みんな登校中に見知らぬ美少女を見掛けても、話し掛けないから楽だね

 

 次の日、再び地球にやって来た。

 私の格好は相変わらず黒髪セーラー服に地味っ子という、目の前に居ても気付かれにくい地味さだ。

 そろそろ地味を卒業したい気持ちはあるけれど、私可愛いから地味の利点が多すぎるんだよなぁ。


 せめて私が気に入った人にだけ好かれる技って無いものか……話した事も無いほぼ初対面の人に告白されると困るんだよ。相手にとっては一世一代の決心な訳でしょ? その気持ちをごめんちゃいだけで済ませるって申し訳無い気持ちになるし、かと言って気を使って男子とデートなんてした日にはパンパンで暴動が起きる。暴動なんてレベルじゃないね……アラスが半壊して裏世界が大荒れして天異界を巻き込む大事件になるよ。天明とか覇道が暴れたなんて比にならないくらいの大事件……

 私が男子とデートするだけでこうなる確率が高い。ママンが私をラブ過ぎる問題は、今のところ大丈夫だけれど……


「……」

「あー、緊張する…」

「ミズキ学校頑張って!」


 前からミズキとヘンリエッテが歩いてきた。清々しい朝日に照らされる美少女二人はとても眩しいよ。ヘンリエッテの金髪が反射して私のメガネに突き刺さり、私のメガネだけが光って何か閃いた時みたいな悪い笑顔をする時みたいな感じになっている。

 なんか、話し掛けにくいオーラ全開だな。他の学生から注目されていてもお構い無しだし……

 ヘンリエッテは私服に着替えているし……パーカーにスカートとか、はいはい可愛いね。


「……」

「姫はどうする? 流石に学校は入れないし」

「実は琴美さんに街を案内して貰うんだー。昨日の夜連絡来てさっ」


「……」

「それなら終わったら合流しようね。なんか姫がスマフォ持ってると変な感じだねー、レティは過保護というか…」

「なんだかんだでアレスティアは私の事好きだからね!」


 いや、通り過ぎるなよ。

 わざわざ避けて行くなよ。

 ……えっ、本当に行っちゃった。

 他の学生に紛れてキラキラした二人の後ろ姿を眺めた。絵になる姿…注目されて今日の話題はこの二人という感じで…私の黒い感情が沸々と湧き上がる。


「……邪魔してぇ」


 ……ぼっちか。まさか地球でもぼっちになるとはな……いやまだこれはぼっちじゃない。どうすっかな。邪魔したら、観光でもするかなぁ…ムルムーと。

 とりあえず学校までは行ってみるか。雰囲気を味わいたいし……


「早く一緒に登校したいなぁ」

「レティが手続きしてくれるらしいけど、なんか不安だし」


 うーむ、ヘンリエッテが目立つな。ミズキの友達っぽい人も話し掛けるの躊躇っているし…登校途中の史織も話し掛けるの戸惑っているし。

 史織さんヤッホー。


「……あっ」

「おはようございます史織さん。昨日はしっかり怒られましたか?」


「うん…」

 そんな気まずい表情をされてもねぇ。なんか凄く眠そう…昨日夜遅くまで話し合いだったのかね?

