ははははははははははははは!

 

 天之四霊長……地球の神話か何かに出てくる存在というのは、ママンの本で読んだ。

 朱雀、白虎、玄武、青龍を束ねる四霊の長。応龍とか黄龍とか云われる。

 鏡の魔法で自分の姿を確認……うそ、だろ……


『その、剣は、タケルの、武神装……』


 朱雀を模した深紅の兜……その上に尻尾の長い赤と金に煌めく小鳥が乗っていて……

『ちゅんちゅん、ちゅんちゅん』

 パタパタと羽ばたいている。


 玄武を模した茶色い甲羅模様の籠手……よく見ると手の甲に亀がガシッとくっついている。

『……』

 手を振っても落ちない。


 白虎を模した白いもふもふ足具……白虎って虎だよな?

『にー、にー』

 虎模様の白い子猫が足にくっついて、走ると罪悪感がにょきにょき出る仕様。


 青龍を模した青い鎧……青い蛇がお腹に巻きついている。

『しゃー、しゃー』

 噛むなし。


 応龍神剣は翼が生えて金色っぽい、きゅーてぃー戦士ぷりんせすルージュの武器……セイント・ラブハートみたいで可愛い。

『ちゅんち『にー、にー『しゃー』にーにー』ちゅん』


 うるせえな。

 亀は鳴かないから静かだ。亀って鳴き声あるのかな?


『お主が新しい主人か?』

 亀喋んなや。

 とりあえず配色だせぇな。

 私もよぉ、コーデリアみたいに色取り取りの戦い方に憧れたけれどさぁ……ちょっと派手過ぎやしないかい?


「お姉さま……凄まじい強さを感じます……強さは凄いです……」

「ふっ、君には俺の戦いパーティーの特等席を用意したよ」


「紙一重でダサいです」

「そんな事を言って照れ隠しをするなんて、バキュンだぞ」


「なんか、モヤモヤしますっ! キモいナルシスト発言が痛いです!」

「つれないねぇ、でもそういう所が可愛いぜベイベー」


「ひっ……べい、べー……」

『にーにー『しゃー』『皆張り切って『ちゅんちゅん『しゃー』ちゅんちゅん』ぞ』にーにー』


 ……そう言って、私は肩を竦めた。

 やめろぉぉ! だせぇよぉぉお! 肩を竦めるんじゃねぇ!

 なんだこの呪い、その前に小動物うるせえよ……


『なんで、なんでその剣を……持って、いるのよ……』

「……知りたいかい? 俺を倒せたら、教えてあげても……良いぜ」


『……タケルに、会ったのね……会ったのね……今、どうして、いるの?』

 ……これは地雷だ。ヴェーチェの気がどす黒くなっている……視える感情は、嫉妬、未練、後悔、私への殺意。

 さっきから嫌な予感がビクンビクンしているよ。

 やめろ私、変な事言うなよ……


「幸せな家庭を築いている。奥さんとラブラブだっ」

『らぶ、らぶ……ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……全然笑えないわ』


 一言多いよ私よお……あぁ怖い、怖いよ。

 元カノさん未練が凄いよ、あぁそうだパパさんにヴェーチェの事聞くの忘れていた……


「良い名言を教えてあげる……『良い男は、大体既に結婚している』」

「……天の、理。今夜は熱く滾った嫉妬の炎が世界を照らし、照らし続け、世界を焼き尽くすまで……灰になるまで、全てを……滅するでしょう! 世界の破滅は! 目の前に!」


 空に、黒く濁った球体が発生……どんどん肥大していく……気温が、上昇してきた。

 肥大は止まらない……

 これは、ちょっとまずい……これが墜ちたら、世界が壊れる……

 気をしっかり持て、ダサい呪いを抑えるんだ!

 ……くっ、なんとか……


「みんな、力を貸して!」

『ちゅん『しゃー『にーにー』しゃー』ちゅん』


「亀さん! なんて言っているの!」

『主の為なら喜んで……とな。応龍の力を解放するのだ。お主なら使いこなせよう』


 応龍の力? あぁこのセイント・ラブハートの真の力を解放しろという事か。

 ふっふっふっ任せなさい。

 私が愛の力で解放してやるよ!


「愛と正義の力で、この世の悪を成敗よ! 目覚めよ私の真実の愛!」

「……お姉さま、応龍の力を解放するんですよ。ぷりんせすルージュの台詞とか意味無い……なっ!」


 セイント・ラブハートが光を放つ。

 金色のオーラが溢れ…小動物達が吸い込まれていった。

 なんか翼の生えた金色の龍が具現化した。

 おーでっかーい。


『汝の願いを叶えてやろう。我が力を貸してやる』

「……」


 あっ、ママンから聞いたけれど……武神装の中に願いを叶えられるものもあるって、聞いたな。


『……どうした?』

「願いを叶えられるんですか?」


『あぁ、どんな願いも叶えられる』

「へぇー凄い。違う願いでも良いですか?」


『……言ってみろ』

「ちょっと、バストの辺りを……豊満にして下さい」

「お姉さまっ! その願いはいけませんっ! 貧乳だからこそお姉さまは輝いていますっ!」


 貧乳言うな。まだ成長期なんだぞ、人間の私はさ。

 ……で? 応龍さんよ、出来んの?


『そんな願いは却下だ』

「……」

「ほらお姉さまっ、やっぱり駄目なんですよっ」


『己の欲の為に願うのなら、我を使う資格は無い』

「……はぁ? みんな自分の欲の為に戦っている」


『戦いになんの関係がある? 馬鹿馬鹿しい』

「……馬鹿馬鹿しい?」


『あぁ、馬鹿馬鹿しく酷くつまらん願いだ』

「つま……らん、だと……」


 私の願いが、つまらない?

 ずっと悩んでいる事、なんだぞ……


「お姉さまっ! いけません! 今はヴェーチェルネード様に集中してください!」

『ふふふふふ、怒りの風が吹き荒れる。嫉妬の炎を、灯せ……アレスティア!』

『お前に、この剣を使う資格は無い。裁きを下す』

「はははははは……こんな剣、こっちから願い下げだ!」


 応龍神剣を応龍に投げつけ……

 頭の朱雀の兜を脱ぎ捨て、玄武の籠手を脱ぎ捨て、白虎の足具を脱ぎ捨て、青龍の鎧をスポッと脱ぎ捨てた。


『我を侮辱した罪、身をもって知れ』

「侮辱? くくっ……はははははははははははははははははははははははははははは! 笑えねぇ冗談だな! ぶっ殺す!」

『炎が、灯った……ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ! アレスティア! 共に世界を滅ぼそう!』


「はっはっはー! この糞龍をぶっ殺したら世界でもなんでも滅ぼしてやるよ! 世界魔法・黒異星体観測!」


 龍神だかなんだか知らねえが、私を怒らせるのはどういう事か……身をもって教えてやろう!


「なにこの底辺の無い三角関係……」

『お待たせぇー、ごめんね二日酔いでさぁー……あれぇ? この、状況は……』


「あっ、初めましてコーデリアです」

『アクアマリンよぉ。ねぇ、もしかしてさ……もうすぐ世界が滅ぶ?』


「そうですね。お姉さまとヴェーチェルネード様が謎に手を組みました」

『……そう。私達の出番……無さそうねぇ』


 黒く揺らめく星々が、舞い上がった。

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