次元転移の座標組むの……結構大変だったんだよなぁ

 


 ……住所は、ここだな。

 ……門がある。木で造られた重厚感のある、時代劇で見るような見上げる程の門だ。

 怖い。

 怖いよ。

 ビクビクしちゃうよ。

 誰か居る感じだから、呼ぶか。


 インターホンは、このボタンかな? ポチッとな。

 ──ピンポーン、ピンポーン。

『はい、どちら様でしょうか』

「アレスティアと申します。イツハさんの紹介で来ました」


『お待ちしていました。少々お待ち下さいませ』

 ……ドキドキ。

 なんか緊張する。

 どんな人だろう……

 あっ、来た。

 メイド服……


「……」

「ようこそおいで下さいました。ご主人さま」


「……おい雌豚、ここで何している」

「アルバイトです。ご主人さまがこちらに泊まると聞きまして、イツハさんに頼みました」


「そうか。なんか凄く安心してしまった自分を責めている。案内しろ」

「喜んで!」


 なんだよ、雌豚がお世話係か。

 知り合いだからまぁいいか……なにさムルムー、尻つんつんしないで。

 門をくぐり、石畳の道を進む。両側には渋い庭園が広がり、ここでお茶を飲んだらさぞ美味いんだろうと思った。

 石畳の先には、なんか、見た事があるなこれ。

 家…というかこれは城だ。石垣の上に立つ日本の城。屋根には純金の鯱鉾が輝いて……イッきゅん、趣味悪いよ。

 中に入ると…おや? 和風じゃないな。ソファーもあるしベッドもある。外見だけ和風か。


「ここには雌豚しかいないの?」

「ご主人さまが来るなら皆さん来ますよ。わたくしが組んだあの魔法陣はアラスに繋がっていますし」


「へぇー、次元転移陣だ。すご…私は魔法陣苦手だからなぁ」

「……褒められると変な感じですね」


「雌豚の分際で褒められたと思ったのか? どうやらお仕置きが必要みたいだな」

「はひぃ! お仕置きして下さい! 穢らわしいわたくしにお仕置きを!」


 良いぞ。時間はあるしお仕置きしてやろう。

 ……ムルムー出てきてどうした? 一緒にお仕置きして欲しいの?

 まぁ、良いよ。

 あっ、レーナちゃんが来た。本当に繋がっているんだな。

 ……あれ? 私が次元転移した意味ある?


 ……

 ……

 ……

 偽造書類は雌豚が用意してくれた。こういうのは慣れているらしく、完璧だった。

 だから夕方までお仕置き頑張ったよ。あっ、手続きしないと。えっ、雌豚がもうやってくれている? 仕方ない…お仕置き増し増しだなっ!



 夕方、全て済ませてシャワーを浴びて、雌豚が用意したワンピース型の制服に着替え、地味メガネを装着して松田家へと向かった。あっ、化粧してねえや。


 ぴんぽーん。あっ、史織待ったー? なんて雰囲気じゃないけれど、普通に案内されてリビングへ。

 リビングには、ヘンリエッテとミズキ、松田ファミリーが居た。おうおう楽しそうだな。

 松田ファミリーは史織と史織パパと史織ママ、史織姉、史織弟。名前とか聞いていないんだよね……私が来て緊張感が顔を出している。まぁその方が良いか……良い家庭みたいだし。良い家庭ねぇ……


「お邪魔いたします」

「黒金おそーい」


「お嬢様の為に手続きをしていまして、遅れたのはお嬢様の手続きのせいですね。お嬢様の! もう一度言いますか? お嬢様の手続きで遅れましたよぉ!」

「すぅみませんでしたぁ! ありがとうございますぅぅ!」


「はい、解れば良いんですよ。では……こちら詰まらないものですが」

「えっ、あぁ、ありがとう」


 詰まらないものですがと言いながら渡すのが礼儀と雌豚が教えてくれたので、意味も分からず史織パパにお菓子を渡してみた。どうやら正解らしい。


「お時間を作っていただき、ありがとうございます。あと、先日時間を戴いたお詫びもかねて、勝手ながら夕食は用意させていただきました」

「えっ、良いのに良いのに! うわぁ、なんか申し訳ないわね……」


 雌豚とムルムー特製重箱を史織ママに渡した。中身は色々……うん、食材がアラスなのは見なかった事にしよう。一応私の作った懐かしのレインボーシュガーのデザートは入っている。

 ふっふっふ……食べて何人泣くかなぁ。


 さて、私はどこに座れば良いんだ?

