水着を買ったら海へ行きたい

 

 さらっと世界を回ってみた。

 方向がいけなかったのか海ばっかだったよ。まぁ西の大陸の方はヘルちゃんが喉痛そうって嫌がったから。

 魔物は…魔力が少ないせいか魔石が無いから、魔物っぽい動物ならいた。


「また連れて行ってね。でも、なんか肌が痛いわ」

「太陽の光が強いみたいだね。お肌に悪いから何か塗るらしいよ」


「意外と過酷な環境なのね。やっぱりアラスの海の方が綺麗だわ。またみんなで行きましょうよ」

「あぁ、あそこは聖域だからね」


 世界を回り終わった後、ヘルちゃんと並んでミズキの学校の前に立っていた。アレス君タイムは終わりなので私は女子の状態だ。

 下校時間なので、見知らぬ生徒が私達をチラ見していく。


「みんな通信魔導具を持っているのね。下を向いて歩いて危なくないのかしら?」

「歩きスマホ禁止の張り紙を見る限り危ないと思うよ」


「私達にスマホ? を向けているのは何?」

「きっと写真を撮っているんだよ。無断で撮るなんて失礼だよね」


「ふーん、良いの? 結構撮られているわよ」

「地球産のスマホじゃ撮られているようで実は撮れていないのさ。ほら、首を傾げて立ち止まって……睨むと、そそくさと立ち去る」


「謝る事もしないのね。礼儀を学んで来なかったのかしら?」

「歪な社会らしいよ。それにヘルちゃんの威圧で近付けないし」


 私達に話し掛けようとして威圧で近付けずに、遠巻きに見られているを繰り返し、人が集まっている。邪魔よ。

 あっ、ミズキとヘンリエッテが小走りでやって来た。

 手繋いでよー嬉しそうだなーおい。


「お待たせー! ってなんか凄いね人……」

「早く離れた方が良いよね。どこ行く?」

「史織さんの家に行きましょうか」


「いや史織は部活だし」

「じゃあミズキさんの選択肢はミズキさんの家に行くか、部活の見学の二択です」


「何の部活が見たいのさ」

「もちろん、ミズキさんの帰宅部ですっ!」


「いやそれ…結局私の家に行くの一択じゃん」

「早く選択しないとミズキさんより先にミズキさんの部屋へ行ってあんな事やこんな事をします」


「私の部屋とか特に何も無いし。むしろあのお城に行きたい」

「ヘンリエッテは入れてくれなかったんですか?」

「私は隣の離れに泊まっているから、まだ入った事無いの」


 離れなんてあったっけ?

 じゃあみんなで雌豚の根城に行こうか。

 転移は騒ぎになるから、四人で歩いてイッきゅんの城へと向かう。


「ねぇねぇ二人でどこ行ったの?」

「海」

「海ね」

「あっ、海行きたい。南国の白い砂浜に行きたい。レティ連れてって」


「地球の太陽はお肌に悪いので、アラスの海なら良いですよ」

「じゃあパンパンのみんなと行こうよー」

「まだアスティは時間あるでしょ?」


「あと九十時間以上ありますね。じゃあ松田家に行ったらリアちゃんに言ってみるので、ミズキさんは松田家に連絡お願いします」

「はいはい」


 あっママンから連絡だ。

 ……自撮りが送られてきただけか。ちゃんと谷間を見せて、上目遣い……じゅるりだね。

 今度はルナリードから連絡……自撮りだな。慣れていないせいか正面からのアップ……これはこれで可愛いけれど、技が無い。

 あっ、またルナリードから自撮り写真……ほっぺをぷくっとさせて怒った顔……これはなんの意図が?

 ……またルナリードから自撮り……あのさ、練習するなら一々送らないでよ。

 多分ルゼルママンの自撮り講習会だな……つまり、得意分野の出し合いが始まった訳か。


「レティ、なんかピコンピコン鳴ってるよ」

「あぁ母達の戯れなので気にしないで下さい。忙しい振りして暇なので……」

「あっ、地球の水着が欲しいわっ!」

「私もー」


「……ミズキさん、水着を買いに行きましょう!」

「えー……城目の前なのに?」


「はいっ! パンパンのみんなの分も揃えたい衝動に支配されました! 可愛い水着を売っている所に連れて行って下さい!」

「うーん、電車で三駅くらいの大きな街に商業施設があるから、そこなら沢山あるかな? 今から行くの?」


「はいっ! 在庫全部買えば一瞬で終わります!」

「それはレジが大混乱だよ。えー……行くの? あっ史織ママに車乗せてもらおうよ。連絡してみるっ」


 ミズキが史織ママに連絡……喜んでという返事をもらった。

 ……家は近くなので歩いて行くと、大きな車が家の前に停めてあった。


「あっ、琴美さん急にすみません」

「良いの良いの、ミズキちゃんの頼みならいつでも聞くわ。初めましての子がいるわね……うわぁ可愛い子」

「初めまして、ヘルトルーデと申します。これは詰まらない物ですが……」


 ヘルちゃんがお土産を渡し……その詰まらないものっていう渡し方教えたっけ?

