俺には…待っている人が、居るから

 

 フラマは細剣……速さ重視になったのなら、私は包丁か。

 銀色ダイヤの包丁を取り出し、神経を研ぎ澄ませる。

 さっきとは違って近付いても熱くない……代わりにキラキラが凄い。まぁ男モードの私もだけれど……

 武神装前のフラマより威圧感が少ないから、気軽に話しかけられる所は良い所だと思うようにしよう。


「フラマ、どうしてこんなに変わったんだ?」

『アレスティアへの想いで、変わったんだ』


「真面目に答えろ。それに今はアレスだ」

『アレス……この姿は、武神装による擬似的な進化だよ』


「進化……だから魔力の質が変わったんだな。エナジーセイヴァー」

『もっと、褒めて欲しい。神熱剣・紅蓮』


 フラマが踏み込み──速い! すれ違い様に腕を斬られ、斬られた場所から炎が上がった。

 熱いくらいなら、大丈夫だけれど……戦闘スタイルがまるで違う。

 無元流・乱れ桜を放つと、切先だけでいなされ軌道を変えられてしまった。

 ははは……凄いな……切先の軌道が美し過ぎて、魅入ってしまう程に洗練されている。


「綺麗な、剣だな……」

「ありがとう。僕はこの武器と共に生きてきた。いつしか、命よりも大事になってしまったよ」


「羨ましいな……俺はまだ、そんな剣には出会えていない」

「君にも、きっと出会える時が来るさ。それとも僕と一緒に、探しに行くかい?」


「いや……焦らずに探すよ。世界は広い」

「そうだね。こんなにも沢山の世界があるんだ。僕達の知らない世界、知らない星、いつか自由に冒険出来たら……楽しいだろうな」


 自由、か。

 アスターの女神は、忙しいみたいだし。自由なんて無さそう……序列一位の宿命、か。


「そんなの、いくらでも方法はある。光速剣」

 ライトを起点に光の道を展開……光速移動を繰り返し、斬る。

 キンッと弾かれ、返す刃が腹を通った。腹が斬られ、炎が噴き出した。

 見切られているな……


「剣の軌道は、相手を見れば大体決まっている。アレスは僕より速いけれど、経験は僕が上だ」

「そんなのわかりきっている。だからこそ、超えたくなるもんだ」


 光速移動で翻弄しながら、ソルレーザーを放つと……うん、斬られた。

 冥魔法を放つ……斬られた。

 重力百倍! 斬られたよ!

 全部見切られているねっ!