 テレビが観られるソファーには史織三姉弟とヘンリエッテとミズキ。近くの椅子には史織ママと史織パパ。

 空いているのは、椅子か床か。床一択だな、正座でよっこいしょ。


「さて、少し聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「……あの、その前にどうして床に座るの? ここ空いているわよ…」


「いえ、お嬢様の立場がそこである以上私の座る位置はここしかありません。史織パパさん、史織さんからアスターに行った事があると聞いたのですが、女神様について何か知っている事はありますか?」

「……少しね。何が知りたいんだ?」


 警戒すんなよ……ちゃんと言うから言うから。

 こう注目されると悪戯心がニョキっと出て来てしまうな……しっし。


「今度フラマフラム様と戦う事になったのですが、どんな戦い方か知っているかな、と思いまして」

「……は? 戦う? なぜ?」


「妹を助ける為、夢を叶える為に戦う必要があるのです。他の女神様でも良いのですが、知らないのなら特に用事はありません」

「いや、少し、なら」


 なんか動揺しているな。直球過ぎたかね。でもこの家族団欒の雰囲気から早く脱出したいんだよ。絵に描いたような幸せな家庭過ぎて拒否反応が凄くてね……王女時代はこれを無理して演じていた訳だからさ。


「では、教えて戴けますか?」

「あぁ、分かった。でも、君の事も教えて欲しい…その姿も本当の姿ではない筈だ」


「私は言っても構いませんが、良いんですか?」

「子供達には、僕が帰還者なのは言ってある。異世界が存在する事も…だから君が女神だろうと信じてくれるさ」


「ふーん、そうですか。私は女神ではありません、女神が守る者です。因みにお嬢様とミズキさんはただの人間ですので、社会的には私の立場の方が断トツで上です」

「黒金……まだ根に持っているんだね…」


「……女神が守る、だって……本当、なのか」


 私の正体に気付いたかな。別に言っても私の星生に影響はないからね。

 女神が守る者だから、私は女神より偉いんだぞー。ひれ伏せー控えおろー。

 史織パパの動揺が強くなったな。考えに没頭しないで早く教えてよー、帰りたいんだよー。

 それ以前にパパさんがどんな人か知らんぞー、アスターで何をした人なんだー、転移者かー? 教えろー。あっ、アスターならママンかノワールさんとかが知っているかな? 聞いてみよー。というか今聞きたい……今聞きたい。


「本当の姿は見せたいのですが今日すっぴんなので駄目です」

「…黒金いつもすっぴんでしょ。ミズキ、黒金が早口になってきたから帰りたそうだよ」

「仲良し夫婦を見るの苦手だもんね」


「ミズキ、黒金って何者、なの?」

「んー……変わり者、かな」

「うん、変わり者だね。この状況でも頑なに私のお嬢様設定に忠実だし……」


 ソファーは和やかだなぁ……史織は私に興味がありそうだけれど、姉はニヤニヤしながらヘンリエッテの髪型を変えるのに夢中だ。マイペースだね。

 弟君よ、ヘンリエッテが気になって仕方ない感じだけれど緊張して喋られない感じだな。好きって言っちゃえよー。全力で邪魔しちゃうぞー。イケメンマウンティングしちゃうぞー。


「え、本当はお嬢様じゃないの?」

「本当はあっちの国の王女様」

「ミズキ言わないでよー」


「えっ、凄い……」


 ほらやっぱり王女はパワーワードなんだよ。姉はキラキラした眼で見ているし、弟はもっと緊張しているし。

 私の場合、私は星ですなんてみんな首を傾げるぞ。


「……昔の事を纏めた資料を持って来るよ」

「……」

「週末は公務があってね、忙しいんだー」

「どんな事をするの? どんな国?」

「お姉ちゃんちょっ、狭いよ」


 あれ?

 ママさんは重箱を開けて夕食準備……まさか、私はこの状況下でもぼっちなのか?

 もう一度みんなの視線を辿ってみる……ソファー組はヘンリエッテが中心になって話し始め、パパさんは二階でガサゴソしている……資料ったって私が自力で調べた方が確実だぞ。ママさんは盛り付けに一生懸命。


 これは、帰るチャンスなのか?

 正直アスターの女神について詳しく知っているとは思えないし……夕食は雌豚に頼むし。パパさんには悪いけれど……帰った時の反応が知りたい。

 そーっと立ってみる。

 私に視線を向ける人は居ない……

 よし、帰るか。転移。


「あらご主人さま、早かったですね」

「ぼっちになってチャンスだと思ったから帰ってきた。失礼だとは思ったけれど、私の悪戯心が勝ってしまった」


「いきなり帰って無礼なご主人さま最高ですね」

「だろ? あの二人は私がぼっちになったら帰る習性を忘れているからな」


 パンパンの裏マニュアルに、『アレスティアを独りにしたら何処かへ行ってしまう』という項目がある。

 これは私が集団の中でぼっちになったら直ぐに逃げ出す癖があるからだ。

 元々一人で出掛ける場合や数人で出掛ける場合は良いんだけれど、人数が多ければ多い程、私居なくて良いじゃん病が発病する。

 以前は大丈夫だったけれど、魂が分離した影響なんだろうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る