレスティア先生の授業が始まってしまった。

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