「無駄だよ。あの黒異天体は使わないのかい?」

「お望みとあれば……普通なら見切られて終わりだが……はぁ、これはあまり使いたくなかったな。閻魔の瞳」


 深淵、混沌、破壊魔法はショボいけれど、眼は進化している。

 閻魔が残してくれていた力……きっと、武神装閻魔の報酬というか、もう武神装が使えないお詫びというか……零魔法の幅を広げてくれる理不尽な力を貰った。

 代償に応じて、零にする力。

 無理があればある程、代償が大きい。

 包丁を仕舞い、黒異天体を両手に展開して繋げる。


「アレスは、閻魔に認められたんだね。将来が、楽しみで仕方が無いよ。神熱剣・奥義……」

「求める零は、黒異天体の溜め時間……これで最後だ」


 結局、力技か……技術を磨いて磨いて、辿り着いたのが純粋な力……もちろん技術の上に成り立っている事くらい解っているけれど、経験と技術は到底敵わない。

 流石というべきか、私に学びの場を設けてくれるなんて……ね。私と二人で戦ったのは、私を成長させたいから、そう感じる。ほんと、敵わないな。


「これで終わりと思うと、寂しいな。焦赤一閃」

「はははっ、また、時間があったらやり合おう。黒異天体・インフィニティエナジー」


 赤い軌跡と、インフィニティエナジーが衝突。

 目を開けられない程のエネルギーが反発し、私とフラマの周囲が全て吹き飛んだ。

 見渡す限り、何も無くなった。

 コーデリア……死んだかも。


「……次の相手は、アクアマリンとヴェーチェルネードだよ」

「ははっ、こりゃ分が悪い」


「僕に勝ったご褒美に、教えてあげる。ヴェーチェは、空以外じゃ弱い。アクアは、僕より強いよ」

「そりゃまた……ありがとう」


 フラマが膝を付き、倒れ込む所で、受け止めた。

 ったく、剣を庇ってまともにインフィニティエナジーを受けるなんて、どうかしている。

 自分よりも、大事な武器、か。

 出会えるのかな……私には。


「アレス……」

 ……フラマが目を閉じて、唇を少し突き出した。

 美少年が求めている。


「フラマ、俺には待っている人が居る」

「今だけで、良い……僕に君を、感じさせて」


「フラマ……」

「アレス……」


「世界よ戻れー」

「あぁっ! 酷いよ!」


 ぎゅーんと巻き戻し。

 ムドゥイン登場シーンの時間に戻ってきた。

 あれ? ムドゥインは居ない……あっ、そういえば先に帰ったか。

 フラマも元に戻ったね、よしよし。美少年状態って何か危険でさ……傷も戻って、立ち上がって豪快に笑い出した。元に戻って良かったよ。

 復活したコーデリアが泣いている……見逃したって泣いている。スルーしよう。


「いやー、強いな二人とも……うっ」

「フラマさん大丈夫ですか⁉︎」

「フラマさん!」


 復活したと思ったけれど、フラマが膝を付いて苦しそうにしていた……どうしたんだ、治っている筈なのに。


「い、いや、これは、武神装の、後遺症だ」

「進化は、そんなに負荷が掛かるんですね……」


「あぁ……羞恥心が、一気に来る、から……最悪、なんだ。うぐぅ……恥ずかしい……」

「……それは、まぁ、大変ですね」


 フラマが泣きそうな顔で悶えている。良い光景だ、ご馳走様です。

 普段のキャラと正反対だから、羞恥心が凄そう……なんて危険な武神装なんだ。

 そりゃ、美少年になってキザっぽい感じになっていたら……ん? 恥ずかしいのか? 私は普段しているからか? まぁ良いか。


「勝った証に、これを、渡す約束になっている」

「これは、キラキラフラマさんの、人形?」


「これに似た人形を、持っていれば持っている程、良い事がある」

「良い事? 何ですか?」


「秘密だ。じゃあ、また、今度は会いに行くから」

「是非とも。出来れば剣を学びたいです」


「いや、武神装をしないといけないから……まぁ考えておく。じゃあな」

「あっ……行っちゃった」


 去り際はあっさりだな……忙しいのかね。


「お姉さまっ、やりましたね!」

「これでジョーカーに一歩近付い……んぅっ」


 チューしちゃだーめよ。

 でも頑張ったからご褒美にチューされていようかな。次の対戦まで会えない訳だし。

 チュー……ちゅー……チュー……まだ?


「はぁはぁはぁ……我慢出来ません……」

「我慢しなさい。ジョーカー戦終わったら抱いてあげるから」


「絶対ですよっ! お姉さまと一緒だと悶々が凄いんですから!」

「怒んな怒んな、あと三戦だから」


「長いです……お姉さま……もう、時間……ぅぅ」

「こればかりは仕方ないでしょ。世界はお姉ちゃんが直してあげるから、ね」


「お姉さまぁ……本当にありがとう、ございます……」

「泣きながら尻揉むなし。前は駄目だぞ、ここ健全な場だから」


 コーデリアの罪は重い。

 だからこそ、こんな試練になっているんだけれど……あと三戦。

 次はアクアマリンさんと、ヴェーチェルネードさん……か。

 次も確実に、勝ちたい。


「ところで、さっきの代償ってなんですか?」

「あぁ……基本後払いだから、何かが起きる。前回はダサい格好で一日過ごした」


「……お姉さまって、普段からちょいちょいダサいですよね……」

「……いや、それは、無い……はず」


「あっ……お姉さまの運命が視えました……」

「……どんな運命?」


「次のジョーカー戦……くそダサいです」

「……嘘だろ」

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