キラキラー

 

「じゃあ、行こ」

「ぅん!」


 ぐっと拳を握って、頑張るアピールをして……私も頑張るか。

 でもエナジーバリアを解いたら危険、か。

 現在熱源のフラマとコーデリアは空中にて衝突。刃のような熱波が地上に突き刺さり、大地が焼けてガラス質に変質している。


「毒酒ちゃんはこの環境でも大丈夫?」

「ぅん、熱には強いから……あれ? グリーダちゃん?」


 グリーダ? 毒酒ちゃんの視線の先には、コーデリアだけれど……そういえばGにそっくりだったな。コーデリアの身体って、聖命の宝珠でGの血を元に生まれたんだっけ。


「私の妹のコーデリアだよ。色々あって、聖命の宝珠でGの血を元にした身体を持っているみたいだけれど……」

「血? 生命の宝珠かぁ……じゃあ、グリーダちゃんの娘?」


「んー……そう、なのかな? 血は繋がっているから……そうとも言うのかな」

「……そっか。グリーダちゃんみたいな無駄な生命力はありそうだし、巻き込んでいいかな……バリア解いて」


「ん、うん。バリア解除」

 バリアを解除すると、毒酒ちゃんが戦闘を繰り広げる二人の元へ歩き出し、私も後ろを付いていった。


 邪神の戦い方が観られるなんて、良い機会だ。

 破壊神のルナリードは万全じゃなかったから、まともに戦闘は観ていないし……ワクワクするね。


『はははははっ! やるなコーデリア! 破壊神の眷属なだけある!』

「ルナ様に鍛えられましたから! 禁薬作製・魔眼変化薬! 炎龍の涙!」


『面白い戦い方だなぁ! 性質がコロコロ変わる! 爆炎噴火!』

「効きませんよ! 解析の魔眼!」


 コーデリアの戦い方は色とりどりで、華があって良いなぁ……私、白か黒だし。

 毒酒ちゃんも興味深そうに見ている。


「禁薬作製、か。やっぱりグリーダちゃんの娘……死なないでね。毒龍」


 毒酒ちゃんから、紫色の濁流が溢れ出し……螺旋を描きながら空中に停滞。この形は、毒の龍だ。

 ボタボタと毒が垂れ、腐敗しているみたいなおどろおどろしい見た目……


『んぁ? これは毒の……っ! まさかお前っ!』

「初めまして、アスターの女神。毒の世界」


 毒龍が天に向かって毒のブレスを放つと、紫色の雲となり……ポツポツと、雨が……痛っ、これ、毒の雨……

 あっさりダメージゼロ貫通してんじゃん。


「えっ、威力高過ぎ。メガエナジー……」

「お姉さまぁ! 入れてくださーい! 痛いんですー!」


「えー、バリア貼れるじゃん」

「私のバリアは貫通しましたよっ! なんですかこの雨!」


「メガエナジーバリアっと。毒酒ちゃんが手伝ってくれるから見学しよ」

「えっ、良いんですか? 毒酒さん一人で……」


「うん、大丈夫。私達より強いし」

「な、何者なんです?」


「邪神セッテンシュゼツの、シュ」

「邪神……あっ! 毒酒さんってあのドクシュですか!」


 コーデリアが何か思い出したように変な顔をした。その顔なに?


「何か知っている? 邪神の概要しか知らないんだよね」

「はい、ルナ様から聞いた事があります。邪神セッテンシュゼツはセツナ、テンクウ、ドクシュ、ゼツボウの仲良し四人組で構成された女神なのは知っていますよね?」


「う、うん。仲良し四人組は初耳だけれど……それで?」

「四人で行動する時、ドクシュはほとんど戦わないそうです」


「どうして? やっぱり優しいから?」

「単純に、強過ぎるから……敵味方関係無く毒に侵され、戦いにならないみたいです」


「そんなに強いのかぁ……強くて可愛いとか無敵だね」

「そう、ですね。ルナ様に言われた事があります。もし邪神に出会った時……ドクシュ単体だった場合は、迷わず逃げろ、と」


「単体……一人なら、誰も傷付けないから、か」

「はい……ドクシュ単体なら、咎星剣を持ったルゼルさんと互角です」


「……うへぇ、まじか」


 毒酒ちゃん……孤独になれば強くなる……いや、本当の力を出せる、という事か。一人じゃないとまともに戦えない毒酒ちゃんと一緒に戦うという事は、なにもしなくても良いから一緒に居て欲しいんだろう。他の邪神はどんな人なんだろうな……会ってみたい。

 フラマは毒の雨を浴び、引き攣った笑いを浮かべている。

 毒酒ちゃんは相変わらず無表情で、軽い足取りでフラマの前に立った。


『補佐に邪神とは、予想外だな……それにドクシュが俺と戦うなんて、運が良いのか悪いのか……』

「時間無いから、直ぐに終わらせる。禁毒作製・致死煙葬」


 降り注いだ雨が蒸発し……猛毒の煙が立ち籠める。煙は風に流されずに停滞……一息吸っただけで、フラマが吐血……これはエグい。勝負あり、だな。まだ毒酒ちゃんは本気を出していないのに……凄い。強過ぎる……次の補佐になってもらいたいけれど……


『こりゃ勝てねえ……俺の負けだ、ぐふっ……時間が、無い、とは?』

「……私が一人で長い時間戦うと、みんな心配になって来ちゃうの。みんな来ちゃったら、アレスティアの試練が台無しになる」


『はははっ、邪神ドクシュを、補佐にした、時点で……俺の試練は、合格さ』

「……甘いって、言われない?」


『そう、だな。だから、俺の合格をやるから、頼みが、ある。アレスティアと、本気で、戦いたい』

「……嘘は無い?」


『あぁ……なんなら、契約、しても……ごふっ、良いぜ』

「……わかった」


 毒酒ちゃんが致死煙葬を解いて、毒龍が消えた。澄んだ空気になって……おっ、合格? じゃあ、これでフラマの試練は終わり? なんていう空気じゃ、ない。なんか、嫌な予感がする……