 そういえば父親の事を聞いていなかったな。

 私がミズキ達に付いていくと、史織も隣を歩き始めた。


「史織さんは、これからどうしていきたいですか?」

「どうって…言われても…みずきに嫌われたし…」


「あれくらいじゃミズキさんは嫌いになりませんよ。あれでも死線は何度も潜っています」

「私、何も知らないな…お父さんみたいになりたいのに……」


「これから知る時間は沢山ありますよ。ミズキさんと触れ合う時間もね。そうそう、史織さんのお父さんはどの世界に居たか知っていますか?」

「アスター……って世界らしい」


 おー……アスターかぁ。ルゼルに女神について聞いてある程度予習はしているけれど、詳しく知っていたら嬉しいな。

 アスターの女神の武神装は、ルゼルでも中々見られないらしいし……次は勝ちたい。


「そうですか。じゃあ……学校が終わったら暇ですか?」

「う、ん。家で勉強するから……」


「史織さんのお父さんに聞きたい事があるので行きますね」

「……わかった、お父さんに連絡しとく」


 よし、夕方の予定は決まった。

 これから暇だな……ヘンリエッテに付いて行くなんて私の脆いプライドが許さない。ミズキの学校の様子を眺めてもどうせ悪戯したくて場を荒らしてしまう。

 やっぱりヘンリエッテみたいに私も目立ちたい。

 という事で地味メガネを取ろう。

 おっ、私にも視線が行った。元々史織にも視線があったからね。


「……えっ…うそ……」

「お嬢様が目立っているので邪魔しようと思いまして、手…繋いで良いですか?」


「う、うん……ど、どういうこと?」

「なんとなくですが……あの二人の邪魔をしませんか? あのキラキラしたキャッキャウフフな感じ腹立ちません?」


「……ぅ」

 笑い掛けてみたけれど、まだ混乱している。文明は発展しているから地味メガネくらいあるでしょ。

 まぁ良いか。ヘンリエッテにそろそろと近付き、後ろから抱き付く。


「旅行雑誌買おうね。それでね──ひゃ!」

「だーれだ」


「ちょっ、アレ…黒金、いきなり抱き付かないで…えっ、メガネ外したの?」

「あっ、おはよー」

「はい、おはようございます。まぁ年頃の学生に美少女を拝ませてやろうというサービスです。お嬢様、昨日はお楽しみでしたね」


「ばっ! 普通に寝たよ!」

「普通に? 寝た部分を強調して何を想像したんですか? ただのお泊まり会ですよね? 純粋無垢な私に教えて下さい」


「そうだよ! 恥ずかしいからやめて!」

「私に黙って観光しようとした罰です。お土産よろしくお願いします」


「いや、黒金も来てよ」

「なぜですか? 私は誘われていません。悲しいから断固拒否します」


「ミズキー黒金が拗ねたー」

「それは姫が悪いでしょ」


 そうそうヘンリエッテが悪い。決まった時点で連絡しないからね。

 だから私は行かないよ。


「あの…みずき、昨日は、ごめんね」

「あー気にしないで。黒金がご機嫌だから水に流そう、うん」


「……ありがとう」

「みずきー! しおりー! おっはよー!」


 昨日案内してくれたあすかさんが来たので、ヘンリエッテの横に立って一礼してみると、あすかさんが目をパチパチさせて私を見ていた。


「昨日はお世話になりました。お嬢様は大変喜んでいましたよ。お嬢様は」

「……えっ、黒金さん? かっわいーー!」


 抱き締められた。しゃんぷーの匂いが良いね。朝風呂派か。


「こらあすか、いきなり抱き締めちゃ駄目」

「あっ、ごめん。つい可愛くて……いやぁ、こんなに可愛い人見るの初めて……良い匂い…凄い」


「ありがとうございます。お嬢様が可愛い可愛いと言われているのを見ていると、ついその絶対数を減らしてやりたい衝動に駆られまして、素顔にて失礼致します」

「ヘンリエッテちゃんと並んだらアイドルみたい…うわぁ可愛い! 史織もそう思うでしょ!」


「う、うん……なんか、悔しいくらい」

「悔しいなんて次元が違うよ! 学校に居たら男子全員惚れちゃうね!」


「お嬢様はみなさまと同じ学校に通う予定ですので、よろしくお願いしますね」

「ほんとっ! やったぁ!」


 元気があって新鮮だね。

 ヘンリエッテは可愛いの範囲でしか騒がないし、ミズキは中身おば…お姉さんだし、史織は傷心中だし、私は夜型だからね。


「黒金も通おうよー」

「私は忙しいので通いません。遊びには行きますがね」


 忙しいんだよなぁ……忙しいという言葉は適切ではないと思うけれど。

 地球観光に、パンパンのみんなとの交流、お友達とデート、ママンと旅行、ジョーカー試練に幼女の世話。私の身体が幾つあっても足りん。もう一人の私の覇道は修羅の世界で戦闘中……新しい身体でも作るか? いや、作ってもみんなが納得しない。

 せめてジョーカー試練が終われば予定を立てやすいけれど……


「あっみずき、新田がいるよ。昨日どうだったの?」

「昨日?」


「ほらぁ、されたんでしょ? こ、く、は、く」

「あぁ……そうだったね」


「なになに? 良い感じだったじゃん」

「あー、そうだったっけ。はははっ」


 そういえばミズキは告白されていたんだっけ。どうせ断るだろうし……いや、もしかしたら断らないのか? 日本に帰れた訳だし、ノーマルな部分もある……

 いやそもそもあの男子とミズキじゃ精神年齢が違い過ぎるから断るか。

 話していると、もう学校に着いてしまった。

 ここでミズキ達とはお別れ。

 ヘンリエッテと松田家に向かう事にした。


「私みんなと馴染めるかなぁ…不安だよぉ」

「見る限り余裕だよね。勉強していないのヤバいーって言っていた癖に高得点取る奴みたいであざとくて可愛いね。まぁヘンリエッテは王女の公務もあるし、週四が限度じゃない?」


「え、でも週五授業じゃないと卒業出来ないらしいよ」

「そうなの? じゃあ週末王女か。なんかそれはそれで格好良いから駄目」


「なんで? 忙しいだけでしょ」

「週末王女だよ? 休みの日何してるって聞かれて王女って答えるんだよ? 格好良いじゃん」


「日本人から見たら痛い奴じゃない?」

「そう? 私なんて週末幼女と寝ているかママンと旅行だよ。響きが普通過ぎない?」


 やっている内容は凄いよ。週末は女神と一緒に寝て、女神と旅行に行って、世界を渡る。

 でも週末王女の方がパワーワードっぽい。


「着いたね。じゃあ夕方に来るから」

「えっ、本当に一緒に行かないの?」


「行かない。イッきゅんの家を確認して、私とヘンリエッテの身分証やらなんやらを作ったりしないといけないからね。行ってらっしゃい」

「それ言われると凄く行きにくいから……」


「じゃあ松田家と良い関係を築いてきて。ヘンリエッテの得意分野でしょ」

「まぁ、そうだけれど……」


「私は苦手だから、期待しているよ。ちゃんと出来たら、ご褒美あげる」

「うん! 頑張る!」


 ちゃんと可愛がってあげるよ。

 先ずは、イッきゅんの家に行ってみようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る