子が子なら親も親か……?
ちょっと薄暗くなってきたな。
……ん? ここら辺ってイッきゅんの家の近くだ。
「この家ですか?」
「……ぅん」
「この刀返しておきますね」
「……良いの?」
「はい、ここに案内してもらう為の口実ですから」
お腹をさする史織がコクリと頷いた先は、良いデザインの大きな家。松田の表札が豪華だ…お金持ちなのかな。
敷地内に入り、玄関の鍵を開けると、広めの吹き抜けホール。ふむ、玄関広い。
「……ただいま」
「おかえりー。あれ? お友達?」
出て来たのはエプロン姿の……お母さんかな。史織に似ている黒髪ロングのお姉さんみたいなお母さん。恐らく四十代だろうけれど、見た目は若いのう。魔力はほとんど無いし普通の感じだけれど……父親の影響か。
「突然押し掛けて申し訳ありません、史織さんのお友達の黒金と申します」
「いえいえ良いのよ、時間あるし……折角だからお茶飲んでく?」
「はい、お邪魔します」
「……」
史織がこいつ家に入るのかよという視線を向けたけれど、入るよ。人の家って中々入る機会無いし…まともに行くのってアース城かミーレイちゃんの家くらいだからね。
リビングのソファーに座ってみると、快適だなぁ……高い物に溢れている。迷宮で手に入る物もあるという事は……地球にも迷宮があるんだな。
行ってみたい……機会があれば聞いてみよう。
二階には二人居るところをみると、兄弟かな。魔力は史織が一番高いし、史織は強さで言ったら、Cランクの魔物なら普通に倒せそう。きっと同世代に敵無しの人生だったんだろう……ショックが大きい感じ。
おまけにミズキも取られて、絶望と絶望の狭間に居そうだ。
「いやぁ、大きいお家ですね。私の家と全然違います」
「旦那のお蔭よ。黒金さんは近くに住んでいるの?」
「いえ、結構遠いので近々この近くにある親戚の家に間借りさせて貰う予定です」
「じゃあご近所さんね。史織、これ運んで。史織? 大丈夫?」
「……うん」
史織さんよ、いつ私からさっきの話をされるか戦々恐々だろう。ふっふっふ、人の弱みを握るとどうしても悪戯したくなるねっ。
睨まれながら緑のお茶とお菓子を出され、一口…このお茶香りが良いな。
「……美味しいお茶ですね。名産地のお茶ですか?」
「貰い物よ。京都のお茶ね」
「へぇ…京都か。京都ってどこ? ……お礼に私の好きな紅茶を持っていますのでどうぞ。ちょっと待って下さい」
「あらありがとう、どこの紅茶?」
ガサゴソ…流石にただでお茶を貰う訳にはいかんので、適当に可愛いカンカンに入った紅茶をあげよう。ルゼルの紅茶だから…裏世界産? あ、書いてあるわ。
「えーっと…アスターのロドニア産ですね。結構有名なやつでしたがどうぞ」
「……えっ。ごめんもう一度言って」
「アスターのロドニア産ですね」
「アスターって……あのアスター?」
……ん? お母さんアスター知ってんの? そりゃあ天異界同盟序列一位だから地球でも有名か。貰い物で沢山貰っているから失礼だよね。
どうすっかなー。
「すみません、流石にアスターの紅茶はベタでしたね。ルビアのファー王国産はどうですか? 中々香りが良いですよ」
「……あの、あなたもしかして……」