『すまんな、お礼に、アレスティアには、土産を持たす』

「いらない。邪神とは、仲良く出来ないでしょ?」


『まぁ、それも……そうだな。この立場が、憎いぜ』


 吐血で血だらけのフラマに背を向けて、毒酒ちゃんが私達の元にやってきたのでバリアを解除して、毒酒ちゃんを抱き締めた。


「……アレスティア?」

「強くて、可愛くて、素敵だったよ。ありがとう」


「えへ、アレスティアの為だから」

「嬉しいな、もう帰っちゃうの?」


「うん、みんな来ちゃうから帰るね……あの、さっきの、嬉しかったよ」

「こちらこそ。あっ、これ私の連絡先だから」


 毒酒ちゃんに連絡先を書いた名刺を渡したら、嬉しそうに微笑んで……何処かに転移していった。あぁ……このまま私も連れて行って欲しかったな。コーデリア、後ろからスーハーしないで……なんか会う度にアホっぽくなっているよ。


『ごはっ、はぁ、はぁ、なぁコーデリア、エリクサーくれないか? ここからは、観ていて、良いから』

「はいっ♪ 禁薬作製・エリクサー」

「えっ? もしかして……」


 私一人で戦うの?

 えっ、このまま何もしなければ勝てるじゃん……渡すな渡すな。


『ふぅ……助かったよ! いやぁードクシュが相手じゃ俺でも無理だなっ! はっはっは!』

「どういたしまして。ではお姉さま、頑張って下さい!」

「えー……そりゃ無いよー」


『さぁ、ここからは俺のわがままに付き合ってくれ。礼は、弾むぞ』

「ははは……期待しますよ……」


『あーそうだ、ラグナから伝え忘れていた事を伝えてくれと言われていたんだ。ジョーカー試練には、三つのモードがあってな……俺達女神が補佐無しの制限ありで戦う優しいモードと、補佐ありだが俺に制限ありの頑張れモード、そして……補佐あり制限なしの本気モードがある』

「へ、へぇー……そうなんですか。やっぱり、本気モード……なんですね」


 フラマは肯定するように深紅の斧を掲げ、子供のような無邪気な笑顔で、赤い神気を解放した。

 ……来る、フラマの武神装。


『……そうだな、行くぞアレスティア。武神装・焦熱の麗神』

 赤く、気が狂う程に真っ赤なオーラが、この世界を包むように放たれた。


「お姉さま……なんですかこれ……」

「ちょっと、えっ、なにこの力……」

『アスターの武神装は、他と勝手が違っていてね。神武器師による完全オーダーメイドなのさ』


 赤い神気が天を貫き、眩しくて目が痛い……

 でも感じる魔力の質が、変わった。

 荒々しい力から、なんかこう……キラキラしたような、既視感のあるオーラ……

 口調も、変わっている気が……なにっ!


「ぅ……お姉さま、あれはフラマ……さん、ですよね?」

「た、多分。見た目、全然違うし……誰さ」

『ふふっ、驚いたかい?』


 ……フラマの武神装は深紅の軽鎧に深紅の細剣。斧が細剣に変わるとかこれはまだ許容範囲……この先がおかしい。まず、乱れていた長い髪はサラサラのショートカットまで短くなり、化粧が施され……綺麗というよりも格好いい化粧。

 周囲にキラキラとしたオーラが溢れ、胸が…かなりサイズダウン…もう完全に男子にしか見えない。なんか若く見えるから美少年と言っても良いくらいの……ニコッと笑って、こんなん理想の王子様やん。

 このキラキラ……覚えがある、私が男子になった時にこっそり出ているやつだ。

 客観的に見ると駄目だ……めっちゃ格好良いー、やばーい。


「くっ……お姉さま! 気を抜くと心が奪われてしまいそうです!」

「気を抜くな! 私への想いはそんなものか!」

『僕の本気、受け止めてくれる?』


「うわぁぁぁ! だってめちゃくちゃ格好良いんですよぉぉ!」

「そんなの私も思っておるわぁ! ドキドキ止まんねえよぉぉぉ! くっ……どうすれば……あっ、そうか!」

『もう、焦らさないでよ。子羊ちゃん』


 ぐはぁ! それやめろし!

 やっぱり私が女だから、ドキドキするんだ。

 地味メガネよ! 私に力を! 男モードオン!

 熟練された男装だから意識も男寄りにしないと……これできっと、美少年にはドキドキしなーいぞ。


「キャー! お姉さまぁぁ! 格好良い!」

「ふぅ、ふぅ、これでなんとか意識を保てそうだ……」

『おや? っ……なんて良い男』


 よしっ、効いている! って違う! 効かなくて良い! フラマ嬉しそうじゃん! 頬を染めるな!


「……俺にキラキラは効かない」

『それは残念。でも君のキラキラは、僕の芯まで届いているよ』


 胸を抑えて、うるうるとした視線を向ける美少年……

 押しに負けてはいけない…私は、俺様系にならないと駄目だ。駄目だ? なんで駄目だ? まぁ良いか。


「フラマ、俺と勝負だ」

『ふふっ…僕の攻めは、凄いよ』

「うわっ、あーっ、きゃー、尊いっ、あーやばっ、きゃー」


 コーデリア、ちょっと黙れ。鼻血出しながら尊いとか言うな。


 ん? コーデリアの真横に血溜まりが……あぁなんだ、ムルムーの鼻血か。

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