私、猫舌だから



『オラオラオラァァ! 爆炎破斬!』

 フラマの持つ深紅の斧が輝き、コーデリア目掛けて横凪に振るうと、爆発の範囲攻撃。

 コーデリアが転移で回避し、空中から神魔弓・アルテネスを引き絞り……放つ。

 速いっ、フラマが避けきれずに矢が肩に突き刺さり、動きが止まった。

 コーデリアはその隙を突いて、魔法陣を展開していた。


「大禁術・アブソリュートゼロ」

 絶対零度の全体攻撃…一瞬にして空気が凍り、出現させた氷の塊に閉じ込められた。

 氷の塊の中で、フラマが楽しそうに口角を上げると、氷が溶けて中で沸騰……ヒビが発生し、力尽くで氷を割って出て来た。


『やるなぁ! 爆炎熱波!』

「くっ……なんて規模……」


 膨大な熱量に、景色が歪んで……熱っ!

「この距離でこんなに熱いのか……ダメージゼロー」

「……アレスティア、出来たよ」


「あっ、毒酒ちゃん。これがたこ焼きですか?」

 シュタッと現れた毒酒ちゃんがたこ焼きを持って現れた。

 まぁるい焼いた生地の上に黒いソースと白いソースが掛かって、うねうねした茶色いナニかと乾燥海苔っぽいのとネギが乗って……凄く良い匂い。


「この串で食べるんです?」

「毒は、無いから……そうだ、食べさせてあげるね」


 あーん。

 毒酒ちゃんが串でたこ焼きを刺して、私の口に入れ……っ!

「あふぁふぁふぁふぁ!」

 熱い! 熱いよ! ダメージゼロ貫通してんじゃん! 焼ける焼ける!

 外はカリッと中はトロッと、そのトロッとで私の口がバーニング!


「……美味しい?」

 手の平を向けて待ってのポーズ。徐々に温度は下がってきたけれど、口が痛すぎて味なんかわかんねえし、火傷にトロッとが入ってまじ痛い……

 ど、どうしよう……毒酒ちゃんの不安そうな目を見ると、吐き出せない。

 ……あっ、ヒールしながら食べれば良いか。

 ヒール……あっ、美味しいね。


「おいひいです。たこ焼きってこんなに熱いんですか?」

「地獄の炎で焼くと熱々で美味しいの。熱々が美味しいの」


「熱々が良いんですね……私、猫舌みたいです」

「……あっ、ごめんなさい……熱すぎて……人間だと死ぬの……忘れてた。でも……アレスティアは、人間じゃないんだっけ」


 じゃあダメージゼロしていなかったら死んでいたのね。

 益々人の世界で暮らせないねっ!


「今は人間モードです。普通の炎でも作れます?」

「ぅん……普通でも、美味しいけど……張り切っちゃった」


 無表情で舌を出してエヘってされると、抱き締めたくなるよ。


「ありがとうございます。今度は、普通ので作って下さいね」

「ぅん……ごめんなさい」


 責めている訳じゃないけれど……どう言えば良いかな。私の為に張り切って作ってくれた訳だし……

 あっ、フラマの攻撃がこっちに……


『まとめて吹っ飛べぇぇ! 赤の衝撃!』

「お姉さまっ! 避けて下さい!」


「すげー規模。メガエネジーバリア」

 避けると毒酒ちゃんに当たるから、バリアを展開。

 おぉ……ビリビリ揺れている。

 揺れているー、ユラユラからグワングワンとー。

 ぼとっ……ぼとっ?


「……」

 ……たこ焼きが、ぼとっと落ちた。ぽとっ、ではなく、ぼとっ……つまり全部落ちたと言うわけで……

 落ち込んでいた毒酒ちゃんの目に、涙が溜まっていく……


「ど、毒酒ちゃん……また美味しいたこ焼き作って……いや、うん、一緒に作りましょう!」

「一緒に……」


「そうです! 一緒に!」

「一緒に……ありがとう」


 少し、笑顔になった。良かった……泣いちゃったら私のメンタルも削れるところだったよ。


「この試練が終わったら、みんなでたこ焼き作りましょうね!」

「……えへ、嬉しい。じゃあ、お手伝い、するね」


「お手伝い? 試練のですか?」

「ぅん、邪神の制約があるから……少しだけ」


「少しでも助かります。ありがとうございます」

「……むぅ、敬語やだ」


 えー可愛い。敬語やめるー。


「毒酒ちゃん、ありがと」

「えへ、アレスティアにくっ付くと故郷に居るみたいで、安心するの」


「故郷……星の影響かな?」

「星?」


「私、星なの。人型の星」

「……ん?」


 首を傾げて、人型の星というのがよく解らないみたい。そりゃそうか、前例の無い星だし……しっくりこないと思うし。

 故郷、か。毒酒ちゃんには、故郷はあるけれど毒の影響で帰れないんだろうな……


「世界を創れる存在だよ。だから私が、毒酒ちゃんの故郷になる。毒酒ちゃんの帰る場所になる。望む世界だって創るし、いつか最高の世界が創れた時は、住人になってもらいたい。どうかな?」

「……良いの?」


「もちろん! なんたって私は、アレスティア星なんだから!」

「会ったばかり、だし……私、邪神だし」


「出会った時間は関係無いし、邪神さんとお友達なんて素敵だと思う。毒酒ちゃんは私の星生に必要なの」

「……必要」


「そう。だから、私が居場所の一つになれたら…嬉しいな」


 ……自信満々に言ってみたけれど、だいぶ先の話なんだよね。

 最終目標が最高の世界を創るなんだけれど、何年後になる事か……

 毒酒ちゃんは驚いた様子で、私を見て……


「……ふつつか者ですが、よろしくお願いします」


 丁寧に返事をしてくれた。

 なんか、プロポーズしてオッケイ貰ったみたいな会話だね。

 ヘルちゃんの小言が増えるだろうなぁ……また彼女作って、って。いやこの場合、彼女じゃないから良いか。故郷になる訳だから、母的な感じかな。

 という事は毒酒ちゃんは私の娘的存在……なかなか良いね。



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