つい、カッとなってやってしまった

 

『人間如き、我に敵うと思っているのか?』


 黒く揺らめく星は、次第に回転を始め、私の周囲に等間隔に並んだ。

 黒異星体観測……黒異天体と似ているけれど、能力は少し違う。

 黒異天体は攻撃型の魔法装置で、魔法を吸い込んだり能力を起動させて放つ万能技。

 でも黒異星体観測は、星属性を軸にして私の適性属性をごったにして魔装にする前をこねこねして周囲に展開したもの。

 何を言っているんだと思われるかもしれないけれど、黒異星体観測は星属性と重力属性と私の怒りを混ぜて不安定な状態をわざと作っているから、着弾するまで何の効果が出るか解らない。

 第一波、第二波、第三波と段階があるのが特徴だ。


「はははははっ! てめえは人間如きに殺されるんだよぉ!」

『我に死というものは無い。そんな事に拘っている時点で詰まらん存在だ』


 どうなるか解らないから、この世界がどうなろうと知ったこっちゃねえという気持ちが無いと使えない。


『アレスティア、これも使って。龍神なんて死ねば良いのよ』

『かかかっ! 人型の女神如きが人間の味方をするかっ! 良いだろう、この場で滅してくれる!』


 ヴェーチェが黒く淀んだ球体を圧縮し、渡してきた。

 龍神に恨みでもあるのか?