「はい、紅茶にはうるさいですよ」
「いや、そうじゃなくて……ちょっと待ってね」
お母さんがスマフォに手を掛け、ぽちぽち。
地球はみんな持っているから凄いよなぁ。恐らくスマフォ教育も国でやっていて凄いんだろう。
史織もスマフォ片手にミズキの連絡を待っているみたいだし。
睨むな睨むな。
「史織さん、言っておきますけれど私達はミズキさんの味方ですよ」
「……信用出来ない」
「まぁ、信用されなくても良いです。私は……ん?」
なんだ? 次元の歪み……これは、誰か転移してくる。
「……何者だ」
私の背後に、誰かが立った。
恐らく、史織の父親。剣をいつでも振り下ろせる体勢……
いきなり殺す気満々だなぁ…似た者親子かよ。
「あなたやめて!」
「二人とも下がっていて! 僕に任せて!」
「……私は黒金と申します」
「僕の家族に何をした」
「何も。お転婆な娘さんのご両親を見てみたかっただけです」
「嘘、だな。史織が怖がっている。それに魔力がゼロの人間なんて居ない……正体を見せろ」
そりゃ父親が急に現れて人殺しそうになっていたら怖いだろ。
なんか、正義感溢れる感じが苦手だな。話は聞いて貰えないだろうし、地球人は意外と野蛮という事が解っただけでも収穫か。
不審者が家に居たら家族を守りたい気持ちは解るけれど、ね。
その剣を振り下ろしたら、たとえミズキの友であろうと私は敵になるよ。
「ふふっ、史織さん良いんですか? 私が死んだらミズキさんに一生嫌われますよ」
「惑わされるな!」
「……お父さん…やめて」
「あなた…お願い、やめて…悪い子じゃないの」
悪い事は言わんからやめれ。
ママンが来たら全員死ぬぞ。瞬殺というか日本が消える。
とりあえず斬られる前に振り返って、父親に向かい合う。ふむふむ、地球人にしては強過ぎる。ミズキと同じ帰還者…かな。
迷っている様子だけれど、その剣じゃあ私は殺せない。
「無抵抗の者を斬りたければどうぞ。私は避けませんよ」
「……目的はなんだ」
「目的? それは本日、白雲水城さんと女子会をする予定だったのですが、史織さんに刀で斬られましてね。こんな物騒な子供の親の顔が見てみたいと思い、家まで押し掛けた次第です」
「……は?」
「では証拠に、撮影していた物をお見せしましょう。ムルムー」
「……御意」
白い壁にさっきの映像を流してやった。
ムルムーは最初から居たよ。私の専属撮影女神だからね。
『帰って……来たんだ。あれ? 学校?』
『これ隠れた方が良いですよ』
『あっ、あれって……』
おっ、いい感じに撮影されているね。ママンへの献上品だから気合い入っている。
「……この映像は?」
「私が地球に来た記念日映像です。説明しますと本日、白雲水城さんは天異界同盟序列二十位アラスという世界へと転移しました」
「嘘っ! みずきはさっき居たもん!」
「あのミズキさんは、十年後のミズキさんです」
「十年後? どういう事だい?」
「十年、必死に生き抜いたミズキさんを、本日この街へと帰してあげました。私の目的は、もう終わっているんですよ」
「……」
「……なるほど」
史織はきっと父親から他世界の事を聞いているんだろうね。
……上映中。
……上映中。なんか私がぼっちなの強調されてね?
