私のお弁当が新たな火種を生みそうで……
──ピンポーン。
ルナリードの家のインターホンを押しながら、ここに来るまでの道のりを振り返っていた。
まず、リアちゃんとキリエに着せ替え人形みたいにあーでもないこーでもないと着替えさせられ、おめかしやらされ、アクセサリーやら着けられ、気が付いた時にはリアちゃんによって家の前に転移させられていた。
「ようこそ、入って良いぞ」
「お邪魔します」
扉を開けたルナリードは、可愛い服を着て、可愛いエプロンをして、おめかしして……私とお揃いのアクセサリーに気付いた時……お互いに何かを悟ったように目を逸らした。
家の中は広いリビングと、奥に扉が沢山ある家……ソファーに座るように促され、ルナリードがカウンターキッチンに行く様子を眺めていた。
身長が低いから顔しか見えない……あっ台に乗って上半身が出て来た。初めてのお料理みたいで可愛い。
「コーデリアは、どんな様子だった?」
「元気そうでしたよ。少しアホになっていましたが」
「……そうか、やっぱりあの身体は副作用があったか」
「元には戻らないんですか?」
「戻らない、コーデリアに元に戻る意志が無いからな」
「そう、ですよね。ありがとうございます」
お茶を受け取り、対面に座ったルナリードは私をじっと見詰め、私もじっと見詰めて少しの沈黙……
「何か、用事があったのか? ルビアの者に何かされたようだが」
「はい、身体の調子は、どうなんですか?」
「……良い、とは言えないな。ルゼルが頼んだみたいだから、それを待っている」
「何を頼んだんですか?」
「この身体の外装だ」
「元に戻れるんですね……良かったです」
「前の方が、良かった、か? その……好みというか」
「ん? 好みで言ったら断トツで今ですが……封印しなければいけないんですよね?」
……何? なんか、凄い落ち込んでいるけれど、外装をなんたらするのは結構大変なのかな?
「覇道の封印は、あと十年は大丈夫だ。だから直ぐじゃなくても良い」
「ルナリードさんの十年なんて直ぐですよね?」
「私は直ぐだが、アレスティアは直ぐではないだろ?」
「うん、なんか話がずれていません?」
「アレスティアが好きなら、ギリギリまでこの姿でいたいだけだ」
「……隣、座って良いですか?」
ルナリードの隣にピタッと座って、ソファーに背中を預けて天井を見る。ルナリードもソファーにもたれ、天井を見上げる。天井に描かれた萌え萌えなキャラクターが私達を見下ろし笑っていた。
「……あれは家を建てた者の趣味だ」
「雌豚ですね。ところで、破壊活動をしていないのなら普段何をしているんですか?」
「研究が主だな。一応仮想空間での破壊や殺生はしている。一緒に、やるか?」
「……これ、ゲーム機ですよね。ソフトの数エグい……後でやりましょうか。今日は料理を作って写真を送らないと後で何が起きるか解りませんよ」
「あぁ、準備は出来ている……さっき変なレシピが送られて来たから……」
「このやらされている感が嫌ですね。本当なら、一緒に旅行でも行きたいですが……どうしました?」
「……旅行は、三人で行きたい」
「……そうですね」
コーデリアの問題が解決してから、三人で色々出来たら良いなとは思う。
その場合は、嫉妬深いママンを説得するという高難易度ミッションがあるんだけれど……
さっきもルナリードの所へ行くと送ったら、直ぐに泣きマークが送られて来た。
返信しなかったら五分おきに泣きマークが送られてくるので、料理のリクエストがあればどうぞと送ったらなんか色々メニューが来た……ママンとキリエとリアちゃんの分と、どこからか嗅ぎつけて来た人達の料理を作るから大変なんだよ。
「さぁ、作るか……」
「はい、迷惑掛けてすみません」
「謝らないでおくれ。む、娘の友人に料理を作るだけだ……」
「ありがとうございます……お、お……」
「あぁ、無理して言わなくて良い」
「いやあの、恥ずかしいんですよ……なんか……母親が二人いるって、嬉しいし……言いたいので、少し待って下さい」
「……わ、わかった」
面と向かっては、恥ずかしいな……近いから尚更だし。
ルナリードだって恥ずかしいだろうな……よしっ。
抱き締めて顔を合わせないようにして……
「……お母さん」
「……ありがとう、アレスティア」
これは、浮気なのかもしれない。ママンが激しく嫉妬する状況だから……私のタブレットがブルっている。
私の女神だから、ある程度私の状況が解ると思うし……隠密特化のムルムーが撮影していそうだし……
「なんて、呼ばれたいですか? ルナママ? ルナお母さん? それとも…月読お母さん?」
「……思うように、呼んでくれたら、それだけで幸せだ」
「むぅ……仮でルナお母さんにしますが今度コーデリアと三人で考えましょう。決めました、みんなでルナ家会議です。議長はお母さんです」
「議長? 私の呼び方だから、アレスティアが考えてくれたら……」
「駄目です。私がこれからずっと呼ぶ名前ですよ? コーデリアなんかルナ様って呼んでいるじゃないですか。そんなの私が許しません。家族で考えるんです」
「家族……か。縁の無い言葉だと思っていた」
「これから、嫌って程言ってあげますからね。覚悟しておいて下さい」
「ふふっ、お手柔らかに」
抱き締めを強くすると、ルナリードの温もりをもっと感じたくなる。
えー、料理したくなーい。
でも料理しないとみんなご飯食べずに待っている可能性がある……グーってお腹の音をわざわざ聴かせに押しかけるだろうから、料理しよう。
「では早速、娘に料理を教えて下さい。送られてきたレシピとか無視して良いので母親の味って奴を教えて下さい」
「なんか、そう言われると恥ずかしいな」
「私は自慢したいんです。お母さんと、お母さんの料理を」
「……うん、でも……ルゼルも、作るだろ?」
「ルゼルおかぁさんはおにぎりしか作れませんよ。おにぎり以外は見た目完璧なのに壊滅的にクソまずいんです」
「……そうなの?」
そうだよ。
ママンがパンケーキに生クリーム乗せるだけでまずくなるんだ。
なのになんでおにぎりとおにぎりの具だけ美味いんだよ……梅干しとか昆布とか明太子とか手作りで美味しいのに、おかしいんだ。
ルナリードが、なんか嬉しそうだ。
「はい、私のお弁当にルゼルおかぁさんのおにぎりと、ルナお母さんのおかずを入れるのが夢です」
「……まかせてくれ。おにぎりしか作れない誰かさんとは違って、私はどんな料理でも作れる」
「おぉ……どんな、料理でも……ルゼルおかぁさんが聞いたら嫉妬しそうですね」
「ふふふっ、おにぎりしか作れない……良い事を聞いたよ。ありがとう、アレスティア」
あぁこれ、また喧嘩になるやつだ。
全く……いい歳こいて仲良く出来ないのかね。
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