「ヴェーチェさん、お預かりします。黒異天体・嫉妬の星」


 負の感情をこれでもかと詰め込んだ球体を、私の黒異天体に合体……うわっ、オーラがキモい。これはまだ使わずに……様子見を。


『基本的には人型の神よりも、龍型の神の方が位が高いの。あいつ偉そうだから殺しましょう』

「もちろん殺しますよ……私の悩みをつまらんだなんて……黒異天体観測・第一波」


 先ずは先制攻撃。

 規則的に並んだ危険な星を金色の龍に発射。

 着弾し、黒い炎や雷が発生し熱波が海を蒸発させていく。はっはっはーこの場合は少しでも適性があれば最大限に効果がある鬼畜仕様っ。邪悪、混沌、破壊もちらほら出ている。


『この程度の攻撃で殺せると思っているのか?』


 着弾したけれど、効いていない? ダメージも無さそうだ。何か特殊効果があるはず……


「コーデリア! 解析して!」

「はいっ! 解析……これは……絶対防御です! なんとか力技でぶち抜いて下さい!」


「ははは、それは得意技だよっ! 黒異天体観測・第二波!」

 着弾した星のエネルギーが上空に溜まり、大きな星になって龍神に衝突。

 負のエネルギーがビシャッと粘度の高い液体のように金色の身体に粘着した。

 辺りは自然破壊上等の汚染された大地。一息吸えば一般人は即死レベルの魔毒が充満し、この世界の神が見たら卒倒する程の裏エネルギーだね。


『無駄な事を。我の絶対防御は破れぬ』

「私は絶対なんて信じていない。ヴェーチェさんっ! 退避してください! 黒異天体観測・第三波!」

『えっ、ちょっ、何この理不尽な攻撃……』


 第一波で世界を傷付け、第二波で世界を汚染し、第三波は……それを零にする。

 零にした時の差が激しい程……世界に負担が大きくなり、中心部にいる対象にその負担を全て上乗せ。

 ──ぴき。


『……なに?』


 絶対防御と言えど、絶対の無い場所だってある。

 完全な円が存在しないように、完全に全ての点と面が絶対防御なんて無いって事さ。完全なる存在は、有ではなく無だと思うから。

 龍神の尻尾辺りで何か音がした……


「ふっふっふ……そこが、穴だね……」

『ふんっ、少しはやるようだな。だがそれだけだ……神剣よ、世界の悪を滅せ』


 転がっていた応龍神剣が浮き上がり、遥か上空から金色のオーラが降り注いだ。

 龍神に纏わり付いている負のエネルギーが浄化されている……ついでに私も浄化されていく。きゃー良い子ちゃんになっちゃうー。

 させぬよっ! 私は悪い女で良いのだよ。

 黒異天体をもう一つ作り、嫉妬の星と繋げた。

 おぉ凄い……これなら近距離攻撃から抜け出せる。

 こんなの簡単に世界をぶっ壊せるよ。


「インフィニティエナジー!」

 方向だけ決めて、暴発させるように龍神に放った。

 純粋な力のエネルギーと、ヴェーチェの負のエネルギーが合わさり、世界が抉れていく。


『ぐっ……おぉ! この…力は……』

「ヴェーチェさん! 嫉妬が足りません! もっとメンヘラしてください!」

『えっ…私ってメンヘラなの?』


『人間如きに……ぐぅ……』

「武神装メンヘラお姉さんですよねっ? 愛が重くて未練凄くて面倒くせぇじゃないですかっ!」

『うるせぇよぉぉぉぉ! しゃあねえだろぉぉ! 好きなんだからよぉぉ!』


 あっ、キレた。


『我が……傷を、負うだと……』

「振られたんですよねっ! 女神の癖に諦め悪すぎじゃないですか! 新しい恋とかしなさいよ!」

『それが無理だからこうなってんだよぉぉ! 仕事仕事仕事で出逢い無いんだよぉぉ! 千連勤のやっと休みがこれだぞ! アクアなんて裏切って昨日合コンだったんだぞ嫉妬が凄えよこの野郎!』


 ……あっ、嫉妬凄え。

 力が跳ね上がった。目の前が凄い事になっているけれど、龍神はまだ健在。

 ムドゥインでも耐えきれなかったインフィニティエナジーでも耐えるのか……私のダメージゼロなんか比べ物にならないその能力、欲しいな。

 龍神の尻尾からヒビが……


『グォォォォォ!』

「ヴェーチェさんトドメです!」

『勝手にやれよもぉぉぉ! 私もう帰るぅぅぅぅ!』


『……させ、ぬぞ』

「あっ、そうだ。今度フラマさんとデートなんです」

『はぁぁぁぁぁぁ⁉︎ っざけんなぁぁぁぁ!』


 あっ、龍神逝った。

 さよならー。

 ……前方には、瓦礫すら無い空間が広がり、後方も同様に何も無い。足元に瓦礫が申し訳程度に存在し……アクアマリンさんの物と思われる青い真珠がアクセントのパンツが落ちていたので胸ポッケに仕舞った。

 空の世界に、私とヴェーチェだけが残されていた。


「ふむ、これで終わりで良いですかね?」


 ヴェーチェを見ると、武神装メンヘラお姉さんが解け……しくしく泣いていた。

 話し掛けると面倒……いや、もうメンヘラ状態じゃないのか。

 とりあえず世界を元に戻そう。この状態は死の星よりも危険な状態だから。

 もどれー。てぃやー。


『ふぐぅっ、えぐぅっ、私だって、私だって……』

「ヴェーチェさん、世界も戻ったので帰りましょうか」


『帰っても、どうせ、仕事だもん。誰も構ってくれないもん』


 しくしく泣いていじけている……私が心の傷を抉ったのが原因だけれど、優しい言葉を掛けると面倒だな……もしかしたらメンヘラって元々か?

 何言ってもいじけて慰めて欲しいオーラ出している人って面倒だし……いやリアちゃんとか割りとメンヘラだから慣れていると言えば慣れているか……


「じゃあ……お友達とヴェーチェさんの職場に遊びに行きますから」

『仕事してる私見て怖いって言うもん。良いんだ良いんだ…私なんて…』


「……アラスに遊びに来ます?」

『休み無いもん』


「私からラグナさんに休み貰えるようにお願いしますから」

『……ほんと?』


「はい、きっと五戦目はラグナさんですから……お願いは聞いてくれるかと」

『……考えとく』


 何を?

 俯きながら立ち上がったからまぁ良いか。

 ムスッとし過ぎて二段アゴが出来ているので、摘まんでみたらがぶっと噛まれた……

 美人の二段アゴって良いよね。

 ……噛んで離してくれない。仕方ないから指で舌先を撫で、側面をなぞるように滑らせたら口が開いた……親指で弾力のある唇に触れ、下唇を軽く押して裏側に滑り込ませながら……あっいかんいかん。

 じゃ、じゃあ帰ろう。うん。

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