 しかもそれ高級品のペアグラスでしょ。抜け目ないわぁ。


「ありがとう……なんか……お姫様みたいな子ね」

「あー実は、私以外みんな姫なんですよ」


 パチンと指パッチン。すると私とヘルちゃんの髪が戻り、金髪のヘルちゃんと銀髪の私を見て眩しそうに仰け反っていた。

 それから車に乗り込むと、後方がコの字方でみんなで談笑できる……車って凄いな。


「……こんなに運転が緊張するなんて……無理かも」

「うわー、みんな可愛すぎてやばいねー。SNSでもやったら凄いよ」


「なんですそれ」

「世界中と繋がれる通信機能、かな。人気の人は何百万って登録してもらえて、沢山の人に見てもらえるんだ」


「……見られて、何か得するんです?」

「得……まぁ広告収入とか貰えたり、人気者になれる……で良いのかな? 私はやらないからわかんないや」


「へぇー、ミズキさんはどうしてやらないんですか?」

「興味ないからね。知らない人に褒められてもあんまり嬉しくないし、姫達に凄いとか言われた方が何百倍も嬉しいから」

「私もミズキに褒められる方が嬉しいよっ」


「つまり、天異界の天チューブみたいなものですね」

「天チューブ? なんか気になる」

「あぁ、ルゼルさんがボーッとしながら見ているやつね」


 天チューブ……天異界の情報や人気の神の映像が観られたり、ニュースや映画等々観られる。その中でルナリードも配信をやっている……『ルナちゃんねる』という……ゲーム実況だ。

 結構人気で、実況中は誰だってくらい喋るから面白い。

 その内私も参加する予定だ。


 その後、賑やかなお店に行って水着全部くれっと札束をレジに出したら大混乱。

 レジでピッピッピッピッとひたすら打ち込み……長かった。でも地球の水着って安いね。値段が帝都の十分の一だよ。


「「「ありがとぅござぃましたぁ」」」


 イケイケお姉さんの独特な発音でお見送りされ、こっそり大量の段ボールを収納。

 夜も近いので、晩御飯は雌豚に頼んで松田家で食べる事になった。

 史織も帰って来ていたので挨拶を済ませ、皆はテーブルとソファーに座り、私とヘルちゃんは床に座る。


「ねえレティ、なんでまた床に座るのさ。ヘルたんも」

「仲睦まじい家族が苦手なんで、目線を合わせたくないだけです」

「私はアスティの隣なら何処でも良いわ」


「本当に、君は何者なんだい? 会う度に姿が変わる」

 史織パパが今度こそ私の事を知りたそうにしているから、仕方ないので教えてあげよう。私は優しいからねっ。


「これが本来の姿ですよ。天異界序列圏外アレスティアと申します」

「……圏外?」


「はい、私は天異界に所属したばかりで、新米女神様と一緒に堕落した日々を送っております」

「女神……は、君か?」

「いえ、私はただの聖女です。女神は……呼んだら来ますよ」


「私のおかぁさんが女神なんですよ。あっ、折角なんで呼びます? ……あっ、もしもしおかぁさん来てー」


 タブレットで呼んだら直ぐに次元の歪み……みんなガタガタ震え出して、史織パパの顔が引き攣っている。

 もう、ママンったら張り切っているな。


『アスティ、呼んだか? んー? お前何処かで会ったか?』


 ルゼルが歪みから出てきて、一同を見渡し史織パパを見て首を傾げている。

 アスターの勇者だから会っているのかね?


「なっ……強、過ぎる……」

『あぁ……思い出した。龍神の使徒か、元気そうだな』


「なんで、僕の事を……」

『アスターの記録くらい見ている。ベーチェルネードが会いたがっていたぞ』


「……会う理由は、ありません」

『そうか。まぁ気が向いたらこれで会いに行け』


「これは……転移石」

『自分の眼で確かめに行け。それと龍神の剣見せろ。このままじゃ暴走するぞ』


「……わかりました」


 史織パパが二階へ行き、異様な雰囲気が支配している。

 史織ファミリーは黒い翼を見て硬直しているし……


「あっ、おかぁさんこれから海に行くんですけれど、来ませんか? 地球の水着買ったんですっ」

『……行きたい』


「じゃあルナお母さんにも伝えて下さい」

『……わかった』


 ぶーって顔しないの。


「あっ、史織さんも来ます?」

「えっ? 私?」


「はい、泊まりになりますが」

「……行ってみたい。ママ、良い?」

「えぇ、良いわよ」


『ルナリードも来ると言っているぞ』

「それはよかったです」

「……お待たせしました」


 史織パパが布に包んだ物を持ってきて、布を開くと少し変わった剣が出てきた。

 神剣か……刀身に煌めく龍が動いている……


『やっぱりな……地球で使うと大変だったろう?』

「……はい、生身の身体では耐えきれませんでした。それにこれ以上使うのが怖くて」


『人間には扱えないからな。暴走する前に専門の奴に見せるが良いか? ちゃんと返すから』

「はい、お願いします」


 良いのかそんな大事な剣を会ったばかりの強キャラに渡してしまって……まぁ逆らえないからだと思うんだけれど。


『じゃあ行くぞ』

「はいっ、お邪魔しましたー。転移っ!」


 バシュンとみんなでパンパンに転移。

 するとルゼルがさっきの剣を私に持たせた……なに?


『折角だから使ってみたらどうだ? 応龍神剣という龍神の剣だ。アスターの武神装並みに強いぞ』

「えっ、良いんですか? じゃあ、使ってみます」


 おぉ、次の戦いで使ってみよう。

 楽しみだ。

 その後、死んだ目のリアちゃんに海に行こうと言ったら目に生気が宿り……パンパンを閉めて早速海へ行く事になった。

 フラムちゃんとかミーレイちゃんとかみんな誘おうかな。水着姿見たいから。

 ……リアちゃんに水着を渡された。

 ……スク水は駄目だよ。私も可愛いビキニが良いからさ。

 ……レーナちゃんに紐を渡された。いやこれ水着じゃないから。

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