……はい、この家に着いた映像で終わり。
映像と共に補足説明を終えると、父親は警戒しながらも謝って剣を納めた。
まぁ解ればいいんだよ。
私は被害者だぞっ。
因みに史織は母親に絞られていた。最初から流したから、すっかり夜だよ。なんか夕食の時間潰してすまんね。
二階から様子を見に姉っぽい子と弟っぽい子が覗いている…やっほー、アスティちゃんだぞー。まっ、気になるよね。関わるとヤバイ事は解るみたいだから、史織よりは賢い行動だと思うぞ。
「黒金さん、本当に、ごめんなさい」
母親は泣いて謝ってきた。娘が人を斬るんだから。ぽふぽふだけれど……
「……ごめんなさい」
史織も反省しているみたいだけれど、危険なのは変わりないよなぁ。
「姫さま、ミズキさん総集編でも流します?」
「姫言うな。じゃあ折角だし、何かつまみながら……」
──ピンポーン。
何か鳴った。母親が行くと、おっ、丁度良い所にミズキとヘンリエッテが来た。タイミングいいな……あっ、ムルムーが呼んだのね。
「お邪魔しまーす! 黒金、迎えに来たよ! あっ、お久し振りですー……なにこの空気…」
「丁度良い所に来ましたね。今からミズキさん総集編を流す所です」
「えぇ……まじやめて……」
「見たい見たーい!」
「という事で史織パパさん、良いですよね?」
「あぁ。……みずきちゃん、大変だったね」
「まぁ、そうですねぇ…こうして帰って来れたんで」
ちゃんと撮ってあるから安心して。ヘンリエッテもおいでおいで。
『いらっしゃいませー!』
パンパンで働くミズキ。
「ちょっ! 恥ずかしいからっ!」
「ミズキ可愛いー」
「ミズキさんはホールスタッフで最年長なので、ある意味目立ってファンが多いんですよ。因みに背景に居る銀髪の超イケメンはミズキさんの好きな人です」
「えっ……好きな人……」
『勝負あり、ですね』
『……くっ、参りました』
騎士の訓練をするミズキ。
「これいつの間に撮ったのさ…」
「ミズキ格好良いなぁー」
「アース王国という所で訓練する様子で、この騎士さんはミズキに惚れています。因みに背景に居る銀髪美少年が見ているので、かなーり張り切っています」
「みずき…恋、して…」
『きゃー! ミズキ様ー!』
帝都の女子達に手を振るミズキ。
「あぁこれ美少女グランプリの時だ」
「無茶苦茶だったよね…黒金のせいで…」
「この時のお嬢様は可愛いかったので完全カットです」
「……」
『わっちな…明日仕事あんねん』
目の死んだ幼女を抱っこするミズキ。
「「……」」
「あの幼女はアラスで一番偉い幼女です。あの死んだ目…可愛いですよね」
『いやぁぁ! きもぉぉぉいぃぃ!』
魔物と戦うミズキ。
「あっ、エライザの迷宮だ」
「ここの魔物異常だったね…」
「流石にこの迷宮は私が封印しました」
この後はパンパンの店員さんにプレゼントを貰って泣くミズキ。ヘンリエッテと地球に帰れる事を泣いて喜んだミズキ。若返ったミズキ。
良いね良いね。ヘンリエッテがわんわん泣いているくらい良い感じの編集だよ。ムルムー、後でご褒美やろう。
「もう一度言いますが、ミズキさんはアラスという世界で十年の時を過ごし、本日帰還したという事です。史織さん、これで解って貰えました?」
「……ううっ、わだじ、ばかだ、ううううっ!」
解ってくれたなら良いさ。
……うん、なんか無駄な時間を過ごした気がするけれど、考えないようにしよう。
一応打ち解けたとは思うけれど……この微妙な雰囲気は苦手だ。
ん? たぶれっとに連絡が来た。
「では、私は門限があるので帰りますが……お嬢様はどうします?」
「私はねえ……ミズキの家に泊まるの!」
「はい、じゃあまた明日。皆さんもお休みなさい」
「えっ、ちょっとレティ…」
次元転移!
もう疲れたからね。
その後の話はヘンリエッテとミズキに丸投げだ。私がいると拗れるし…
謝っていたけれど、警戒している感じはあったから。
「姫さま、てっきり史織さんをお持ち帰りすると思っていました」
「何言ってんの? 誰がどう見てもミズキラブだったじゃん」
「甘いですねー。史織さんにとってミズキさんは恋愛対象というより、妹に似た存在ですよ。幼馴染でずっと守ってきた存在が、自分の知らない所で成長していた訳ですから悲しみに暮れていそうですねー」
「それで私にどうしろと?」
あっ、消えやがった。
どう見てもミズキラブじゃん。ヘンリエッテと争ってくれたまえ。
「あっ、アスきゅんどうだった?」
「なんか疲れました。地球って割と危険なんだと思いました」
「んー? それならマッサージしてあげりゅね」
「あっ、お願いします」
…………
…………
…………あっ、天異界本部から連絡だ。
もう少しで、アスターの女神と戦うみたいだな。
明日はまた地球に行くか…
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